第27話 防衛戦・後編
長らくお待たせしました。
大きい……。間近でみるとこうも違うのか。
瞬間、あの時のゴーレムを彷彿とさせる。
ビッグゴブリンを主体として、次々と敵が門を潜り、広場に侵入してくる。
ビッグ・ゴブリンの後方から炎弾が矢のように打ち出される――。
しかし、行動を予見していたシティリアが防御魔法で相殺する。
私とリンは、スタークを先頭に、敵へと接近していく。
途中、ゴブリン共の邪魔が入るが、スタークが盾で弾き飛ばし受け流す。
ヤツらの相手は防衛隊の人たちに任せ、私たちはビッグ・ゴブリンにのみ集中する。
ビッグ・ゴブリンが右手に持っている大きなこん棒を振り下ろしてくる――。
私たちはそれを避けない。
シティリアが防御魔法で壁を作ってくれることを知っていた。
こん棒の攻撃は防御魔法の壁で阻まれ、私たちに当たる事は無かった。
このままビッグ・ゴブリンと相対する事ができるかと思えば、そう、上手くはいかない。
もう一つの討伐対象。ゴブリン・ソーサラーが立ちはだかる……。
後方から声が聞こえてきた。
「1分!!! 時間稼いで!!!」
シティリアの願いに、私たちは意気揚々と呼応する。
やる事は分かっていた。自然と体が動く。
「スターク! ヤツの注意を引き付けて! 私とライチャスネスで後ろの奴らをヤる!」
リンと私が魔法系ゴブリン殲滅に行動を開始、スタークがビッグ・ゴブリンの正面に立つ――。
「てめぇの相手は俺だ!!」
ビッグ・ゴブリンも自らの巨躯を生かし、スターク目掛けて、こん棒による攻撃を放つ。
それを受けるスターク。受けるだけではない。その攻撃の衝撃を、しっかりと流しつつ防ぐ。
普通の人間に、こんな事が出来るのか? いや、彼が普通ではない事を私は知っている。
ビッグ・ゴブリンの横でゴブリン・ソーサラーが魔法を放とうとしている。
スタークに中てるつもりか、そんな事はさせない。
私は<<疾走のカルマ>>を発動し、ゴブリン・ソーサラーに駿足で距離を縮める。
ゴブリン・ソーサラーの標的がスタークから私に変わる。
手から炎弾が発射されるが、来ると分かっている攻撃を回避する事ならばできる。
体勢を低く保ち、至近距離まで接近した私は、握りしめた六尺棒による打撃を力いっぱい叩きこむ。
膂力のカルマによって向上した会心の一撃が、ゴブリン・ソーサラーを吹っ飛ばす。
――が、絶命までは至らず。ゴブリン・ソーサラーからはまだ戦意が消えていない。
私は、間を置かず追撃を開始する。
それを予見していたのか、ゴブリン・ソーサラーは自らの前方に電撃の壁を解き放つ。
私は勢いよく敵の攻撃に直撃してしまった。
体中に、雷が、迸る。
私はゴブリン・ソーサラーの目前でひざを折り、無防備を晒す。
「ライチャスネス!」
リンが心配そうにこちらを見ている。大丈夫。私は死んでいない。
一歩ずつ、ヤツが近づいてきているのが分かる。
そうだ……。来い……。来い……。こっちへ……。あと1歩……。
とどめを刺そうとしているのか、私の目前で魔法を詠唱しているのが分かる。
――瞬間。私は右手でゴブリン・ソーサラーの首を鷲掴みにする。
ヤツの目からは、驚きの表情と、呪文を詠唱できずに悶えている声だけが口から漏れていた。
殺ったと思っただろう? ――残念。私の勝ちだ。
私は渾身の力を込めて首を捩じり潰す。
よし……。目標の一つを討伐した。
リンのほうへ気を配ると、既に魔法系ゴブリンを仕留め終わっている。流石だ。
「スターク! もう良いわ!」
「おうよ!」
シティリアの掛け声と同時にスタークは、ビッグ・ゴブリンから距離を取る。
ビッグ・ゴブリンもスターク目掛けて、追撃を放とうとする。
しかし、シティリアの一撃がそれを許さなかった。
両手から、今まで見た事も無い巨大な炎の渦が顕現されている。
シティリアの手を離れたその魔力の塊は、ビッグ・ゴブリンの中心に直撃する。
ビッグ・ゴブリンは悲鳴と共にもがき、苦しむ。
炎の渦は胸元へ衝撃を与え、膨大な熱量が回転しながら体内へと侵食していく。
私たちはヤツから距離を取り、様子を伺う。熱気が熱風となって周囲まで影響を及す。
「これで生きてたら大したものだわ」
シティリアが小言を漏らす。
だが、シティリアの杞憂とは裏腹に、その巨躯は、糸が切れた人形のように、
前のめりに倒れていった。
私たちはお互いの無事を確認する。
「気持ちを切らさずに行きましょう。まだ城壁の外には沢山のゴブリンがいる」
リンの指示に対し、私たちは戦意を整える。
防衛隊長さんが部隊へ号令を掛ける。
「彼らに負けるな! 私たちも町を守るぞ!」
堅守の姿勢を崩さない防衛隊は進軍を開始し、共に私たちは城壁の外へと出撃する。
外では、まだ沢山のゴブリンが待ち構えている。守り切ろう。この町を。
私は武器を構え、一匹としてこの門を「通してやるものか」と心の中で反復していた。
――。城壁の上の兵士から声が聞こえる。
「――たぞ! 援軍が!! きたぞー!!」
ゴブリンの後方から、多数の人影が……、馬と共に現れる。援軍がやってきた!
