表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜  作者: ちくわぶ(まるどらむぎ)
999年目
103/196

28 『全語』 ※チヒロ




 ※※※ チヒロ ※※※



「ああ、帰ってきたね」


執務室でセバス先生と、そしてレオンが私たちを迎えた。

レオンは机に肘をつき言う。


「早速、何があったか説明してもらおうか」


……ですよね。


思ったより怒ってなさそうなレオンにホッとしつつ、私は《東の宮》で黒いシミに見える虫を見つけてから今までの話をした。


レオンもセバス先生も黙って聞いている。


私が話し終わると、レオンが一言「そう」とだけ言った。


私は首を傾げる。


「レオン。どうかしたの?」


「いや。何故?」


「……ううん。何でもない」


正直、怒られるだろうと思っていた。


許可も取らずジルを連れて勝手に《中央》の医局に行ったことも。

王太子妃様に『仁眼』に気付かれたことも。


怒られたかったわけじゃないけど。

ちょっと意外だ。


いつものレオンなら、少なくとも何か小言くらい言うよね?

熱でもある?


ううん、それなら私が『仁眼』で見えるはずだ。

でもレオンを見てもどこも悪くない。


「チヒロ」と呼ばれて我にかえった。


「これを見てくれるかな」


はい?


これ?


私はレオンの指差している、机の上に置いてあった数冊の本を見た。


「……これ。昨日セバス先生が私に借してくれた他国の本だよね?これが何?」


「読んだの?」


そりゃあ読むよ。「次はこの本で勉強しましょう」と言って渡されたのだ。

え?読んじゃいけなかったの?遅いよ?


「……まだ全部じゃないけど、読んだよ?それが何?」


「へえ、やっぱり何も違和感なく読めたんだ」


「違和感?」


何が言いたいんだろう?


「違和感って?……確かに知らない言葉があったけど?」


レオンは大きく息を吐くと言った。


「チヒロ。この本すべてを読める人間は、この国に殆どいない。

これらは全部さまざまな他国の文字で書かれているからね」


……え?


「え。他国の文字?そんなはずない。翻訳本でしょ?だって、普通に――」


「――読めるのは君だけだ。……不思議なことなんだよ。

全ていつもの――この国の文字に見えているから読める、なんてね」


言われていることが理解できない。


私は机の上に置かれている本の中から一冊を手に取った。


……普通だ。どこもおかしいところはない。

いつもの文字で書かれていて。普通に読める。


これが他国の文字?そう言っているの?


私は助けを求めて机の向こうのレオンを見た。

でもレオンの返事は私の思っていたものじゃなかった。


「普段使っている文字にしか見えていないんだろう?でも違う。

それは他国の文字。君以外にはそう見えている」


「……うそ」


「嘘じゃないよ」


本を見たまま唖然とした。どういうこと?


レオンは続けた。


「きっとここにある他国の言語だけじゃない。

たまたま偶然、君が読める文字だけここに集まった、なんてことは考えにくいからね。


君は多分、この世界の言語は全て読めるし書けるし、話せる。


それこそ息をするくらい簡単にね。

――それがきっと『全語』の能力なんだよ」


「『全語』?」


ああ。古代の貴人が持っていたという『仁眼』と、もうひとつの能力『全語』。


貴人の記録書を読んだロウエン先生にも、どんな能力かわからないと言われていたあの『全語』?


それが、これ?


―――私は、この世界の言語は全て読めるし書けるし、話せる?


「え、ちょっと待って。でも。それは他国の文字が読めたのかもしれないけど、なんで書けるし話せるって?

それはわからないじゃない」


レオンは机の上に置いてあった本の下から、一枚の紙を取って掲げてみせた。


「これは君がここにある本を読んで、知らない単語を書き出した文字。

僕には他国の文字が並べてあるだけに見える。これが《書ける》という証拠」


「……話せるっていう方は?」


「それならすぐに試せる。――テオ」


「え?テオ?」


いつの間に来ていたのだろう。

セバス先生がドアを開けてテオを部屋に招き入れた。


久しぶりに会ったせいかテオはまた少し大きくなってる気がする。

いつものように駆け寄りたいけれど、今はそんな雰囲気じゃない。


そのせいか、テオもオドオドしている。



セバス先生に即され、テオが口を開いた。


【……今まで喋れないフリをしていてごめんなさい】


私は思わず言った。


【テオ!話せたの?】


「ほらね」


え?


レオンを見る。


「テオは僕らとは言葉が違う少数民族の子どもだ。


三年前、国境近くで他国の大使が絡んだ揉め事があった。

そして、その大使の顔をよく知る近衛騎士が二人、派遣された。


テオはその時に派遣された近衛騎士の一人が連れ帰り、その後シンに引き取られたんだよ。


テオは必死で我々の言葉を覚えた。

だからテオは日常生活に困らないくらいに僕たちの言葉を使える。


けれどどうしても、話す言葉には訛りがあるんだ。

不意に少数民族の言葉も出る。


《王宮》で訛りのある言葉や少数民族の言葉を聞かれたら……どう思われるか不安だったのだろう。

テオは《話さない》ことにして《王宮》に来たんだ」


【ごめんなさい】


テオは半泣きになりながら私に頭を下げた。

私は横に首を振った。


違う。嫌だ。

私はテオの、こんな顔を見たくない。

だから私は―――。


【やだ。許してあげない】


テオは青くなった。 

私はその顔をじっと見て言う。


【でも《チヒロちゃん》って呼んでくれたら許してあげる】


【はあ?《チヒロちゃん》なんて呼べるわけないだろ!】


テオははっとして固まった。


成功だ。そう言うと思った。

私はにやにや笑いが止まらない。


【お、おばさん性格悪い!】


テオが赤くなって叫ぶ。

そして私が笑うとつられて笑い出した。



レオンが言う。


「さあ、これではっきりしたね」


「レオン……?」


「国境近くに住む少数民族であるテオの言葉は、僕らは誰も理解できない。


でも君は今、そんなテオの――少数民族だけが使う言語でテオに返事をしたね。

気づいてなかったようだけど。


君は、きっと同じように、この世界の言語全てを何不自由なく扱える。

自然すぎて、君自身気がつかないほどにね」



―――なにそれ



なんと言ったらいいか、それってあの


「な………………なんとかコンニャク的な…………?」


レオンが怪訝そうな顔をする。


「ナントカコンニャク?」


私は両手で顔を覆った。


「チヒロ?」


レオンが心配したのか、椅子から立ち上がった音がした。


「気にしないで。大丈夫」


「でも――」


「――大丈夫。……ちょっと悔しいと思ってしまっただけだから」


「………悔しい……?」


―――くうううううぅ


この能力、前世でも欲しかった……


何年、あの横文字に苦しめられたことか……っ!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