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この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜  作者: ちくわぶ(まるどらむぎ)
1000年目
111/196

04 実験 ※チヒロ




 ※※※ チヒロ ※※※



半透明の虫だった。


細い身体に羽根を持つ、小さな虫だ。



トマスさんが黒いシミに見える虫を飲んで10日後。

今日、医局を担当する者以外の医師、全員が見守る中。


トマスさんの右手の甲からゆっくりと出てきたその虫は、手に被せてあった袋の中に、容易に捕らえられた。


黒いシミとして見えていたため、そこから虫が出てくるだろうことはあらかじめわかっていたのだ。


捕らえられた虫を慎重に瓶に移す。


そんな少しの間にも、虫が出てきたトマスさんの右手の甲はじわじわと黒く染まっていく。


半日後。

黒いシミが右腕全体におよぶとトマスさんはいきなり高熱を出した。


ロウエン先生が実験の終わりを告げ、トマスさんが特効薬を飲むと黒いシミはすうっと消えていった。




誰もが大興奮でいる。



叫ぶ者、泣く者、抱き合い、笑い合う者ーーー


《南の宮》は熱気に包まれている。


そんな中、ロウエン先生はトマスさんを労りながら診察を終えると、私に頭を下げてきた。


私は慌ててやめてもらうに言う。

私はトマスさんを『仁眼』で見ていただけだ。


ロウエン先生は顔を上げると潤んだ目を押さえた。


大興奮でいた医師たちが師を取り囲む。



私は、医師たちの病気解明への執念にただただ圧倒されていた。


死病に罹るだろうことが分かっていて、トマスさんはあの虫を飲んだのだ。


見習いから正式な医師になったトマスさんが一番初めに希望した実験だった。


確かに医師は特効薬を飲むことを許されているが、万一がないわけじゃない。

それでなくとも病気の辛さは想像できないのに。


そして医師全員が、そんなトマスさんを交代しながら昼も夜もずっと観察し続けた。


一日後か、一ヶ月後か、一年後か。それ以上か。

いつ発症するのかは全く分からなかったのに。


頭を下げるべきはロウエン先生ではなく、私の方だった。


私はそっと医師たちに頭を下げた。




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