13 異変 ※チヒロ
※※※ チヒロ ※※※
その日は朝からいつもと違っていた。
ジルが来なかった。
つまりシンがこの宮にいないのだ。
エリサに聞いたら「副隊長は今日、非番だそうです」と言われたのでその時はそうなんだ、と思っただけだった。
だけど
「チヒロ様。
急で申し訳ありませんが、今日からしばらくテオはこちらに来られません」
授業をしに来てくれたセバス先生にそう言われた時、確信した。
「何かあったの?」
「いえ。実は、屋敷の設備を手直しするのです。
壊れたところがありまして。手が足りませんので急ですがテオも手伝いに」
セバス先生は何食わぬ顔で言う。
「どの設備を直すの?」
「水まわりを。早く直さないことには生活に困りますので」
「大変なのね。直すところは多いの?」
「はい。点検も必要ですし数日かかるかと」
普段と変わらず静かな声だ。
私はエリサとアイシャを見た。
二人はこちらに背を向け、テオの分のお菓子とカップを片付けている。
私はセバス先生の前に歩み出た。
「我儘を言っていいかな?テオには今日、どうしても来て欲しいの」
相手の目に一瞬動揺が見えた。
私は確信する。
「テオに何かあったのね」
「いえ、そうではなく――」
「――何かあったんでしょう?」
答えはない。
「セバス先生。教えて。テオに何があったの?」
相手は少し躊躇った後、口角をひきつらせた。
無理に笑おうとしたのだ。
嘘をつこうとした。
そう思った瞬間、私の中で何かが弾け飛んだ。
相手の服をぐっと掴んで引き寄せる。
「セバス!答えなさい!――何を隠しているの?!」
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早足でレオンの執務室へ向かう。
その途中で私はセバス先生に病気だというテオの様子を聞いていた。
「症状は?」
「熱が……」
「私に隠そうとしたと言うことはうつるのね?」
「……ええ。極めて稀ですが」
「シンは?今日仕事を休んでいると聞いたわ。ならシンがテオの看病してるんでしょう?」
「……我が主人は、幼い頃に罹っています。一度罹れば二度はない病気です」
私はほっと息を吐いた。
「良かった。シンは治ったのね。じゃあテオもすぐ――」
「――チヒロ様」
セバス先生の足が止まったので、私もつられて停止した。
セバス先生は俯き、うめくように告げた。
「あの病。平民は治りません。いえ、治せません」




