第22話 異世界四日目・後編
リンと街まで出かけて、洋服を買いに行く。いつも街まで案内してくれて感謝している。
護衛役も兼ねてもらっているけどもね。
商店街で洋服店をめぐり、色々見て回る。時々街の兵士ともすれ違う。
街の人も、兵士も、穏やかな雰囲気を感じる。
やはり、この前の出来事は普通では無かったんだな……。
目的に沿う洋服が売っていたので、買う事ができた。荷物は持って帰れる量で済む。
買い物を済ませた帰り道。こちらの世界でも何か、お金を稼ぐ手段は無いかとリンに相談した所。
「それでしたら、冒険者ギルドなど如何でしょうか」
と、教えてくれた。冒険者ギルド……。初日に教えてもらったのを覚えている。
街の人たちから様々な依頼をこなす人たちが集まる。仕事の斡旋所だ。
「異世界の人間でも登録できるのかな?」
「大丈夫ですね。ミ…ゴホン。森繁さんに、便宜を図るように言付かっておりますので」
「じゃあ、行ってみるとしよう。えーと……。商店街から冒険者ギルドへ行くには……」
「こっちですね。ついてきてください」
「スマン。まだ道に慣れてなくて」
リンに連れられて、冒険者ギルドまで到着した。近くで見ると結構なデカさ。
建物の前に看板がある。これぞ冒険者ギルド…。読めないけどね…。魔道具のおかげで言葉は話せるけど、文字まで読めるようになったわけではない。とりあえず入ってみよう。
中に入ると、広々としたスペースで、人が大勢いる。淀んだ空気も無く、仕事を依頼に来る人、仕事を探す人、仕事仲間を募集してる人。また、掲示板に依頼を張っている人たちや、ギルドの受付で相談している人……。端的に言って、活気に溢れている。
「リン。とりあえず……。どうすればいいかな?」
「そうですね。ここは元・冒険者の先輩としてお教えしましょう」
リンが鼻高々に先導して教えてくれる。元・冒険者という事もあって、こういう雰囲気が好きなのかな?
「先ずはあちらの受付にいって、冒険者登録をします」
「分かった」
「おや? 冒険者登録の列は意外と空いている」
「日常的にこの街で冒険者をしている方は、ほとんどの人が既に登録を済ませていますからね」
「なるほど…」
少し待っていると、列が進み自分の番になり、受付嬢の人に声を掛けられる。
「こんにちは。今日は冒険者登録でございますか?……って、リンさんじゃないですか? お久しぶりです。また冒険者になりたくなったんですか?」
「久しぶりね~。今日は私じゃなくて、ちょっと訳ありで、この人を冒険者にしてあげて欲しいのよ」
「なんだぁ。またリンさんが戻って来てくれるのかと…。おっと、こちらの男性の方ですか? 構いませんよ。お名前を伺ってもよろしいですか?」
あ、名前…。あ~~~。しまった。日本名の中島義行で、通じるのか……?
