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この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜  作者: ちくわぶ(まるどらむぎ)
1000年目
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36 閑話 チヒロ ※テオ




 ※※※ テオ ※※※



見たこともないほど大きな《王宮》で僕は青くなっていた。

隣にいたセバス様が僕の肩をポンと叩く。


大丈夫なんだろうか。僕がこんな凄いところにきて。

言葉は必死に覚えた。でもまだ完璧とは言えない。

一族の言葉が出て変な目で見られるのも嫌だ。


《話せないフリをさせてください》と言っておいて良かった。



◆◇◆◇◆



初めて会った時は目が離せなかった。


漆黒の髪、漆黒の瞳。

本当に『空の子』様はいたんだ。

作り話かと思ってた。母さんの話は嘘じゃなかった。


セバス様に挨拶しなさいと言われるまで、僕はただチヒロを見つめていた。



チヒロは変な奴だった。


会ったその日はずっと僕を見て「かわいい」を連発した。


周りに大人しかいなくて、同い年くらいの子どもを見るのは僕が初めてだと聞けば《なるほど、じゃあ仕方がないか》と思わないではなかった。


けど《頭の位置が同じだから》と言われた時には腹が立った。

悪かったな、背が低くて。僕が気にしてることを……。



でもチヒロの中には見たこともないものが詰まってた。


ピンセット、マンゲキョウ、ツマミザイク、フライングディスク……


僕はチヒロが話す物、見せる物を夢中になって作っていった。


初めは《人攫い》だと思った《あの兵士》に感謝した。

《あの兵士》は仕事が忙しいらしくて、なかなか会えないからろくに話が出来ないけど。


住まわせてもらってる屋敷の皆んなは良い人ばかりだし、チヒロにも会えた。


故郷の高山からは遠く離れた。

けれど、ここではあの高山のふもとの町や兵士たちの《家》にいるより多くの知識が手に入る。


母さんが言っていた《虫寄せの木》の葉で作る茶葉も取りにはいけない。

連絡も取れない。それはちょっと気になるし、寂しいけど……。


「テオ」


チヒロだ。なんだろう?

僕は何?と言うように首を傾げて見せる。


「頭なでてもいい?」


―――いいわけないだろ!


チヒロの護衛のエリサさんが飛んできてチヒロの口を手で塞いでくれた。

危なかった。叫ぶところだった。

エリサさんはいい人だ。チヒロの暴走をいつも止めてくれる。


そしてもう一人。

チヒロのそばにはいい人がいた。


ある日、僕はチヒロに言われた《フライングディスク》を作っていて、手を滑らせた。


【痛っ!】


小刀が落ちる。

血の気が引いた。


切った指が痛かったんじゃない。

切った指のことなんて忘れていた。


幸いなことにチヒロとエリサさんは散歩に行っていていなかった。


だけど……いたんだ。人がひとり。


アイシャさんは僕のところまでやってくると布で切った指を押さえてくれた。

そしてなれた手つきで傷の手当てをし、包帯を巻いてくれた。


僕は生きた心地がしなかった。

恐る恐るアイシャさんを見る。


アイシャさんは微笑んで――人差し指を唇にあてた。


「内緒なんでしょう。大丈夫、言わないわ」


僕は俯くことしか出来なかった。


それからアイシャさんは僕が思わず声を出しそうになると助けてくれた。

なんにも聞かずにだ。赤ちゃんを授かってチヒロの侍女を辞めるまでずっと。


アイシャさんには感謝してもしきれない。


エリサさんとアイシャさん。

僕は二人に助けられながらチヒロの話を聞き、チヒロの頭の中にある物を作っていく。


《王宮》の《南の宮》へ通う生活にもすっかり慣れた。

でも慣れないことがひとつあった。


僕が《南の宮》から帰る時、いつもチヒロは寂しそうに笑うんだ。


その顔は僕が《あの兵士》について行く、と宣言して家を出た時の母さんと何故か似ていてちょっと切なくなる。


でも、と思う。


母さんはしばらく会えなくなるのだから当然だけど、チヒロとはいつだって会えるじゃないか。すぐ近くにいるんだから。


なのに何であんな顔するんだろう。


そう思っていたのに。


ある日、僕は死病にかかった。


屋敷の客間で寝かされ、ご当主様だけが来て、あとは誰も来ない。

ご当主様は「大丈夫だ」としか言わなかったけど、すぐにわかったさ。


この病気はうつるんだって。

そして……とても良くないものなんだって。


僕は思いっきり後悔していた。


《また》会える?

《いつだって》会える?


それは絶対じゃなかった。

次、会えるのは……奇跡だったんだ。


知らなかった。

僕は馬鹿だ。


母さん、父さん、ルミナ……チヒロ。みんな。


ごめん。


目も開けられなくなって声も出せなくなって。

きっとすぐに息も出来なくなるという確信があった。


死にたくない。でももうだめなのか。

もう諦めるしかないのか。そう思った。


けれど


起こされて僕はうっすら目を開けた。

ぼんやり見えたのはチヒロの白い顔。


何か飲まされて……それで寝かされて。


チヒロが誰かに叱られている声で、僕ははっきりと目を覚ました。


僕の理解できない言葉があったけど

どうやらチヒロがやってはいけないことをして、僕を助けてくれたのだけはわかった。


そのせいで。

チヒロがもし同じ病気にかかったら、助からないということも。


涙が溢れてきた。


何でだよ。

何であいつはそこまでするんだ。


僕のために。


チヒロは僕のことを《大切な友人》だと言った。


何を言っているんだと思った。

僕たちの関係にとんでもなく似合わない言葉だ。


僕はチヒロを《友人》だなんて思ったことはない。


『空の子』様なのに。

見た目は同い年の女の子なのに。


中身が《おばさん》だからなのかな。

チヒロが考えて着ているあの《キモノ》という服が、僕の一族の服と似ているせいなのかな。


僕はいつだってチヒロのことを

《お母さん》と呼んでしまいそうだったんだ。


どうしてだろう


頭だって本当は撫でて欲しかった。

チヒロの側にいるとあたたかい気持ちになった。


初めてあった時

何故か懐かしい気がしてたまらなかったんだ。


どうしてだろう―――――





チヒロが僕の故郷に行く。


一緒に行こうと言われた。

僕も行きたくてたまらない。


けど、それは駄目だ。


父さんとの約束まであと一年。


あと一年で、結果を出さなければルミナと結婚できない。


あと一年だ。

ここまで四年頑張ったことを無にするわけにはいかない。


チヒロに父さん、母さん、そしてルミナへの手紙と贈り物を託す。


父さんと母さんは僕がやっていることを認めてくれるだろうか。


そしてルミナ。

僕が今でもルミナを大好きだとわかってくれるだろうか。


僕は幸せを噛みしめる。

こうして便りが出せる幸せを。


これは当たり前じゃない。奇跡なんだ。


父さん、母さん、ルミナ


僕は一字一字噛みしめるように書いていく。


色々あったこと

色んな人に出会ったこと

そして、チヒロと会ったこと


僕に起きた奇跡を綴る。


僕の幸せが、ちゃんと伝わるように―――――




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