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この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜  作者: ちくわぶ(まるどらむぎ)
999年目
91/196

16 エスファニア様 ※エリサ




 ※※※ エリサ ※※※



「初めまして、『空の子』様。

エスファニアです。以後お見知りおきを」


―――憧れの方が私の目の前で動いていらっしゃる!


「チヒロと申します。

どうぞよろしくお願い致します、エスファニア様」


―――チヒロ様も上手に挨拶を返された!


――が。

そのチヒロ様を見て、何故か憧れの――エスファニア様は動かなくなった。


―――あれ?


チヒロ様も、どうされたのだろう?と思ったようだ。

不安そうな顔をされた。


「あの……何か。どこか私、おかしかったでしょうか?」


「――いえ。失礼致しました。

……チヒロ様。こちらこそ。どうぞよろしくお願い致します」


エスファニア様は思い直したように柔らかく微笑んで仰った。

それでほっとされたのだろう。

チヒロ様は私を見て笑った。




―――ああ。もう涙が出そう。


エスファニア様が目の前にいらっしゃる。

我が主人・チヒロ様と一緒にお茶を飲み談笑されている。

こんなお二人のお姿が見られる日が来るなんて……っ!


はじめは緊張されていたチヒロ様だったが、エスファニア様の微笑みに解されたのだろう。

すぐにいつもの様子に戻られた。


机に身を乗り出すようにしてエスファニア様に切り出す。


「エスファニア様。私、散歩がしたいです。一緒に行っていただけませんか?」


―――いや、ちょっと。いつもに戻りすぎです、チヒロ様。


「はい?………散歩……とは」


案の定エスファニア様も驚いていらっしゃる。

しかしチヒロ様は気にすることなく続けられた。


「《宮殿》中が見てまわりたくて。

レオンがエスファニア様とエリサが一緒なら許可すると言ってくれたので」


「それは。構いませんけれど」


「やった!ではよろしくお願いします、エスファニア様」


―――何か腑に落ちない。


確かに護衛が私一人では、チヒロ様は《南の宮》が見える範囲しか行かれない。


それは誰が護衛をしていてもそう。

それ以上離れた場所に行かれるなら護衛は二人必要なのだ。


エスファニア様は剣を置かれているとはいえ騎士だ。

しかも《伝説の女性騎士》。


だからエスファニア様がご一緒なら《宮殿》中を見てまわれる、と言うチヒロ様の言葉が引っかかったわけではない。レオン様が許可されたのも当然のことだし。


気になるのは―――チヒロ様の呼び方だ。


初対面の時、私はエリサ《ちゃん》。

それだけならともかくあのセバス様までセバス《ちゃん》だった。


なのにエスファニア様はエスファニア《様》。

人徳の違い?……いや別に。いいんだけど。


「では、どこか行きたいところはありますか?」


「馬!」


「はい?あの。馬って」


「馬が見たいです!できたら乗りたい!」


―――待て待て待て待て!


さすがに放ってはおけない。

私は口を挟んだ。


「歓談中に失礼します。何言ってるんですか!チヒロ様!危ないです!」


「大丈夫だよエリサ。

エスファニア様。こう見えて乗馬は得意です。なんなら木にも登れます!

あ、後で騎士さんたちの訓練場にもいっていいですか?

どんな訓練をされているのか見たくって」


「―――」


「――チヒロ様!乗馬が得意って何言ってるんですか!

馬になんて乗ったことないでしょう?」


「ああ、《今》はね。《昔》は三回ほど乗ったの。遊びで」


「………それでよく《得意》って言えましたね」


「だって褒められたの。筋がいいって」


「絶対、駄目です」


「えー。大丈夫だと思うんだけどなあ……」


「大丈夫じゃありません。やめてください。私が副隊長に叱られます」


「え、なんでそこにシンが出てくるの?」


「副隊長に言われてるんです。チヒロ様を馬と訓練場と厨房には近づけるなと。

必ず行きたいと希望されるだろうからと」


「……なんでシンは全部お見通しなの」


「当然でしょう。

以前、副隊長の屋敷にお邪魔した時、その三箇所に突撃したのをお忘れですか」


「ぐっ。………シンったら。別にいいじゃない。見たいのに」


「駄目です。絶対見るだけじゃ済ませませんよね?」


チヒロ様は頬を膨らませた。


「楽しみにしてたのに。じゃあどこなら行ってもいいの?」


「………あの」


声をかけられて身体が跳ねた。

慌てて謝罪する。


「も、申し訳ありません!見苦しいところを。エスファニア様」


「いえ。楽しく聞かせていただきました」


―――え、楽しく?


一瞬言葉の意味を疑ってしまったが、エスファニア様は本当に楽しそうに笑われていた。


そして提案された。



「行き先がお決まりでないようでしたら私に任せていただけませんか?

―――是非、ご案内したい所があるのですが」




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