15 異変 ※レオン
※※※ レオン ※※※
「仕方ないな」と、僕はため息を吐いた。
僕が振り返るとセバスは下げていた頭を上げる。
「……レオン様」
「チヒロはあれで意外と勘がいい。
テオが来ないと知った時点で異変に気付いたのだろう?」
「……はい。申し訳ありません」
「いいよ。どうせチヒロは言ってもきかないし。
――今回は止めなくても良さそうだからね」
「は?」
僕は壁を見る。
今はもう何もありはしない。
だが僕は覚えている。
壁一面に飾られていた多くの絵。
全て同じ少女が描かれた絵。
僕が命を奪った母の絵を―――
「……レオン様?」
怪訝な表情のセバスにあの日の悲痛な顔が重なる。
背中が焼けるような痛みを思い出し疼く―――――
「――ロウエンに連絡を取る」
僕が馴染みの王宮医師の名を出すと、セバスは思い出したのか一瞬息を止めた。
だがすぐに頷く。
僕はロウエン宛の手紙を書くことにし、セバスに指示をだした。
「チヒロをここで待つ必要はないよ、セバス。
チヒロを迎えに行き彼女の用意が出来たらすぐに出発して。
万一に備えて帯剣を許す。……だが誰にも気付かれないように。
気をつけてね」
「はい」
セバスが厳重に布に包んだ剣を受け取り一礼をし、部屋を後にする。
僕は書いた手紙を医局に持っていくように外にいた護衛騎士の一人に託した。
内容は簡潔なものだ。
死病の準備を。大至急ここに来るように、と。それだけ。
それだけであの王宮医師にはわかる。
《医局の管理者》に気付かれないように来る様に、と言われたことに。
これで《駒》は揃う。
僕は椅子に座り直すと執務を再開することにする。
ふと机の上に置かれた《マンゲキョウ》に目がいった。
涙に濡れた漆黒の瞳を思い出す。
……チヒロは今日をどう回すだろうか。
どんな結果を見せてくれるだろう。
チヒロの目は《あの時》のセバスと同じ目だった。
失う気なんて微塵もない目。
絶対に助けるのだと誓う
優しい愚か者の目―――――
『空』よ。見ているのだろう?
他人のために涙を流す優しい愚か者
お前の『愛娘』はここには似合わない。
なぜ手元に――空に戻さないのか。
いいのかな。
ここに置いておくのなら僕はこのまま利用させてもらうよ?
「……言質が取れて気が軽くなったな」
僕は声をたてず笑った。
ねえチヒロ。
《言うことをきく》《罰を受けてもいい》なんて言ったら駄目なんだよ。