「あ。あ~。ちょ、ちょっと待ってください」
私はリンに小声で相談する。
「名前って、そのまま本名じゃ不味いかな…」
「そうですね…。私もそのことはすっかり失念していました。どうでしょう? 新たなニックネームを考えては…」
「ニックネームって、偽名ってことだよな…。大丈夫?」
「ミ……森繁さんから、便宜を図るようにって言われてますので…この際、やっちゃいましょう」
グッとガッツポーズを取るリンであった。
受付嬢が不思議な顔をしてこちらを見ている。早く決めなければ……。
そうだな…。よし。
「“アイランド・ライチャスネス”。私の名前はアイランド・ライチャスネスです」
「ライチャスネスさんですね。ではこちらにご記入ください」
ウッ。文字 カケナイ。
「ライチャスネスさん。緊張しなくても大丈夫ですよ。この用紙にこうやって書くんですよ~」
リンがさり気なくフォローしてくれて代筆してくれた。必要事項までスラスラと。タスカッタ。
「はい。ご記入はこれで問題ありません。ギルドカードを発行いたしますので少々お待ちください」
受付嬢が奥に去って行ったのを見て、さり気なくリンに質問する。
「ギルドカードって…?」
「この人は『ギルドに所属する冒険者』っていう証明書です」
「なるほど。証明書ね」
「ちなみに、おいそれと誰でも発行できるわけではないんですよ。基本的には“街に住んでいる人である”と身分を掲示しなければなりません」
なるほど、便宜を図るという事に感謝だ。
奥の方から受付嬢が戻ってきた。
「はい、こちらがギルドカードです。無くさないでくださいね。無くしてしまうと、罰金となります。ちなみに3回無くすと、よほどの事が無い限り再発行いたしませんので注意してください」
「了解です。ありがとうございます」
3回無くすと……? そんな人もいるんだろうか…。いるんだろうなぁ。
おっと、後ろに並んでいる人がいないとはいえ、受付が終わったらどかなければ。
「さて、ライチャスネスさん。どうします? 試しに何か依頼を受けてみますか?」
リンは依頼が貼ってある掲示板を案内してくれた。そこには様々な依頼が書かれている…。
でも、読めないんだよなぁ…。
「リン。スマン。何か良さそうなの。読み上げて…」
「そうですねぇ」
リンが掲示板に目を通し、腕を組みながら悩んでいる。
「お」
左下に張ってある目立たなそうな紙を一枚はがし、手に取りながら話し始めた。
「これなんてどうでしょう。【農作物を荒らす魔物退治の願い】」
ふむ。魔物退治…か。
「リンが丁度良いと思って見つけてくれたのなら、それにするよ」
「では決まりですね」
リンは依頼書を手に、ギルドの受付に案内してくれた。ギルドのメインともなる受付のため、多少混雑している。これは自分の番が来るのは長そうだ……。
「お、リンじゃねえのか? おーい!」
遠くのほうから声が聞こえてきた。その方を向くと、大柄な男がこちらに笑顔で近づいてくる。というより。ムキムキマッチョマンである。
「あら、スターク。久しぶりね」
「なんだよ~また冒険者稼業始めるのか~?」
「そうね。こちらの人が」
「なんだあ。リンじゃないのか。でー、どちらさまでしょ?」
「ああ、えーと。ライチャスネスと申します。よろしくお願いします」
「おぉん!? 随分丁寧だな! ガハハ! 俺はスタークってんだ。ま、ヨロシク!」
リンがあきれ顔で口を挟んできた。
「ちょっと…、声。うるさいっ。他の人にも迷惑でしょ」
「っとすまねぇ。久しぶりにリンの顔を見れたもんでな。テンション上がっちまった」
スタークは落ち着きを取り戻したようだ。
「ま、ライチャスネス…さんだっけ? 困ったことがあったら俺にも相談しな! ギルドの受付か誰かに言えば、俺に伝わるからよ」
肩をドンっと叩かれる。ちから つよい。
「そ、れは、ありがとうございます」
スタークは笑顔で去って行った……。っと、自分の番が来たようだ。
依頼を受ける申請手続きを、リンに再び手伝ってもらい、事務的な作業は滞りなく行われた。
「さて、依頼の受注も完了したし、今日の所はお城に戻りましょう。ナカジ…じゃなかった。ライチャスネスさん」
「すぐに依頼をしに行くわけじゃないんだね」
「街の遠くの方まで行かなくちゃいけないから、今日の所は戻っても大丈夫ですよ。それに、急ぎの案件ではない依頼を選んだし、お城の人たちにも報告しないとね。あ、失礼しました。先輩風を吹かせてしまい、言葉が荒くなっておりました…」
「いや、冒険者としてはリンのほうが先輩だからね。郷に入っては郷に従うさ。じゃあ、実際に出発するのは明日かな…」
お城に戻る足取りの中で、明日の事を考えていた。
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