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この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜  作者: ちくわぶ(まるどらむぎ)
1000年目
112/196

05 医師たち ※チヒロ




 ※※※ チヒロ ※※※



医師たちは話を続けている。


「この羽虫が成虫で、あの水の中にいた細長い透明の虫が幼虫だったんですね」


「水と一緒に飲んだ幼虫が人の体内で成長し、皮膚の下でサナギになる。

それが成虫になる時に、毒で人の皮膚を溶かして傷を作り出てくる。

その傷に残された毒が死病の原因。それで決まりかな」


「あとは、ごくたまに他人にうつることがある原因を突きとめたいな」


「傷に残された毒が死病の原因なら。

その傷を別の人間の傷と合わせたら毒がうつる、と思ったんだけど。

誰も死病に罹らなかったね」


―――トマスさんの傷に合わせてみたんだ。自分たちに傷を作って。


「傷を舐めれば毒がうつるのでは、って全員でトマスの傷を舐めもしたよな。

それでもやっぱり誰も罹らなかった」


―――全員、舐めたんだ


「毒を残された人の体液から別の人へとうつるのかも、と思ってトマスの食べ残しもらったけど、同じく誰もうつらなかったしねえ」


―――食べ残し


「血液ももらったけどうつらなかったぞ」


―――血……舐めたの?それとも自分の傷にすりこんだの?


「ロウエン先生は排泄物を疑って調べてたけど、うつらなかったしなあ……」


―――想像したくない!



医師たちはもう全員、私が『仁眼』を持っていると知っている。


傷はともかく、唾液も血も……(排泄される前の)排泄物も。

『仁眼』で黒いシミに見えなかったことも知っている。


それでも試さずにいられなかったのだ。

多分。人の体に入れば毒に変化する可能性もある、と。


「どれも医局の人数だけじゃ《絶対にうつらない》とは言い切れないけど。

大勢の人間で試せることでもないし」


「いや、やっぱり虫のせいじゃないか?

近所でたまたま偶然、同じ時期に死病に罹れば《うつった》と思い込んでもおかしくない」


「それかなあ……」


「患者から出てきた成虫にも毒があって、成虫から毒をもらうということはないかな」


「ああ!ありうる」


「チヒロ様、この成虫は毒を持っているのでしょうか?」


ニアハン医師に聞かれ、私は首を傾げた。


「いえ、毒はないです。この成虫に黒いシミは見えません。何故なんでしょう」


私の言葉を聞いて医師たちは様々な持論を話し始める。


完全に毒を使い切って出てきたからではないか?

この後、毒を取得するのでは?


この個体はオスで、メスならば毒を含んだ卵を持っているのではないか?


成虫に毒はなく、幼虫だけ毒が作れるのではないか?

あるいは幼虫は毒を含んだ食べ物を食べ、毒が身体に蓄積されているのでは?


そもそも、この虫は何を食べるのか?


幼虫は井戸の中を再現してやれば生きていたが何か食べていたのか?

食べていたのなら何を食べていたのか?


成虫はこの後、どこで暮らすのか?

何を食べるのか?どうやって繁殖するのか?


この虫を増やして実験できないか?

……同じ虫を探しに行くか?


こうなるともう話は終わらない。



レオンが医師たちを労うために、食事を用意してくれた。

実験のあいだ中、みんな簡単な食事しかできなかったのだ。


美味しそうな料理がのるテーブルを前にしているのに、医師の皆さんは食べるより死病の話に熱が入っている。


「あのさ……」


声をあげたのはサンチュレ医師だ。

医師たちの目が向く。


サンチュレ医師は言った。


「成虫が出て来る時に、出てくるところを塞いでいたらどうなるんだろう」


「え?」


「トマスから成虫が出てきたのは手の甲だ。人は手を良く使うだろう?

洗ったり風呂に入ったり。手の甲が水の中にあることもある。そんな時に成虫は出てこないんだろうか。


他に。他人がそこに触れていることもある。

……他の人間が触れている時に、成虫が出てくることは?」


聞いていた医師たちが声を上げる。


「……他の人間が成虫が出るのを塞いでいたら……成虫はその人間の身体も毒で溶かす?」


「お前!それなんでもっと早く言わなかったんだよ!そしたらトマスから成虫が出てくる時、《そこ》を触っていたのに!」


「いや。それで成虫が出てこれず死んでしまったら元も子もないだろ」


「ああー!もう一度実験して確かめたい!」


ニアハン医師が言った。


「――いや。待って。医局に《死病がうつった》例の報告書があるよね。

あれを見れば傷の位置がわかる。

……もしかしたらサンチュレの想像したように《成虫が出てくる時に、そこに触れていたから死病がうつった》のかどうか、わかるんじゃ……」



医師たちは競うようにして飛び出して行った。




―――すごい………


残された私は感心を通り越して呆れてしまった………




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