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この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜  作者: ちくわぶ(まるどらむぎ)
999年目
81/196

06 シン ※エリサ




 ※※※ エリサ ※※※



「毒虫がいたので」


第2王子の足元に剣を突き刺して、シンはしれっとそう言ったんだよ。

それで奴は第3王子殿下への嫌がらせをピタリとやめた。


それまで誰も、何もできなかった。

奴はあれで隠すのが上手くてな。


奴が第3王子殿下に《何事か》をしているのは皆、確信していたんだが見た者はいなかった。


第3王子殿下も笑顔で何もされていないと言われるしで誰も奴にロクな注意も出来ずにいたんだ。どうにかしたいと思っていてもな。



それをシンは一発でやった。



現場を押さえたんじゃないぞ。


ただ第3王子殿下の横に立っていただけの奴の足元に、いきなり剣を突き刺したんだ。

奴は面白いほど青くなった。


それが7年前――

シンが第3王子殿下の護衛を務めるようになった初日の出来事さ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



熊が嬉々として語っている。



以前の《王妃様について》に続き、今日の暴露話は《副隊長について》らしい。


南の宮の、庭の一部。チヒロ様の花畑に近い木の下。

南の宮からは見えない位置に、熊――いや、近衛隊長とチヒロ様が座っている。


花畑に足を運ぶチヒロ様を、隊長はいつも北の宮の前からただじっと見ていた。

チヒロ様がそれに抗議して――それから。この二人は仲良くなっている。


とはいえ、何度かお菓子の交換をした程度。

ゆっくり話すのは初日以来、今日が二度目だ。


二度目、だが……。


近衛隊長は国王陛下付きだ。本来、こんな時間の取れる立場ではない。


それが《ここ》にいるのは……どう考えても国王陛下のご命令なのだろう。


―――しかし、わからない……。


チヒロ様は『空の子』様だ。

国王陛下が気にされるのは当然かもしれない。

が、少し。いや。かなり度が過ぎているのではないだろうか。


何故、国王陛下がこれほどまでにチヒロ様を気にかけるのだろう。


……隊長は何か知っているのだろうか。


聞きたい。が、聞いたところで答えてくれるはずもない。

私は何も言えずにいるのだが………。


今日も花畑へとやってきたチヒロ様を見ていた甘党の隊長は、チヒロ様が持ってきたパイを高く上げて見せたらいそいそやってきた。


そして現在。

パイのほとんどを食べながら、副隊長の武勇伝をチヒロ様に語っている。


……この姿だけ見ていると、本当に国王陛下の命令で動いてるのか疑いたくなる。

それ以前に、この人が近衛隊長であることも疑いたくなる光景である。


パイが相当気に入ったらしい隊長は、舌も絶好調のようだ。


「いやあ、俺はあれでシンに惚れた!

