27 近衛隊長 ※チヒロ
※※※ チヒロ ※※※
「また熊がいた」
思わずうんざりした声が出た。
南の宮の、庭の一部に作ってもらった花畑。
後ろに国王様の暮らす《北の宮》が見える位置にあるこの花畑は、貴族の皆さんが私に《好意で》持ってきてくれた珍しい植物を植えてある。
死病の特効薬には使えないけど、枯らすのは可哀想なので育てているものだ。
まだ王宮近郊の植物だけの為か、土壌に合う・合わないを気にしなくていい植物だと言われたからできているんだけどね。
前世で趣味だった土いじりはやっぱり楽しい。
専属の庭師さんがお世話してくれているけど、ついつい毎日のようにこうして見に来てしまう。
といっても、時間まで決めて来ているわけじゃない。
なのに。
遠目で見ても熊のように大きくてがっしりした人――近衛隊長は必ずと言っていい確率で現れる。
《北の宮》の前にいて、いつも遠くから私に軽く挨拶をする。それだけ。だけど。
―――暇なの? そんな訳ないよね?
近衛隊長が暇なわけないのだ。
だいたい、今はまだ国王様は《中央》で執務中じゃないの?
王家が暮らす《宮殿》の各宮にもそれぞれ執務室はあるけど、それは臨時用。
特に執務が多く来客も多い国王様は《中央》のみにいらっしゃるはずなのだ。
むしろ《南の宮》の執務室を使うレオンの方が特別らしい。
まだ成人してないからかな。
まあそれはおいといて。
ともかく、国王様の護衛であるはずの近衛隊長は今、ここにいる。
私の前にいつも現れてはずっとこちらを見ている。
―――落ち着かない。
なんだかなあ。
これはもう……国王様の命令で私を観察してるって事だよね?
国王様は、まだ私のことを得体の知れない宇宙人だと警戒してるのかな。
……なんだかものすごくショック。
国王様にそんなふうに思われているなんて。
でも……私はレオンと同じ宮にいるのだ。
レオンのお父様である国王様が心配するのも当然といえば当然だよね。
……それでも近衛隊長のこの態度は何? 何とか言えばいいのに。
国王様を放っておいて。こんな状態、続くべきじゃないでしょう。
よし、と意を決して、私は熊隊長のところまで行くと決める。
エリサも私の覚悟を察してか、何も言わずついて来てくれた。
「これは『空の子』様」
正面まで行くとにこやかな挨拶がきた。
「国王様のご命令ですか?」
いきなり声が尖ってしまうのには訳がある。
第一印象が全く良くなかったせいだ。
この近衛隊長は前に、東の宮へ向かう私を護衛していたシンを脅かしたのだ。
護衛中の騎士をだよ? 上司のくせに。
悪戯にしたってタチが悪いでしょう。
思い出したら腹が立ってきた。
もっと声が尖る。
「貴方は国王様の護衛ですよね。
そんな方がどうしていつも私を見ているんですか?
国王様のご命令だとしか思えません」
「はは、いやあ。まいったな。確かに私は国王陛下付きですが。
別に何も命令は……」
「――心配しなくても。
大切な御子息に危害を加えたりしませんよ、とお伝えください」
ズバッと言ってやって、花畑に戻ることにした。




