26 平穏 ※チヒロ
※※※ チヒロ ※※※
テオの一族の皆さんと仲良くなれた。
テオのお父さんとお母さんは気持ちの良い人だ。
テオは良いご両親のもとに生まれた。
ルミナちゃんはとても頑張り屋さん。
つまみ細工を自分でも練習し、すぐに覚えた。作品は素晴らしい。
つまみ細工は同じように作っても作る人によって個性が出る。
ルミナちゃんのは繊細で可憐。真面目な性格なのがよくわかる。
細工物を作るところを見せてもらって、一緒に動物の世話をして、洗濯をして、お料理も教えてもらって。
毎日が本当に楽しい。
ニアハン医師とトマスさんは《人攫い》と一族の人に道案内をしてもらって高山をめぐっている。
持ち帰られた植物に死病に効くものはなかったけど、道案内をしてくれた一族の人から彼らが薬に使っている植物を教えてもらい満足そうだ。
二人は体調の悪い人の診察もしていた。
身体が弱いというルミナちゃんのお母さんもその一人。体質改善の良い薬があるそうで良かった。
エリサは子どもたちの人気者になっているし、セバス先生は体術の手合わせをした男の人たちから仲間として扱われている。
《人攫い》は何故か大人からも子どもたちからも《楽しい奴》と好かれている。
そんな様子を見ていると、人は言葉がなくても通じ合えるんだ、と嬉しくなる。
特にニアハン医師。
《次は》言葉を覚えてここへ来る!と宣言したのには驚いた。
私を通じてテオのお父さんに許可まで取った。
きっと本当にまた来る気なのだろう。
言葉はテオに教えてもらうつもりなのかな。
けど、言葉はいらないかもしれない。
ニアハン医師はジェスチャーが天才的に上手いから。
―――ここは高山。
レオンとシンが《危険》な人物と思っているだろうダザル卿の領地だ。
私が長くとどまることを良しとはしなかった場所。
でもその高山で、私は何事もなく平穏に過ごしている。
《危険》なことは全く起きてはいない。
………この旅に出発する前の日に、シンが言ったことを思い出す。
――「貴女にいざという時などありません。
我々は《何も無いように》守っているのです。
《何かあってから》守るのではありません」――
私にいざという時などない、と言い切った。
あれは……こういうこと?
一緒に来てくれたセバス先生にエリサ。そして《人攫い》だけじゃない。
きっと他にも《誰か》いる。
私に万一など絶対にないように。
私が普通にしていられるように……
何人いるんだろう。
どんな人なんだろう。
全くわからないけれど。
私を守ってくれている人がいる。
私が気付かないところで。
……忘れてはいけない。
この平穏はその人たちがいるから、ある。
シンはそれに気付かせてくれた。
……降参だ。
私はもう一生、シンには頭が上がらない。




