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この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜  作者: ちくわぶ(まるどらむぎ)
998年目
32/196

03 祈り ※エリサ




 ※※※ エリサ ※※※



「今日のアイシャはすごく綺麗ね、エリサ」


チヒロ様が嬉しそうに言う。

その隣ではテオがアイシャから目を離せずにいる。


今日はアイシャの結婚式だ。

と、言っても仮の式。場所は南の宮の会議室である。


本当の結婚式は数日後に王都で。

親族や友人たちと馴染みの店を貸し切って挙げるそうで、今日はその予行練習といったところだ。


ことの発端は王都で行われるアイシャの結婚式をチヒロ様が見に行きたいと言いだされたこと。


「邪魔にならないように物影からこっそり見るだけだから!」

と、レオン様にお願いされていたけれど。

チヒロ様……いやそれ、絶対無理ですから……。


『空の子』様特有の漆黒の髪、瞳だけではない。

輝くような白い肌。幼いながら人の目を惹きつけるその美しいご容姿。加えておかしな言動………。


チヒロ様はどう考えても目立つ。目立ちすぎる。悪目立ちまでする。

すぐに『空の子』様だと気付かれ、大騒ぎになってしまうに決まっている。


お願いされたレオン様はもちろん即、却下された。

しかしただ却下されただけでなく、今日のアイシャの結婚式を提案されたのだ。

チヒロ様を説得するより簡単だと判断されたのだろう。


そして今日の結婚式(仮)を迎えている。


新郎――アイシャの夫となる彼女の幼馴染の彼の顔はひきつっている。

手の空いているところを呼ばれた参列者の同僚たちの顔も似たようなものだ。


なにせ場所が第3王子殿下レオン様の南の宮の会議室なので周りには護衛。

立会人は元・この国一番と言われた騎士にして幼いレオン様の教育係だったセバス様。

その上、参列者には『空の子』様であるチヒロ様がいるのだ。


……気持ちはわかる。すまない。本当にすまない。


一方、新婦のアイシャは最高の笑顔だ。こちらの気持ちもよくわかる。


花嫁であるアイシャが身に纏うのは鮮やかな青地に花々が刺繍されたドレス。

それに合わせた髪飾りは、チヒロ様がテオと二人で何日もかけて作られた物だ。


作っていた様子をずっと見ていたアイシャが、贈られた髪飾りで飾った花嫁姿をチヒロ様とテオに見て欲しいと思うのは当然だろう。



……それにしても、あの髪飾り。


初めは何をどうするおつもりのか全くわからなかった。


王宮の衣装係に譲ってもらった薄い布の、捨てるしかないような小さな端切れがチヒロ様の手で葉になり花になり。

テオがチヒロ様に依頼され作ってきた、少し変わった形の櫛に組み合わされ。

そのうち艶やかな、花嫁のドレスに相応しい髪飾りになった時は目を疑った。


――「ほら、端切れでも捨てるなんてもったいないでしょう?」――


そう言ってチヒロ様が笑ったのも納得できた。


前世、趣味で作っていた《ツマミザイク》という手法なんだろうだ。


今日チヒロ様が着ているドレスも前世で生きた国独特のデザインのものらしい。


《キモノ》というそのドレスは、レオン様から北の季節用のドレスを作るように言われたチヒロ様が希望され作られたもの。


北の季節用だったが、チヒロ様はすぐに季節に関係なく「新しくドレスを作るなら《キモノ》」と決められた。

例外は正式な場に出る時に纏う正装用のドレスだけだ。


細い紐と太い飾り紐だけで着る、ボタンひとつない《キモノ》はどこまでも直線で、全く身体のラインにもサイズにも合っていない。


だからこそ、大きく成長しても簡単なサイズ直しで着られるという。


身体にぴたりと合うように作るドレスは成長期のチヒロ様なら一年したら着られなくなる。

それではもったいない、というのがチヒロ様が《キモノ》を希望された理由だ。


しかし高貴な方の高級なドレスは子に引き継ぐか下賜する物で。

本人が着られなくなっても無駄にはならない。


そう告げた衣装係に、チヒロ様は困ったように言った。

「私は王宮で面倒をみてもらっているだけのただの幼い小娘だから」と。


そのお言葉は《自分はドレスを何着も作ってもらうような高貴な者ではない》と宣言するもので。

《高い知識なし》の『空の子』だというご自分の立ち位置に悩んでいらっしゃるのだと察するのには十分なもので。


私は胸がつぶれる思いだった。


その後、アイシャのエプロンのことを知った国王陛下が侍女服の見直しをチヒロ様に依頼され、《役目》ができたチヒロ様の生き生きとした様子を見て確信した。


歴代の《国の役に立つ高い知識》を持った『空の子』たちが、その知識を活かし仕事をし、自分の居場所を築いていただろうのと同じように。


チヒロ様もご自分の出来ることを探されている。

ご自分の居場所を築きたいのだ。


持っている《高い知識》が鍛治なら鍛冶屋。医療なら医局か治療院。

歴代の『空の子』様たちは自身の持つ《特定のことに秀でた知識》が居場所を決定づけただろうが、チヒロ様にはその枷がない。

どこまでも自由だ。


……だから築く居場所は王宮の中のみに限定しなくてもいい。

前世平民だったチヒロ様は行こうと思えばどこまでも行けることを。

果てのない空の広さを知っている。


しかし女性の――しかも美しい『空の子』様を欲する者は大勢いる。

王宮の、王家が住まう《宮殿》の外は危険過ぎる。


チヒロ様がどれほど広い空の下を望もうと……きっとそれは許されない。


私は祈る。


チヒロ様が果てのない空の広さを知りながら。王宮の狭い空の下にただ囲われることのないようにと。


そしていつか、今日のアイシャのように心から望む伴侶を見つけて最高の笑顔を見せて欲しいと。


私は祈る―――――



式は続いている。

祭壇に見立てた机の向こうに立つ見届け役のセバス様の前。

私たち参列者が見守る中、死が二人を別つまで愛することを誓った新郎新婦――アイシャと幼馴染の彼は続いて互いに向き合い《伴侶の誓い》をする。


「「私の命はあなたのものだと、ここに誓います」」


声を合わせ誓いの言葉を言って、アイシャは新郎と顔を見合わせ笑い合った。


突然浮かんだのは思い出してはいけない顔


私は急いで二人から顔を背けた。




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