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この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜  作者: ちくわぶ(まるどらむぎ)
997年目
9/196

09 謁見 ※エリサ




 ※※※ エリサ ※※※



前を歩く少女の、淡い空色のドレスから目が離せずにいた。


身体を包んでいるのは筒型の簡素なドレスだ。

その上に幾重かに重ねられた薄い布が両肩にのせられ前後に垂らされ、それら全てが少女の細いウエストで紐により絞られているだけ。


それだけで。咲き誇る花のような、美しいドレスとなっている。


ドレスと髪を飾るのは同じく布で作られた飾り。

飾りの中心で輝く宝石はきっと誰一人気付かなかっただろうがレオン様のピンだ。


着ている少女を象徴する様な、可憐で類を見ない形のドレスはしかし脱げば即、何枚かの布に戻る―――


「二時間後に謁見」と聞いた時、南の宮の全員が青ざめた。

誰の嫌がらせかと皆、憤った。

特に『空の子』様のドレスを作る、衣装係とお針子達は卒倒しそうだった。


それはそうだ。

『空の子』様の謁見用ドレスだ。


間に合わないからと言って、変なところから借りてくるわけにはいかない。


借りようにも王宮にはあてはない。


王宮に上がれるのは身分、職種、性別に関係なく15歳からなのだ。

つまり王宮には王族どころか下働きに至るまで『空の子』様と同じくらいの《10歳の少女》はいない。


かと言って10歳ほどの娘がいる貴族に助けなど求めれば、あとが怖い。

どんな要求をしてくるか分かったものではない。

貴族に借りを作るわけにはいかないのだ。


そうなれば………


―――どうしても。何としても二時間以内にドレスを仕上げなければならない。


第3王子殿下は王太子妃様に助けを求めに行かれた。


しかし王太子妃様から幸運にも――例えば王太子妃様が幼い頃に着ていらした子ども用のドレスをお借りできたところで、デザインは古い物だ。

それに『空の子』様にピッタリ合うサイズとも限らない。


デザイン、サイズ共に調整が必要になるのだ。

それも二時間以内に完了しなければならない。


誰が考えても不可能で、お針子達がたまらず泣き出した時。

助けたのは『空の子』様だった。


纏っていた、ただの布を折って2箇所をピンで留め、《着て》見せたのだ。


そして衣装係が色合わせにと持ってきた布を肩から柔らかく羽織って見せれば衣装係とお針子達は即、意図を理解した。


大量の布を部屋に運び込むとあっという間に、殆ど縫わずにドレスを仕立ててしまった。

手袋と布靴まで作る余裕があったくらいだ。


作成中ずっと立ったまま。


自らマネキンをつとめ、時に衣装係の発想やお針子の腕を褒め、時に助言をおくり、時に冗談を言い皆を笑わせ緊張を解き……。


そうして出来上がったドレスを見て、頬を染め嬉しそうに笑った『空の子』様にお礼を言われ、衣装係とお針子達は今度は感極まって泣いていた。


―――コダイギリシャフウって言うんだっけ……


衣装係に、何という製法かと聞かれて、チヒロ様が答えていたのを思い出した。


意味のわからない言葉だったけど。衣装係、お針子、侍女、私。

部屋にいた者全員が、これが『空の子』様の素晴らしい知識なのだと驚いた。


加えて皆を気遣うそのお人柄も、さすが『空の子』様だと感激したのだ。


けれども。



――「私は、この国のお役に立つような特別な知識を持ってはおりません」――


――「今までの『空の子』がこの国に伝えたような、特別に何かに秀でた高い知識は無いのです」――



謁見で。《高い知識はない》と宣言したチヒロ様に対して、居並ぶ貴族の中にはあからさまに顔を顰めた者や顔を背けた者も少なくなかった。



――「知識なしの『空の子』様など聞いたことがない」――


――「仕方があるまい。正式な儀式で降ろされた方ではないのだ」――


――「少年ではなく少女の『空の子』様とは奇妙な、と思っていたが」――


――「なんとまあ。残念なことだな」――



よせてはかえす波のようにざわざわと繰り返された悪意ある囁き――――



悔しかった。

高い知識などなくともチヒロ様は素晴らしい『空の子』様なのだ。


それを


あれが『空の子』様に対する、この国の地位ある者たちの態度だとは―――


きつく唇を噛んだ。


が、長くは続かなかった。


「そういうわけだから頼むね、エリサ」


第3王子殿下――レオン様の声に顔をあげる。


「は、はい」


ほぼ惰性で頷いてしまったが、聞いていなかった。なんて失態!


……でも、何の話?


「今後エリサはチヒロの専任護衛とする。護衛を編成しなおして」


前を警護していた副隊長が「はい」と返事をした。


―――チヒロ様の専任護衛?私が?


ええーーーーーっ!!


私、第3王子殿下の護衛になるのが夢で今まで頑張ってきたんですけど。


涙が出そうだった。




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