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この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜  作者: ちくわぶ(まるどらむぎ)
997年目
17/196

17 騎士 ※空




 ※※※ 空 ※※※



チヒロは着飾ることに興味がない。


普段は男の子の服を着て、髪を侍女にとめてもらっているだけだ。


煌びやかな衣装や装飾品は、レオンによって作られた物・貴族達がこぞって『空の子』様にと贈った物が山となっているが、収納されているのみ。

侍女が日々ため息をついている。


そんなチヒロも、今日は着飾っている。

今日こそは腕の見せ所と、侍女は張り切ったのだろう。


着ているのはこの国の伝統的なドレスだ。


身体の線を美しく見せる切り替えなしのドレス。

袖とスカートが裾にいくほど大きく広がったそれは、鮮やかな空色だ。


成人女性なら首元があいているが、チヒロがまとっているのは少女用であるために首から指先。足先に至るまで肌は出ていない。

慣れないのだろう。チヒロは何度も手の出ない袖を小さく振ったり、スカートをつまんだりしている。


チヒロが歩くたびにさらさらと流れるように揺れる漆黒の髪は横髪だけが複雑に編み込まれ、緻密な細工の髪飾りでとめられている。


装飾品が髪飾りしかないのは、チヒロが首飾りや耳飾りを重いし邪魔だと取ってしまったからだが、清楚な装いは彼女によく似合っていた。



チヒロは今、シンと外廊下を歩いている。



今日は王太子夫妻とのお茶会で、会場である王太子夫妻の暮らす東の宮に向かっているのだ。


国王と共に謁見の間にいた王太子とは顔を合わせているが、出産して間もない王太子妃はあの場にいなかった。


今日のお茶会はその王太子妃の希望で行われる、いわば顔合わせである。


チヒロが生活している南の宮から東の宮へと続く道は2つ。

屋内の入り組んだ細い渡り廊下と、屋外の外廊下があるのだが、今日はチヒロが希望して二人は外廊下を歩いている。


外廊下は廊下とは名ばかりの道であり、人が歩く所に石が貼られ、周りは緑で縁取られている。

その少し向こうは低木と花々で作られた庭園になっているので見通しがいい。


チヒロは伸びをして思いきり空気を吸い込んだ。ついでに大きなあくびもする。


シンが苦言を呈した。


「チヒロ様、はしたないです。人目があります。慎んで下さい」


「大丈夫。誰も気にしないよ。私は幼い小娘だもの」


「……先日の私の発言を根に持っておられるのですか?」


「根に持ってないよ。本当のことだもん」


「根に持っておられるのですね」


「持ってません。むしろ、ちゃんと《小娘》として扱って欲しいです。

――ねえ、本当に私が王太子ご夫妻にお会いしてもいいの?」


「何を言われるのです。王太子ご夫妻からの正式なお誘いですよ?」


「そうだけど……。初めてのお出かけ先が王太子ご夫妻のところって……。

みんなから敬語を使われて、王子を呼び捨て。王太子ご夫妻とはお茶会。

なんだかなあ………。

歴代の『空の子』たちも王宮にいる間はこんなに手厚くもてなされていたの?」


「……王宮にいる間?」


「だって歴代の『空の子』たちがずっと王宮にいたはずはないよね?

【高い知識でこの国を豊かにした】んだから。

無害な宇宙人だって認められたらみんなこの国のどこかの街で《知識を活かした仕事》をしていたんでしょう?」


「……ウチュウジン?」


「そりゃ『空の子』の先輩たちは《この国の役に立つ高い知識》を持っていたんだから、王宮にいた時も手厚くもてなされていたのかもしれないけど。

私は違うんだよ?《高い知識》なんてないし。何もできないただの小娘なのに」


「………チヒロ様」


シンは足を止めた。


「やはり相当根に持って――」


「――持ってません、てば」


チヒロは頬を膨らませたと思ったらすぐに笑い出した。


「やだな、逆だよ。すごく嬉しかったの。涙が出るくらい」


「は?」


チヒロの言葉の意味がシンには分からなかったようだ。


シンは何か言おうとして………だが瞬時に顔が変わる。

咄嗟にチヒロを背中に隠すと剣に手をかけた。


目の前は東の宮。


その宮の手前、少し離れた場所にある大きな彫刻像に目を凝らす。


「……誰だ」


彫刻像の後ろから男がひとり、ゆっくりと両手を上げて出てきた。


「よお、シン」


にっと笑った男の顔を一度睨んでから、シンは息を吐きようやく剣から手を離した。


「……隊長。何故こちらへ?国王陛下の護衛はよろしいのですか」


「無論万全だ。俺が指揮しているんだからな」


男は楽しそうにそう言うと、次にシンの後ろのチヒロに型通りの挨拶をした。

そして笑いを堪えながらシンを見る。


「実は俺のところで書類が滞っていると事務方がうるさくてな。

仕方なく先程まで机にかじりついていたんだが……飽きた。

で、ここで隠れ――いや、休んでいたんだが。お前が来るのが見えて――」


「――《試した》のですね。私を」


「くく………すまん。だがさすがだな。安心したぞ」


シンは短く返事をした。


「それはどうも」




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