27話:その可能性は否定できない
「あ、あの……」
そこで馬車で待機していた従者に声をかけられた。
心配して追いかけてくれたようだ。
診療所にベッドはなく、入院はできない。皆、診察してもらうと、自宅へ帰ることになる。よって従者には、そのまま馬車で待機をお願いしようとすると……。
「それでしたらお屋敷へお連れした方がいいのではないでしょうか。自分は馬車を拾い、お屋敷へ報告に行きます。お二人は乗って来た馬車で、病人を連れ、お屋敷を目指すのがいいかと」
それが最善に思えたので、そうすることにして、従者には屋敷へ戻ってもらうことにした。
「お二人さん、診察が終わりました。もう流行は終わったのに、冬にかかる重い風邪を引いたようです。熱さましの薬を飲ませてもらい、処方も受けることになりました。これから支払いです」
診療所の窓は、換気のために開けられており、そこから画廊のオーナーが声をかけてくれた。そこで以前話した、ラスペルバの作品に興味を持つ、ウェリントン公爵の設備が整った屋敷で看病することを提案すると……。
「え、それは……大変ありがたい申し出です。ですが……。今ラスペルバは、熱でぐったりしています。しかし目覚めたら大騒ぎしそうです。そうなれば屋敷の持ち主であるウェリントン公爵に、迷惑をかけることになるのでは!?」
その可能性は否定できない。
ただ、元々保護するための用意をしていた。
屋敷には沢山の使用人もいるし、滋養のある料理を用意してくれるだろう。
看病という観点から考えても、絶対にウェリントン公爵の三番目のタウンハウスがいいと思えた。
一応、画廊のオーナーに、アトリエの上階のラスペルバの寝室がどんな状態かと聞くと……。
「そうですね。……掃除は全然本人がしないので、月に一度、人を雇い掃除しています。後は自分が訪問した際、ごみを捨て、軽く箒で掃くぐらいでしょうか」
「寝具の洗濯は?」
マルシクが尋ねると画廊のオーナーの目が泳ぐ。
「……その月に一回の清掃で……洗濯も……」
お世辞にも清潔感溢れる寝室……とは言えないようだ。
そこで療養するより、絶対にウェリントン公爵邸に行った方がいいだろう。
そこは私から畳みかける。
「ラスペルバ様は高齢ですよね? 適切な看病をしないと、万一のことも起こるかもしれません。清潔なお部屋を提供してもらい、沢山の使用人による交代制の看病を無料で受けられるのを、みすみす見逃さない方がいいと思います」
「うっ、それは……でもその通りですね。ただ、暴れると手に負えないので、その時は騎士さま、あなたがしっかり止めてください!」
画廊のオーナーの言葉にマルシクは「分かりました」と応じる。
この後、支払いをしている間に馬車を診療所の前まで移動させた。
そしてマルシクと画廊のオーナーの二人がかりでラスペルバを馬車へ乗せ、出発となった。ラスペルバをウェリントン公爵の屋敷へ連れて行く件は、内密にするよう、画廊のオーナーには依頼済み。
馬車の中で横になるラスペルバは、熱さましの薬を処方してもらい、なんとか飲み込んだようだ。熱に苦しむような表情が、和らいでいた。
そしてウェリントン公爵の三つ目のタウンハウスに到着すると……。
ヘッドバトラーとメイド長であるセフィナが、万全の体制で迎えてくれる。
あの従者がきちんと伝言をしてくれたようだ。
ヘッドバトラーの指示で、複数の従者がラスペルバを馬車から下した。
急ごしらえだが担架が用意され、そこに寝かされたラスペルバがエントランスホールへと運ばれて行く。
この時、セフィナはしっかりラスペルバの姿を見ている。
髪と髭は伸び放題で、顔はよく分からない状態。
入浴の頻度は分からないし、熱で汗もかいている。
一切の身支度を整えることなどできていない状況だった。
そんなラスペルバの様子を見て、セフィナは……。














