29 瞳 ※チヒロ
※※※ チヒロ ※※※
「さてチヒロ。これからどうするかだけど。僕はできたら『全語』は知られない方がいいと思う」
レオンは座り直し言った。
「……それは言いふらすつもりはないけど。でも何故『全語』は知られない方がいいの?」
「他国に知られたら、君が他国に望まれるかもしれないから」
「他国?」
「そう。……望むだろうね。
『空の子』のことは他国も知っている。
しかし、他国が『空の子』を望まないのは重要視していないからだ。
百年に一人。現れるかどうかもわからない子ども。
何かに秀でた高い知識を持っていても、それはいずれ自分の国にも伝わってくる。
まあ高度な武器の知識でもあれば奪い取ろうとするだろうけどね。
そうでないなら、望むほどのことでもない。
君もそうだ。君という『空の子』の存在は、すでに世界中が知っているだろうけれど、ただそれだけ。
だけど君に『全語』があるとなると話は別だ。
自分たちと言葉が通じるどころじゃない。
君はこの世界のどの国の。どんな少数民族の言葉でさえも自在に操る。
世界中の人間と会話できるし、秘密文書も楽々読み放題だ。戦力になるんだよ。
他国が欲しいと思って当然だろう?………わかるかな?」
――わからない
私は首を傾げた。
「それは。ちょっと大袈裟に考えすぎじゃない?
他国の言葉なら自分たちが覚えたら済む話だよね?それをいくら世界中の言葉が操れるからって私を奪うために戦争する?
しないでしょ」
「……望む、と言ったんだよ。
誰も荒事を起こして君を奪いたいだろうとは言っていない」
「ああ、じゃあバレないように誘拐するってこと?」
「……いや。もういいや。とにかく他国が君を手に入れる方法は他にもあるということ。
それも合法的にね」
全くわからない。
でももうレオンは私に説明する気はないみたいだ。
話を続けた。
「だけど隠すのは難しい。厄介な能力だな。全言語が操れるだけならいい。
だが君は自分が今、どの言語を使っているか理解していない。
本やテオとの会話から考えて、君は自分に入ってきた言語をそのまま返すようだ。
君がこの国の言葉をずっと使っていたのも、僕らが君にこの国の言葉で話しかけているからかな。
隠す方法があるとすれば。
初対面の相手に接する時は、常にこの国の誰かの反応を見ることくらいだ」
「……」
「どうする?隠す?」
私はレオンの目を見てキッパリと言った。
「……積極的に《全言語が使えます》なんて言う気はないけど、隠したくない。
『仁眼』と同じだよ。私はみんなと共有して良い方へ使っていきたい」
返ってきたのは拍子抜けする答えだった。
「そう。じゃあそうしよう」
「え、いいの?」
「そうしたいんだろう?」
「……そうだけど」
信じられない気持ちだった。
レオンは隠した方がいいと言ったのに私はそれを拒んだ。
こんな時、今までならきっと私の意見なんて却下されていたはずだ。
なのに。
「……どうしたのレオン。何か……」
「何?」
レオンはただ微笑んでいる。
そこにあるのは落ち着いた琥珀色の瞳。
私は何故か戸惑い目を逸らした。
「……ううん。別に」




