14 異変 ※セバス
※※※ セバス ※※※
「レオン!行かせて、お願い!」
レオン様の執務室に飛び込むと、チヒロ様は開口一番に言った。
レオン様は執務室にいた全員を外に出させてからチヒロ様に言う。
「却下」
「レオン!」
チヒロ様が何か言おうと口を開いたが、その前にレオン様が一気に言った。
「チヒロ!セバスに全部聞いたんだろう?
テオの罹った病気――死病は特効薬でしか治せない。だが平民のテオに飲める薬ではない!
それは王子である僕でも『空の子』である君でもどうしようもない!
……君が行ってもどうしようもないんだよ」
チヒロ様はぐっと詰まった。
レオン様はふう、と大きく息を吐くと今度はなだめるように言った。
「特効薬は数が極端に少ない。この国では作れないからだ。
それどころか世界中探しても、とある一国でしか作られていない。
入手は世界中の国が取り合いだ。
そして何とか手に入れた数本を、国民全員では分けられない」
「――」
「だから非情だと言われようが決めてある。
あの薬は貴族以上、もしくは国の要職に就いている者にだけ、飲む権利がある、とね」
「――」
「わかるだろう?チヒロ。君が行ってもどうにも出来ない」
チヒロ様はへなへなとその場にへたり込んだ。
レオン様はそんなチヒロ様をしばらく見ていたが、その後顔を横にふった。
そしてチヒロ様の側に行き、しゃがむと俯いた彼女の肩に手を置いた。
チヒロ様の目からはぽろぽろと涙が溢れている。
それでも彼女はレオン様に向かって顔を上げた。
「お願いよ。今日だけは言う事をきけない。
許可してくれなくても行くわ。でも、ちゃんと許可して欲しい。
お願い。
帰ったら何でも言うことを聞くわ。罰を受けてもいい。
だから行かせて!」
暫く沈黙が続いた。
その間もチヒロ様は涙を流し続けているがレオン様から目を逸らすことはない。
レオン様がゆっくりと言った。
「看取ることになるけど良いんだね」
チヒロ様の目が大きく開く。
「……男の子の服を着て、帽子で髪を隠して。テオのフリをするんだ。
その格好でセバスと、シンの屋敷の馬車で行っておいで。
――王宮医師に依頼を出す。エリサと後から行かせる。
……ほら。早く着替えてきて」
チヒロ様は飛び出して行った。
レオン様はチヒロ様が飛び出して行った扉を見たまま、後ろにいた私に言った。
「セバス。今日はいただけないな。何故隠し通さなかったの」
怒りを隠さないお声だった。
「……申し訳ありません」
私は深く頭を下げて謝罪する。
何も言えなかった。
――「セバス!答えなさい!――何を隠しているの?!」――
あの時、チヒロ様が見せた威厳。
あの表情。
私の頭をよぎった錯覚を言えるはずもない。
チヒロ様に重なった女人の名を言えるはずもない。
私は無言でうつむくしかなかった。