……陽は、まだ落ちていない。間に合った。間に合ったんだ。
王都からの援軍は、ゴブリンの後方を食い荒らすかのように怒涛の進撃を続ける。
その中には、兵士以外にも多数の冒険者の姿があった。
「よし! 私たちも一気に出るぞ!」
防衛隊長の指揮のもと、私たちはゴブリンに対し猛攻を開始する。
前後を挟まれ、逃げ場を失ったゴブリンたちは、為す術もなく大地へと伏していく。
私も、周りの鼓舞に同調し、前線で奮闘していた。
ゴブリンを打倒し、前方を切り開いていく。
「おい! ライチャスネス そっちへ行くな!」
スタークの掛け声で、一瞬、我に返る。
少し前に出過ぎてしまい、戦闘の体勢を崩してしまった。後ろに下がらなければ。
私の目の前にいたゴブリンが2匹、ここぞとばかり強気に出る。
ヤツらは獲物を見る目で私に刃物を振り下ろす――。
私は六尺棒で防御の構えを……。
――。
私に襲い掛かってきた2匹のゴブリンは、攻撃の所作を振り終わる前に真っ二つに分断され、
動かぬ骸となって地面に転がる。
誰かに助けられた。応援で駆け付けた兵士さんのようだ。
「まだまだね。中島さん。おっと、今はライチャスネス……だったわね」
私は、その聞いたことがある声にビックリする。
「村瀬……さん?」
村瀬さんは、やれやれといった表情でこちらを見ている。
「フフッ。こっちの世界ではフロウよ」
一番近くにいたスタークがこちらへ駆け寄ってくる。
「……ッカヤロウ!! 戦場で我を忘れて先に出るヤツがあるか!!!」
「ああ。スマン」
少し頭を冷やさなければ……。リンやシティリアたちも合流し、戦線を立て直す。しかし、もはや周りのゴブリンは逃げるように遠くの方へ離れていき、私たちの周りは安全地帯となっていた。
私は皆に状況の説明をする。
「この人に今、助けられたんだ。紹介するよ。この人はフロウさんって言って――」
「知ってる」
リンが一番に答えた。ああ、そりゃそうか。リンはお城の兵士だったもんな。
続けてシティリアが喋りだす。
「フォレスト・グレース・フロウさん……でしょ? 冒険者の間でも有名だわ」
む。有名なのか。と、スタークが腕を組んでこちらへ視線を流す。
「別名、『軍神グレース』と呼ばれている。王都で知らんヤツおらんだろう」
へ? 軍神グレース?
私は口にぽっかり穴が開いたような表情をしていることだろう。
そんな肩書あったのか。王都で会ったときは本名しか教えて貰わなかったけど……。
軍神様に問いただすか。
「軍神って――」
「ンッ!ンッ!」
村瀬さん咳払いに、私の言葉はかき消されてしまった。
突如、村瀬さんに近づかれ、耳打ちされる。
「自分で自分の事……。軍神なんて自慢するの恥ずかしいでしょ……」
ああ、なるほど。そういう理由で……。まぁ、確かに。
“お城の関係者”であり、別世界である日本まで出向いて“異物を回収する役目を担っている者”として、何らかしらの立場の人間なんだなぁと思っていたけど……。
まぁ王女様も日本にきてたしなぁ……。
リンが場を取り持つ。
「とりあえず、後はもう大丈夫そうね? 町まで戻りましょうか」
村瀬さ――軍神様もそれに同調する。
「ええ。後は応援に来てくれた兵士で充分殲滅できます。皆さんもお疲れでしょう。一旦、休憩をとるといいわ。防衛隊の人たちも、順次、戦闘の後始末が残っているでしょうし」
そうだな。これだけ多数の骸があちこちに点在している。このままってわけにもイカンしなぁ。
とりあえず……、とりあえず……。
ねむい……。
一気に気が抜けたのか、顔から覇気が消えていく。
リンよ。お前もか。
それに、スターク……。
シティリアまで……。
どれ、ここは冗談の一つでも……。
「ハハッ。なんだよみんな。眠そうな顔して」
スタークにガシッと肩を組まれ、笑顔で一言。
「お疲れさん」
町は無事、守れた。
お読みいただきありがとうございましたm(_ _"m)




