11話:抱かれたい男ナンバー1
翌朝目覚めた時のこれは、私にとって嬉しくもあり、苦行の極みだったと思う。
メリディアナは寝相が悪いわけではないと思うのだが、目覚めるとすぐ横にエリダヌスの姿が見える。つまり。禁断のエリアに足を踏み入れてしまった。
お、推しの寝顔を見てしまったのだー!
閉じられた睫毛の長さ。
規則正しく呼吸をする様子。
無防備な表情。
弛緩した様子の手足。
もうどれをとっても激レア!
ファン垂涎もの。
というか、その全てが尊く感じる……!
もはや両手を合わせ「眼福です」と拝んでいると。
パチッとエリダヌスが目を開けたのだ。
ここはエリダヌスが驚き、悲鳴を上げる場面。
ところが私が悲鳴をあげそうになり、彼に手で口を押さえられることになった。
「他のお客様の迷惑になりますよ」
エリダヌスの言う通りだった。
しかも図々しくも眠るエリダヌスを眺めていたのは私であり……。
私が叫ばないと分かったエリダヌスは、そっと私の口から手を離す。
そしてクスリと秀麗に笑った。
再度拝むように手を合わせ、眺めると。
「何なんですか、そのポーズは? わたしが大天使にでも見えるのですか?」
それはまさに言い得て妙だ! その通りなのでこくこくと頷く。
するとエリダヌスは体を動かし、仰向けになり、大きく息を吐きながら、髪をかき上げる。
「……本当に。調子が狂います」
「ごめんなさい。その……つい、あまりにも寝顔が美しくて」
「……見惚れていたのですか?」
その碧い瞳を向けられ、尋ねられると、心臓が止まりそうになった。
変人のように思われている。絶対に。
「申し訳ありません。その……異性の寝顔を見ることがありませんので、つい……。あ、後、昨晩はありがとうございます。気持ちがとても楽になり、ぐっすり眠ることができました」
そう言いながら、上半身を起こし、逃げるようにベッドの端へ向かおうとすると。
ふわりと後ろから抱きしめられている!?
あのアクアの香りがふわっと広がり、胸がキュンキュン高鳴る。
「爆睡していましたよ、公爵令嬢とは思えない程のいびきをかいて」
「えっ!?」
「冗談ですよ。それに当たり前ですよね。未婚の公爵令嬢が、異性の寝顔を見慣れていたら、大問題では?」
おっしゃる通りですが、なぜ突然、抱きしめるのでしょうか!?
そこでガタンと大きな物音がして、ビクッと体が反応した。
見るとマルシクが目覚め、足がローテーブルにぶつかったようだ。
ため息が聞こえ、エリダヌスの体が離れる。
「え」と大変残念そうな声を出しそうになり、慌てて呑み込む。
「起きますよ、リズベルト様」
こちらに背を向けたままエリダヌスが静かに告げた。
◇
起床後、この世界で初めて男装をすることになる。
私が顔を洗い終えると、エリダヌスとマルシクは二人して水場にこもった。
それぞれ顔を洗ったり、髭をそったりしている。
その間に私は、数少ない女性騎士が使用する、胸をつぶすような補正下着を身に着け、その上に薄手の下着、さらに白のだぼっとした厚手のチュニックにスモークブルーのズボンに履き替えた。
ズボンの太ももにマルシクが用意してくれたベルトを巻き、短剣も装備する。
見た感じ、それでちゃんとまとまっている。
水場から出てきたエリダヌスとマルシクに見てもらうと、「ちゃんと少年に見える」とお墨付きをもらえ一安心。と言っても今日の私はお留守番で、外へ出る予定は……ない。
するとそこで扉がノックされ、昨晩の娼婦二人、赤毛と茶髪のラサとラナが朝食を届けてくれた。エリダヌスとマルシクが着替える中、テーブルに料理を並べるのを手伝ったのだけど。
エリダヌスとマルシクは、ズボンは水場で履き替えており、今は寝間着の上を脱ぎ、二人とも白シャツに着替えている。その刹那、裸の上半身が見えてしまい、ラサとラナは「「きゃ~」」と大喜び。
でも二人が喜びたくなる気持ちは、分かってしまう。
だって二人とも、拝みたくなる素晴らしい体躯をしている!
贅肉のない引き締まった体で、当然だが腹筋は割れていた。
背筋もお見事!
秒で見えなくなってしまったのが、残念でならない。
「今、抱かれたい男ナンバー1よね」「同意!」
さすが娼婦なお二人。赤裸々な希望を口にする。
さらに私に対しても。
「駆け落ちと分からないよう、男装しているんですよね。なかなかお似合いで美少年に見えます。色男二人と男装したお嬢さん、そしてあたし達二人の五人で楽しむのも、たまりませんね!」
変なことを言い出すので、私は顔を真っ赤にするしかない!
それでもちゃんと手を動かし、朝食の用意は完了した。
「どうぞお召し上がりください!」
二人は昨日と同じように、給仕をしてくれる。
そしてこんなことをエリダヌスに尋ねたのだ!
「昨晩はどうなったのですか~? まさか駆け落ちしたお二人と、護衛騎士様の三人でお楽しみですか!?」
これを聞いた私はパンを喉に詰まらせそうになり、マルシクに背中を撫でられることになる。
三人の関係性について、私が考えた設定をラサとラナに話したと、エリダヌスとマルシクに伝え忘れていた!
焦る私に対し、ラサとラナは……。
「まあ。背中をそんな風にさすってあげるなんて! 最愛に対し、やはりお優しいわね」
「本当に。お似合いのお二人ですよね、護衛騎士様」
ラサとラナがエリダヌスに声をかけ、彼の片眉がくいっと上がる。
「ねえ、護衛騎士様。お熱い二人を見ていて、お寂しいでしょう。今晩、慰めて差し上げましょうか」
「二人でたっぷり愛してあげますわ」
ラサとラナが紅茶を注ぎながらエリダヌスに畳みかける。
私はもう背中に汗がだらだらだった。
現役の王立騎士団の団長を護衛騎士扱いしたこと、それは決闘申し立てられてもおかしくないと思えた。でも私と駆け落ち設定よりは、ましですよね!?
「!? マルク、紅茶、紅茶が口にはいっていないわ!」
顔を真っ赤にしたマルシクは、紅茶を飲んでいるつもりが、口の手前でカップを傾けており、中身はお皿の上に派手に落ちている!
「まあ、なんて初々しい反応!」
「なんだかベッドでのお二人の姿が想像できてしまうわね。絶対にお嬢さんがリードされていますよね?」
これにはマルシクはついに空のティーカップを落としそうになり、私がキャッチ。
エリダヌスはこの様子を……大変美しい笑顔で見守って……いた?























































