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この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜  作者: ちくわぶ(まるどらむぎ)
998年目
33/196

04 結婚式(仮) ※チヒロ




 ※※※ チヒロ ※※※



「「私の命はあなたのものだと、ここに誓います」」



声を合わせ誓いの言葉を言って、アイシャは新郎と顔を見合わせ笑い合った。


私は二人から目が離せない。

初めて見たこの国の結婚式。(仮)だけど。

それでもアイシャの晴れ姿に胸が熱くなる。



「ねえエリサ。あの《伴侶の誓い》ってこの国ではみんなするの?」


すぐに来るだろうと思っていたエリサからの返事はない。


「エリサ?」


「――は、はい。何ですか?」


何故か下を見ていたエリサは慌てたようにこちらを向いた。

なんだろう、感激で涙ぐんでたのかな?


私はそこには触れないでもう一度聞いた。


「《伴侶の誓い》ってこの国ではみんなするの?」


エリサは一旦間を置いてから言った。


「ああ、《伴侶の誓い》ですね。

いえ、あれは新郎新婦のどちらかが騎士の場合するものです。

普通は《死が二人を分つまで愛する》と誓うのみですよ」


「どちらかが騎士?え?でもアイシャたちは――」


「――いえ、その。騎士を真似てする人もいるんですよ。格好いいでしょう?」


「そうなんだ」


「ええっと。

騎士には《この命はあなたと共にある》と誓う《忠誠の誓い》と

《この命はあなたのものだ》と誓う《伴侶の誓い》があるんですよ。


忠誠の誓いは全員が国王陛下にしますがそれ以外に個人に誓うこともあります。

国王陛下への忠誠と、相反するものでなければ認められているんです。


とはいえ個人に忠誠を誓う騎士は稀ですが。

セバス様が副隊長に忠誠を誓っていらっしゃいます。

副隊長を《我が主人》と呼ばれているでしょう?」


セバス先生にとってシンは雇い主だから《我が主人》なのかと思ってた。

違ったんだ。知らなかった。


「そう言えばセバス先生は元・騎士だったね」


「そうです。元・騎士、と言っても扱いは《今は剣を置いている》騎士ですから誓いは有効です。

確かに現役の騎士とは扱いが異なりますが、この国では本人が辞職するか、

もしくは何か問題を犯して騎士の称号を剥奪されない限り騎士は騎士なのです。

あまりないことですが、状況によっては現役に復帰する可能性があります」


―――国が荒れた場合など?


頭に浮かんでしまった言葉を私は飲み込んだ。

背中にひやりと冷たいものが走る。


だめだめ、結婚式にそんなこと考えてちゃ。

私は気持ちを変えようと話題を変えた。


「結婚式は私が知っているのとあまり変わらないんだね」


「え、そうなのですか?」


「うん。違うのはドレスに親戚や親しい人が花の刺繍を入れてくれるってところくらいかな。

すごく良い風習だね。ドレスが色とりどりになって綺麗だし」


「チヒロさまの前世……いえ、前の国にはなかった風習なんですか?」


「うーん。

私は聞いたことないかな。そもそも花嫁のドレスは白一色が多かったし」


「――白?」


「そう。どうかした?」


「いえ。その、この国では白い服を着る者はまずいないので……」


「汚れが目立つしね」


ここは緑と土だらけなのだ。アスファルトもコンクリートもない。

風が少し強く吹けば土埃がすごい。私は笑った。


エリサが何か考えるようにして言う。


「他には特に違いはないんですか?」


あ、興味ある?エリサは女の子だもんね。

うーん、と私は記憶を辿った。


「他には。そうだな。

披露宴――結婚パーティーの時に新郎新婦がものすごく大きなケーキを切ったり、参列者のテーブルに置かれたローソクに火をつけて回ったり」


「……誕生日にはケーキにローソクをたてるんでしたよね。

どんだけケーキとローソクが好きなんですか。チヒロ様が前にいた国の人たちは」


「あとは……新婦は頭に長いベールかけてたり」


「……汚れても平気なんですか」


「その発想はないかな」


その時、笑い声がした。


「私はベールよりチヒロ様とテオが作った髪飾りの方が嬉しいわ」


「アイシャ!おめでとう、すごく綺麗!」


私が飛びつくように近づいて言うと、エリサとテオも続いた。


「二人ともおめでとう」


「ありがとうございますチヒロ様。エリサ。テオ」


挨拶に来てくれた二人を見る。


新郎であるアイシャの彼は優しそうな人だ。

王宮の厨房で働いていると聞いていたけど……護衛騎士の中に入っても見劣りしないほど体格の良い人だった。

アイシャを守ってくれそう。


そして間近に見るアイシャはまた一段と綺麗だった。


沢山の花――祝福の刺繍が施されたドレスは、アイシャがあたたかな人たちに囲まれていることを示している。

同じようにアイシャを飾る髪飾りを、テオと二人で贈れたことが嬉しい。



アイシャの髪飾りはつまみ細工で作ったものだ。


王宮の衣装係さんからもらった薄い生地の端切れを小さな正方形に裁断し、ピンセットで摘んで折り畳み糊をつけ葉や花びらにする。


そしてそれを色紙を巻いた細い針金や布を貼った紙で作った台座に並べて葉や花にし、テオに作ってもらった櫛に合わせ組み上げたもの。


《久しぶり》だったけど。上手く出来て良かった。


ちなみにピンセットは私が一番初めにテオに頼んで作ってもらった物だ。

つまみ細工用の、先が長く細いピンセット。


それは楽しい時間だった。好きだったの、つまみ細工。―――ううん。

つまみ細工に限らず前世の《私》はあの小さな国の伝統品が大好きだった。

幼い頃、折り紙を教えてもらったことがきっかけだったと思う。


《私》の折り紙と似たようなものだったのか。

テオはつまみ細工という自分が知らなかった製法に心が踊ったようだ。


私が作る様子を見て目を丸くし、続いて輝かせ。

そしてすぐに私に教えを請い一緒に作り出したのだ。それは楽しそうに―――



感極まったのか、エリサに抱きついたアイシャの目は潤んでいた。


うんうん。いいなあ。見ているこちらも幸せな気持ちになる。


レオンも誘ったのに「僕には縁のないものだから」と断られた。

それはそうだよね。レオンは王子殿下だもの。庶民の結婚式には縁がない。


だけど新婦のアイシャは南の宮の侍女なんだから、見るくらいしてもいいのに。

二人ともこんなに幸せそうなのになあ。―――ねえテオ。


同意を求めるように横にいたテオを見れば―――テオは小さな何かを大事そう

に抱えていた。


「テオ。それ何?」


驚いたのだろう。テオは飛び上がると慌てて持っていた物を背中に隠した。

けど、もう見えちゃったもんね。


いつの間に作ったのだろう。

それはつまみ細工で作った小さな、可愛らしい花束だった。


私の表情でばっちり見られたと気付いたのだろう。

テオは真っ赤になって慌てている。可愛い!


私は思わず笑って言ってしまった。


「あらやだ。それ、もしかして私に?」


テオはすん、と真顔になって

ふーっと長い息を吐いて

丁寧に手のひらに文字を書いた。


(アイシャさんにあげるの。おばさんにじゃない)


……せめて《お姉さん》って言ってよ。


くそう。子どもって鋭いし遠慮がない。




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