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この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜  作者: ちくわぶ(まるどらむぎ)
1000年目
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06 使命 ※チヒロ




 ※※※ チヒロ ※※※



「あの黒く光って見える植物のある高山に行かせてください。お願いします」


レオンの執務室を訪ねた私は頭を下げる。


レオンは腕を組んだ。


「今日はいつになく真剣なんだね。医局の医師たちの気にあてられた?」


「うん。それもあるけど。

私はこの為に、この世界に来たのかもしれないから」


「――は?」


決意を胸に、私はレオンの目を見て言う。



「私は、《仲良しの》テオが死病に罹って《死病》を知った。

治す方法が特効薬しかないことを。


特効薬を作るのに必要な植物がひとつだけ手に入らなくて……みんなが困っていることを知った。


その手に入らない植物の代わりにできるかもしれない植物を見つけた。

それは《テオの》故郷の高山にある植物だった。


《東の宮》の王子様が飲もうとしていた水の中に、死病の原因と思われる虫を見つけた。

《ちょうど》その場にいてね。


ねえ……これが全部、偶然かな?


私は違うと思う。

私は『空』に導かれているんだと思う。


死病を予防できるようにすること。

特効薬を、誰もが飲める物にすること。


きっとそれが私が『空』に与えられた使命なんだよ」


「―――使命?」


「そう。『空の子』としてこの世界に来た私の使命だと思うの。


それに。


あの死病の毒を持った虫。あれを飲めば死病に罹るだろうとわかっていても、死病の解明のために望んで飲んだ医師がいる。

その意思を無駄にしない、素晴らしい医師たちがいる。


そんな医師たちの思いも無駄にしたくない。


テオの故郷の高山を訪ねて、あの黒く光って見える植物のことを調べたい。


国中から珍しい植物を集めても、死病の特効薬になる証の黒い光。

それが見えたのは、あの、高山から送られてきた植物だけなの。


高山に何かあるかもしれない。他にも黒い光が見える植物があるかもしれない。

特効薬になる植物がすぐにわかるのは『仁眼』がある私だけだよ。


――ただ植物が《わかる》だけじゃない。


私には『全語』もある。高山に詳しいテオの一族と話もできるわ。

高山を案内してもらえる。他の土地との違いもわかるかもしれない。


だからお願い。行かせてください」


絶対に譲らない。

許可してくれるまで、今日は引かない。


そのつもりだった。それなのに。


レオンの返事は―――


「――いいよ。行っておいで」


いいよ?


いいよって言ったの?

それは、つまり……


「え?――いいのっ?!」


変な声が出てしまった。


見ればレオンは……笑っていた。


「うん。許可する。これも『空』の導きかな。準備が整ったからね」


「え?準備?」


「そう。準備もなしに君を行かせられるわけがないだろう?」


――準備


唐突に自分が恥ずかしくなった。

私は前世の、旅行に行くのと同じ感覚だったのだ。


バッグひとつに荷物を詰めてはい、出発。

そんな感覚だった。


ここで同じようにできるわけもないのに。


前世の《私》がいた世界とは違う。

それはわかっていた。わかっているつもりだった。でも違う。


電車が馬車にかわる《だけ》であるはずがない。

ここでの旅は私が想像するよりきっとはるかに大変なのだ。


ましてや今の私は『空の子』だ。


同じ《王宮》の中でも――《宮殿》を出て《中央》に行くのにも気を使われるような人物なのだ。


王都を見に行くことすら駄目だと言われたじゃないか。


その私を馬車で5日かかるという高山に行かせてくれると言う。


そのために。レオンはいつから、どんな準備をしてくれていたんだろう。


「――準備……してくれてたの……?」


「当然だろう?」と言ったレオンが滲んで見えた。

何度も目をこする。


「ありがとう。レオン」



「ひとつだけ約束してくれるかな。必ず無事に帰ってきて。いいね?」


「――うん。もちろん。約束する」



行けるんだ。

テオの故郷。あの黒く光って見える植物がある高山に。



私も準備しなきゃ。

何が必要なんだろう。何を持っていけばいい?


情けない。

あんなに「行きたい」と言い続けていたというのに何ひとつ思いつかない。


ああ、でもひとつだけ。


早速、手紙を出さなくちゃね。



《人攫い》に―――――




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