44 対立の終わり ※エリサ
※※※ エリサ ※※※
「何故、《シャナイア様によろしく》なんて言ったんですか?
王太子妃様に《3人で会っているのは内緒》って言われたのを破ってまで」
執務室から部屋に戻る途中。
私は歩きながら、少し後ろにいるチヒロ様にお聞きした。
チヒロ様の横にいるジル殿も、チヒロ様を見ている。
「大丈夫よエリサ。《内緒》は第2王子とレオンが仲が悪かったからだもの。
もう時効よ」
「それは……そうかもしれませんが。
あのご夫婦は仲がお悪いんですよ。《内緒で会っていた》と知らされた第2王子は、絶対にシャナイア様に詰め寄りますよ?
シャナイア様がどれほど怒られるか。第2王子が激昂したら何をされるか……」
私はチヒロ様に手を伸ばした第2王子の様子を思い出して身震いした。
「ねえ、エリサ。
シャナイア様から一度でも第2王子に手をあげられたと聞いたことがある?」
「……それは……ないですけど」
「私もないの。一度、ものすごく怒った第2王子に《手を取られた》って聞いたことはあるけどね」
「――」
チヒロ様の言いたいことはわかった。第2王子は激昂しても、シャナイア様に手をあげたことは一度もないと言いたいのだろう。
そういえば中央での対立の時は………
第2王子はレオン様に暴力をふるった直後だった。
だから第2王子がチヒロ様に手を伸ばしてきたのを見た瞬間。
私は第2王子がまた暴力をふるう気なのだと疑いもしなかった。
それでかわりに自分が殴られる覚悟でチヒロ様を庇った。
だけど。第2王子は何もしなかった。
伸ばした手はそのままで、私に触れさえしなかった。
もしかしたら第2王子はレオン様以外には。女性には。
チヒロ様には手をあげるつもりではなかった?
私は、チヒロ様が第2王子の処分をできるだけ軽くしてもらえるようにとレオン様には内緒で王太子妃様を通じて国王陛下にお願いしたのを思い出した。
あれは第2王子妃のシャナイア様のためだと思っていたけれど………
チヒロ様はジル殿を撫でながら言う。
「それにシャナイア様は喧嘩の様子をとても詳しくお話ししてくださったけど。
聞いて、どう思った?」
私は首をひねった。
「どうって。
顔を合わせれば喧嘩になるなんて本当に仲がよろしくないんだなと。
あとは。あの第2王子相手に、言われた以上に言い返すとお聞きして。
シャナイア様はとても気の強い方だ、と思いましたけど」
チヒロ様はニコリと笑った。
「エリサ。本当に嫌いだったら顔も合わせないし口もきかないんじゃない?」
わからないではない。わからないではないが……これにはさすがに反論した。
「でも。……その。……第2王子は……亡き王妃様のことを……」
「ああ、あれ。うーん。昔はわからないけど今は。
レオンの手前、もう意地で言ってるだけじゃないかなあ」
「え?」
「《愛していた》って過去形だったじゃない」
「――」
「ね?」とチヒロ様に同意を求められ、ジル殿は頷くように首をまわした。
それを見たらつい笑ってしまった。そうか………そうかもしれない。
「少なくともシャナイア様は、第2王子が嫌いじゃないと思うわよ。
――どこがいいのか、さっぱりわからないけど」
チヒロ様が肩をすくめて言い、私は何度も頷いた。
「同感です」
「でも、ならきっかけはなんであれ、いっぱい話はしなくちゃね」
「そうですね。《内緒》がバレた、なんて最高のきっかけになりそうですね」
私はもう一度頷いた。
すると―――
「エリサも頑張ってね。意地をはってると、すぐにおばさんになっちゃうわよ。
私くらいになってから後悔しないようにね」
「―――」
あの男のことを言われているのだとわかって声が出ない。
なんでわかったのだ。副隊長の屋敷でちょっと見ただけなのに。
何故お見通しなんだ。
私に向けられているのは陽だまりみたいなあたたかい微笑。
……全く本当にかなわない。
脱帽だ。
―――おばちゃん、最強
あの男に、あの場に国王陛下を連れてきてくれたお礼くらいは言いに行ってやろう。
そう決めた。




