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この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜  作者: ちくわぶ(まるどらむぎ)
999年目
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32 それぞれの想い ※空




 ※※※ 空 ※※※



「エリサに悪いことをしたな」


レオンの呟きをシンが拾った。


「仕方ありません。私も、まさか聞かされていないとは思いませんでした」


「何をやってるんだ《あの男》は」


セバスがチヒロ達が出て行った執務室の扉を見ながら言う。


「……あとはチヒロ様に任せるしかありませんが……大丈夫でしょうか」


「大丈夫。彼女はエリサの様子がおかしいと気づいていて何も言わなかった。

理由はわからなくても、エリサをそっとしておくつもりだよ。

それにテオがいる。彼女とテオとの会話は他言語だからね。誰も間に入れない」


レオンの言葉にシンも続ける。


「ジルもついて行きました。護衛はしばらく必要ないでしょう」


「そうだね。エリサも心置きなく次室で待機できる」


小さく息を吐くと、レオンは椅子に座り直した。


「さて。やはり例の――黒い光が見えた植物がある、国境近くの高山に行きたいという気持ちは変わらないようだね」


「テオの故郷だと知れば、ますます言われるでしょう」


シンが言い、セバスは厳しい顔をする。


「特効薬の生産国に行きたい、と言われるよりはいいですが……。どう考えても危険です。できたら大人しく《王宮》にいていただきたい」


「でもチヒロは行きたいと言い続けるだろうね」


「……言い続けていればレオン様はそのうち必ず許してくれるからと」


セバスが申し訳なさそうに言い、レオンは長い息を吐いた。


「……その自信はどこからくるの……」


「さあ……私には」


「単なる我儘ならともかく、死病の特効薬のためだ。

こちらもなんとかしたいことでもある。

しかも『仁眼』を持つ彼女より適した者はいない。

……僕が駄目だと強く言えないのを見抜いているんだろう。まいったな」


「しかし。今は《まだ》……」


「そうだね。許可するわけにはいかない。

でもそうかと言って、ただ待たせておくわけにもいかないかな。


王宮で大人しくしているような彼女じゃない。

他にできることはないか探すだろう」


「《託児所》の方は。再開されたと聞きましたが」


「そう。ひと段落してるし、何より王太子妃様が乗り気で見守ってみえるんだ。

チヒロも頼りにしている。チヒロを引き留めておくものとしては弱いかな」


「王太子妃様が……」


「ご子息の《東》の王子様と似た歳の子らが集まっているんだ。

気にされるのも当然かな。

先日はリューク公夫妻もみえたらしい。

チヒロが子ども達に《絵を描いてくれた人だ》と紹介したものだから、お二人とも子ども達に囲まれてしまったそうだ」


レオンがくすりと笑った。



《王宮》の《託児所》はあれからすぐに国王の許可を得て、すでに元の場所で再開されている。


見たことのない玩具。そして広い遊び場。

その上、子を預かるだけでなく読み書きや計算なども教えてくれるというので有償であっても予想以上に人気となっていた。


それどころか、同じような《託児所》がいずれ王都に作られるという情報が《王宮》で働く者から外へと口伝てに広がり、今や王都ではその開業が待ち望まれている。


チヒロが王太子夫妻やリューク公夫妻だけでなく、《託児所》に子を預けている者や子育ての経験がある侍女などに幅広く意見を募ったためなのだが、《王宮》にいる《実施者たち》はその事実をまだ知らない。



レオンが言う。


「……だから《王宮》の《託児所》は王太子妃様に任せておける。

なら高山に行けない今、チヒロはきっと《託児所》の次を考える。

王都が見たいと言い出すかな。

どんな《託児所》が受け入れられるのか知るために、平民の暮らしを実際に見てみたいと言うだろう」


「……すでに何度か言われ、お止めしております」


「……もう言い出しているんだ………」


「はい」


セバスのため息混じりの報告を聞き、レオンは額に手をやった。


「馬車に乗った視察を望むはずがない。お忍びで行きたいと言うだろうね。

ひと目で『空の子』とわかる目立つ漆黒の髪。瞳。

そして、あの容姿では到底出来はしないというのに。

――いっそ《王家の盾》の技で変装させてみる?」


「やめましょう。大喜びで毎日でも出かける、と言われるに決まっています。

警護が追いつきません」


シンがきっぱり言い、セバスも頷いている。


「だよね」


レオンは何度目かのため息を吐いた。


「……王都か高山か。どちらかなら高山だね。

たとえ王都を許しても高山を諦めはしないだろうし。


難しいけれど。僕も出来るならチヒロに《王宮》の外を見せてやりたい。

だが《あの》高山は……。


……せめて《解決》の目処がたつまで、何か彼女の気を逸らすものでもあるといいんだけど。

――何かない?」


レオンの問いかけに、シンとセバスはチラリと視線を合わせると仕方がない、と言うようにお互いの考えを告げた。


「………厨房なら」


「………テオなら」


それを聞き、レオンだけがにやりと笑う。


「ああ。――いいね」




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