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2話:いきなり絶体絶命

 婚約破棄され、断罪され、そこで覚醒し、いきなりの死亡フラグ。

 なんのために私は覚醒したの!?

 これなら覚醒せず、昇天する方がましだった。


 その時の私は走馬灯の代わりなのか。

 悪役令嬢メリディアナ・リズ・アンブローズ、その人のことを思い出していた。


 メリディアナは、自身の婚約者に手を出すヒロインを心底憎んだが、そもそもは才色兼備。


 シルバーブロンドにアメシスト色の瞳、そして真珠のように潤い艶のある肌をして、小顔でスタイルは抜群。生徒会副会長を務め、品行方正で成績優秀な公爵令嬢だったのだ、ヒロインが現れるまでは。


 ヒロインのせいで、人生を狂わせることになったに過ぎない。


 いくらゲームの中で輝くべきはヒロインだったとしても。

 悪役令嬢に少しくらい優しくしてよ……!


 そこでハッとする。


 メリディアナは才色兼備、そして公爵令嬢として乗馬、そして護身術の一環で剣術を嗜んでいた。


 間に合うのか。


 でも倒れている兵士が腰に帯びている剣の柄を掴んだ時。


 水に香りはないのに。

 前世では香水に、“アクアの香り”が存在していた。

 みずみずしいレモンのような柑橘系の香りに、少しの甘い薫り。

 “アクアの香り”、それは水辺を思わせる爽やかな香りだった。


 その香りに全身を包まれたと思ったら……。


 バチッという破裂音に近い音と、パラッという音が聞こえた。

 閉じていた目を開け、息を呑む。


 きりっとした眉の下の、鋭く澄んだ碧い瞳。

 ぐっと引き締められた唇。

 素早い動きを受け、サラサラと揺れるブロンドの前髪。


 鼻の高さが際立つ、整った横顔。


 ヒロインの攻略対象の一人であり、王立騎士団ルミナスの団長、エリダヌス・ロイド・ウェリントン! 推し、私の推しだ……!


 リアルな推しに出会え、彼の香水までかげた!

 興奮で鼻血が出そうになるが……。


「君は死を招く女です。本当に恐ろしい。助ける必要などない命ですが、偶然通りかかることになりました。しかも裁きを受ける前。仕方なく救ってやったに過ぎないこと、肝に銘じてください」


 そう言うと、氷点下のように冷たい眼差しでチラリと私を見る。

 そして推しは、立ち上がり、鞘に剣を収めた。

 そこで彼の口が動く。衛兵を呼ぼうとしている――!


「待ってください!」


 抱き着くことで、推しを驚かせ、衛兵を呼ばせないようにした。

 前世ゲームをプレイ中。

 ヒロイン目線で見た推しは、限りなく優しかった。

 だが私は悪役令嬢メリディアナ。

 罪を問われ、婚約破棄され、卒業記念舞踏会の会場から連行される途中だったのだ。


 推しがゲームでは見せたことがない冷たい表情と態度と言葉で私に接するのも……仕方ないこと。


 だが。


 そこで悲しんでいる暇はない。

 さっき命を落としたルクルドは、証人がいると言ってくれたのだ。

 つまり、私は無実!


「ウェリントン団長、聞いてください! ルクルドは、私の無実を証明できる人間を見つけたと言っていました。お願いします、私の無罪のために、協力してください」


「……この期に及んで戯言を。見苦しいです。公爵令嬢としての誇りはないのですか?」


 容赦ない推しの冷え冷えとした言葉に、泣きそうになる。

 大好きだった乙女ゲームの世界で覚醒したのに。

 いきなり推しからこんな風に冷たくされるなんて……。


 心は折れそうになるが、このままでは絞首刑になってしまう。

 必死に頭を働かせる。


「ここは宮殿です。しかも今日は学園の卒業記念舞踏会が行われているのですよ。そこで宰相の息子や兵に矢を向けるなんて、ただ事ではないですよね!? ウェリントン団長であれば、宮殿の警備体制がどれ程のものか分かっているはずです。賊の侵入をそうたやすく許すはずがない。団長自身も、見回りをしていたのではないですか!?」


 つまり手引きした人間がいる可能性を示唆したのだけど……。

 エリダヌスはその瞳を細め、私を見た。

 そして皮肉をたっぷりでこう告げる。


「宮殿の警備について、素人の公爵令嬢ごときが、口出しをしないでいただきたいですね」


 強気の姿勢を崩さないが、彼の瞳は今も周囲を窺っていた。

 私を狙った何者かは、その矢を推しに防がれると、すぐに撤収している。


 ウェリントン団長は、彼の地位を示す時、純白の装備を身にまとう。

 着ている軍服からマント、革のブーツまで白で、装飾品はゴールド。


 だが今は、一人の騎士と見分けがつかないように、スカイブルーの隊服で、濃紺のマントを着用していた。


 一気に四人を正確に射貫いた賊が、一人の騎士の登場だけで、即撤収するのはおかしい。


 これは明らかに推しが誰であると分かり、引いた可能性が高かった。


 推しは戦場でも公式行事でも、甲冑で兜という姿で動くことが多い。

 よってその素顔を知る者は、意外と少ないのだ。


 ゲームにおいても「わたしの素顔を知る令嬢レディは、あなただけです」とヒロインの耳元で甘くささやき、プレイヤーの女子たちを悶絶させている。


 つまり賊は内部の人間の可能性が高いことを、これまた示していた。さらに事前に推しの情報を得て動いている。つまりは宮殿内で遭遇したらヤバい人物を、襲撃者達は予め把握していたということ。


「狙われたのは私ですよね? 後の皆さんは私の巻き添え。断罪され、連行される私を、なぜここで害する必要が? 何かあると思いませんか? このまま黒の塔へ向かったら、逃げ場はないです。裁かれる前に私は……害されるかもしれません!」


「そうですか」「えっ……」


「死を自覚し、少しはまともに戻ったようですね。だが遅い。既に賽は投げられました。幾度かの警告を無視したのに今更、死を恐れるなど笑止千万。公爵令嬢としての誇りがあるなら、潔く死を受け入れてください。自分の罪を贖うしかありません」


 推しのこの言葉。取り付く島もない。

 ゲームでは常に高潔で、騎士道精神に溢れるウェリントン団長だったのに。

 悪役令嬢に対しては、ここまで辛辣だったの……?

 心が……折れる。

 いや、ダメ。

 せっかく転生していると気づけたのだ。

 全てが詰んだ後ではあるけれど。

 生きたい、私は!


 それに彼は私を……メリディアナを犯罪者だと思っている。

 だから冷たいんだ。


 歯を食いしばる。そして――。


「ウェリントン団長。私に協力いただけないなら、あなたの秘密を公にします」

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