シンの方が来てくれて良かったと思ったね」


「シンの方が?」


「ああ、王家の盾の当主は、実はシンの他にもう一人有力な候補がいたんだ。

王家の盾の、前当主の息子。つまり本家のご長男様だよ。シンの義兄上だな。


あちらも武術の腕は相当なものでな。剣の腕は義兄弟互角。

見た目も――向こうは柔和、シンは……まああの通りだがよく似ている。


二人の差はジル殿だけだと言われていた」


「え?ジル?」


「同じ強さなら神獣がついてる方がいいだろう?」


「……」


「王家の盾の当主には神獣がついている。

それを聞くだけでどんなヤツでも怯む。実際のジル殿は何もしないで、ただシンのところにたまに顔を出すだけなんだけどな。


それでも充分なんだよ。


最初シンが王家の盾の当主として来た時はなんだかなあ、と思っていたんだ。

成人したてと若かったし《神獣がついてるから王家の盾の当主になったヤツ》って気持ちが抜けなかった。

しかし初日の《あれ》ですぐに考えが変わったね」


「……シンのお義兄さんは今、どうしてるの?」


「ああ、義兄さんはサージアズ卿と呼ばれ、領主様として活躍されているよ」


「領主様の……サージアズ卿」


「そうか、嬢ちゃんは会ったことがないか。それもそうだな。

王宮の《中央》の方には来られるが、王族の居住区であるここ《宮殿》の方に顔を出されることはないからな。


評判のいい方だぞ。人間ができてるんだろうなあ。


シンに剣を教えたのは義兄さんのサージアズ卿なんだよ。


剣を教えた義弟の方が当主になったんだ。面白いはずがないと思うんだがねえ。

抗議もせず、あっさり騎士から領主になってシンを影ながら支えてる。


そればかりか王宮に来られる時には、シンに土産持ってきたりしてな。

シンが本当に良くしてもらっているのがわかる。


……同じ《義兄あに》なのに。第2王子とはえらい違いだ。――いや。

第2王子も、昔はあんなじゃなかったんだがなあ………」


「え?」


「第2王子は、もとは兄上の王太子殿下とよく似た真面目で素直な……その。

良い方だったんだよ。

だからずっと皆、第2王子は《良い異母兄あに》なのだと信じて疑いもしなかった。


それで《異母弟おとうと》の第3王子殿下に対する様子がおかしいと周りが気付くまでに時間がかかってしまった、と言ったら言い訳になっちまうが。

……残念だよ。いつからあんなふうに変わってしまわれたんだか……」


「………」


「その点、シンの義兄さんは本物だ。シンは幸運だな。


……だが、こっちは義兄さんに良くしてもらい過ぎてるんだろうなあ。


シンは騎士を引退したら主家を出るし、結婚もしないと決めているみたいだ。


義兄さんはシンより5つ歳が上だが何故か未だ独身だ。


剣の腕。そしてジル殿。シンが結婚して子どもができれば、王家の盾の主家があいつの方に変わりかねないからな」


「……」


私はため息を吐いた。


「どこまで話してるんですか。副隊長に怒られますよ」


「おう、エリサ。なんだよ、お前も座って食べたらどうだ。このパイ美味いぞ」


「遠慮します。私の分は部屋に取ってありますし。

それより、こんなところを副隊長やレオン様に見られたらなんと言われるか」


「それで見張りかよ。気が小さい奴だな」


なんだと、この熊。


「……隊長こそ良いんですか?パイをほとんど一人で食べたようですけど。

減量中でしょう。奥様に叱られますよ」


「――うっ」


隊長がまるで子リスのように小柄な奥様の尻に敷かれているのは有名な話だ。


「あと随分、時間も経ってますけど。大丈夫ですかね?国王陛下の警護は」


「――うっ」


隊長は「ごちそうさん、美味かった」と言って立ち上がった。

やれやれ。今日は長い密会だったが、ようやくお開きにする気になったようだ。


と。隊長は思いついたように言った。


「ああ、明日もこのくらいの時間に来られるか?

来られるんならパイのお礼にクッキーを持ってこようと思うんだが」


「――クッキー?!」


チヒロ様の声と身体が弾んだ。


「やった!ステラさんが作ってくれるの?!」


隊長はうんざりした声を出した。


「またその名前かよ。いいか?俺のカミさんの名前はスサナだ。ス・サ・ナ。

最初の《ス》しか合ってないぞ、嬢ちゃん」


「何回聞いたら覚えられるんだ?」と、隊長は呆れている。


一方、チヒロ様はえへへ、と笑って誤魔化した。

頭の中はもうクッキーのことでいっぱいなんだろう。


隊長とチヒロ様が仲良くなるきっかけとなった日。

あの日、隊長に貰ったクッキーをチヒロ様はよほどお気に召したらしい。


その後、何度か隊長の奥様手作りのお菓子をいただいているのだが忘れられない味だったのか………。


二人は明日の約束をして、隊長は北の宮へと戻っていった。


隊長を見送ったチヒロ様が残念そうに言う。


「………どうして私を見ているのか。まだ言ってくれないか」


―――いや、無理だと思いますよ?


十中八九、隊長は国王陛下の命令で動いている。

隊長がその命令を人に話すはずがない。


今日だって。

隊長が副隊長の話をしたのは絶対、チヒロ様に《その質問をさせない》為だ。


チヒロ様は仲良くなったら隊長が、自分をずっと見ている理由を話してくれるのではないか、と期待されているが―――


ふと思った。


チヒロ様と同じように


隊長も、何か思うことがあってチヒロ様と会っている?


そういえば日を決めて会ったことがないことに気づく。


「さて、じゃあ花畑を見に行こうかな」


チヒロ様は空になったお皿を持って立ち上がると花畑へ向かわれた。


私はしばらく隊長の後ろ姿を見つめてから、チヒロ様の後に続いた。




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