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この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜  作者: ちくわぶ(まるどらむぎ)
997年目
11/196

11 南の宮 ※チヒロ




 ※※※ チヒロ ※※※



「ついでに植物図鑑を追加しようか?」


「――っいいのっ?!」


「ご褒美だよ。君は植物に興味津々だったからね」


なんのご褒美だかわからないけど、やった!


思わず両手が上がった!


ここに来て、一番嬉しいかもしれない!



ここは《私》がいた世界じゃない。


《私》がいた世界の、昔のような所だけど《違う世界》だ。


この宮に来るまでに見た森の木が。草が。庭園の花が。そう主張していた。


自慢じゃないが田舎育ちだし、園芸は趣味だったのだ。

なのにここの植物は、どれひとつ見たことなかった。


花が、バラか?蘭か?チューリップか?わからないなんて驚愕したわ!


……ああ、本当にもっとじっくり見たかった。いや、触って匂いを嗅いで。


写真撮りたかったなあ……。スマホがあれば。


無理よね。電気もなさそうなここにはあるはずがない。


そして、私に作れるはずもない。


スマホ、パソコン、テレビ、洗濯機、冷蔵庫、レンジ、コンロ………。


私にあるのは《誰かが作った便利な道具を使う知識》だけだ。


私はたとえここに材料が全て揃っていても、《私》がいた国にあった道具を何ひとつ再現できない。


歴代の『空の子』の先輩たちは、ここで自分の持つ《知識》を存分に使って立派に英雄になっていらっしゃるのにね。


まあそれはいいんだけど。


どんな人たちだったのかな。それは知りたいよ。

私と同じように突然この国に来て、どんなふうに生きたんだろう。


生活はどうしてたの?家は?友達は?仲間は?恋人は?家族は?子孫はいるの?

伝えたものは今、どうなっているの?


『空の子』の先輩たちのことが知りたい。それは私が生きていく参考になる。


この国が知りたい。

街はどうなってるの?人々の生活は?植物は?動物や自然は?全部見たい。


ここがどんな世界なのか知りたい。知らなきゃ生きていけないもの。

だから外に出たい。


けれど外どころか王宮の中も、この南の宮の中も、庭に出ることも駄目だとは。


――「君は『空の子』なんだよ」――


殿下は私が人に会うことを相当に警戒してる。

一番初めに私の護衛を決めたくらいだ。


『空の子』はそれほどの人物だということだろう。この国にとって。

なんせ宇宙人だもんね。

きっと『空の子』の先輩たちも、はじめはそうだったんだろうな。


今は仕方がない。いずれ落ち着いたら許してくれると言うのだし我慢だ。

許可してもらえるまでは情報収集。座学に励もう。


そう思い直して、歴代の『空の子』たちについての記録と、この国について書かれた本を見せてもらうことにしたのだけれど。


植物図鑑があるとは思わなかった!


本当に嬉しい!


なのに殿下は続けた。


「……植物図鑑を渡すのは君が一通りこの国の知識を身につけてからね」


冷や水を浴びるとはこのことか!?

何ですって?


「殿下っ!」


思わず椅子から飛び降りた。

ほぼ同時に殿下は、まるで止まれというように片手をあげた。


「わかるよ。その喜び方。真っ先に図鑑を見る気だろう?でもダメ」


「何でっ?!」


「きっと君は飽きるまで図鑑しか見ない」


―――くうううぅ


図星だ。


きっと私は一日中図鑑を眺めてしまう。

なんでわかったのだ。ちっ、勘のいい。


でもそんなのってない!


そりゃ殿下が正しいのはわかってる。


今、私に必要なのは知識だ。


この国の、この世界のことを知ること。

何より《ここ》の常識をすぐにでも身につけること。


それが今の私には何より大事なことだ。

図鑑を見ることじゃない。わかってる


私だってわかってるよ!


だけど部屋から出ない。人とは会わない。


言い方が悪いかもしれないけど、それは軟禁だよね?

しかも期限が決められていない軟禁!


なのに図鑑までお預けなの?

唯一、癒しにできそうなことなのに。


私は、そんな楽しみも与えてはもらえないの?


私の気持ちを考えてはくれないの?!


「殿下」


「レオンだって」


「殿下!気をつけるから!」


「却下」


―――もう嫌っ!



吐き出そうとした言葉は、誰かの声に先を越された。


「殿下、発言をお許し下さい」



さっき廊下で私を睨んだ護衛の人だ。


ちょっと怖いのだ。

銀髪に小麦色の肌の20代半ばくらいの男性だ。


それはともかく


かなりの長身と、透明かと思うほど薄い青色の瞳の迫力が半端ない。


ひえっと身体が縮みあがった。


けれど


「『空の子』様はまだ幼い。それは厳しすぎるのではないでしょうか?」


私は感動した!


いいひとだっ!!!




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