第六十五話 デートのお誘い!? その二
「では、明日一日お二人でデートに行って来てください」
「「えっ!!」」
ディベルゼさんがあっさりと言い、シェスも私も驚きで言葉が出なかった。
いやいや、明日って! そんないきなり!
「あ、あの、でも、シェスのご予定は……」
「大丈夫です!」
何故かディベルゼさんが断言する。当の本人はというと……、固まってるよね。
「ほら、殿下!」
「あ、あぁ、明日、その、街に行こう……」
だ、大丈夫? 本当に行きたいと思ってくれてる? ディベルゼさんに無理矢理促されてるだけじゃ……。
不安そうにしたのがバレたのか、シェスは慌てて言い直す。
「いや、私がリディと一緒に行きたかったんだ」
そう言うとシェスは真っ赤な顔を横に向け、さらには俯いてしまった。
あぁ、その顔もっと見たかったな……、と嬉しいやら残念やら、何だかそわそわしてしまう。
「何ですか、この極甘なやり取り。お二人とも初々し過ぎてこちらが恥ずかしくなりますよ」
ディベルゼさんが呆れたように言うと、ギル兄もマニカもクスクスと笑った。オルガは……うん。
うぅ、恥ずかしい……、だって今まで好きな人もいたことがないのだもの。どうしたら良いのか分からないのよ! 自分自身がむずがゆく恥ずかしいわよ!
でもシェスは……、女性に慣れてないだけだもんね……、私がどうとかはなく、婚約者だから相手をしてくれているだけで……。考えたら悲しくなるからやめよう!
うん、楽しむって決めたんだから、シェスへの片想いも楽しむのよ!
シェスのこんな可愛い顔を見られるなんてラッキーじゃないの! ここはやはり積極的にいって、この可愛い顔をたくさん見ておかないと!
何だか別の方向にやる気が出ている気がするけど……、気のせい気のせい、気にしない。
「で、では、明日朝からお出かけしますか?」
「あ、あぁ」
パーン!! とディベルゼさんが手を一つ打って、全員がビクッとなった。
「さあ! では、殿下、超特急で仕事を終わらせ明日一日を休暇にしますよ!」
「え、あ、あの、大丈夫ですか?」
何だか無理矢理予定を入れさせてしまったようで気が引ける。
「大丈夫です! 殿下の頑張り次第です! しかし殿下はリディア様のためになら頑張れます!」
ディベルゼさんが声高々に言う。
「ルゼ!! お前はいつも一言多い!!」
シェスがディベルゼさんに怒鳴った。そのやり取りが見ていて楽しい。シェスもディベルゼさんには勝てないんだな。二人の掛け合いが何だか可笑しくて笑った。
「ありがとうございます。では、明日楽しみにしております。でもご無理はしないでくださいね」
無理をされたくはない。仕事を詰め込み過ぎて疲れさせたくはない。それは嫌だ。
真面目に言うとシェスにもそれが伝わったのか、ディベルゼさんから向き直り答えた。
「あぁ、大丈夫だ」
そう言いシェスの手が伸びてきたかと思うと、そっと頬に触れた。そしてゆっくり撫でたかと思うと、唇を親指でそっと撫でられた。その見詰める瞳は熱を帯び艶やかで色っぽい。
あまりに唐突な色気に気圧され動けないでいた。
「あ、あの……」
「はいはーい! 殿下、いくらリディア様がお綺麗でも、正気は保っていてくださいね」
ディベルゼさんがシェスとの間に割って入って来た。その瞬間、ほっとし固まっていた身体が動く。
今の何!? 恥ずかしいのを通り越して思考が停止したよ! 鼻血が出なくて良かった!
「周りに我々がいるのを忘れないでくださいよ? そういうことは二人きりのときにでもどうぞ」
「えっ!?」
何てこと言うのよ、ディベルゼさん! 二人きりのときにあんなことされたら気絶してしまう!
さっきからシェスの反応がないんだけど……、どう思っているのかしら……。
恐る恐るシェスを見ると……、真っ赤になったかと思うと、それをさらに通り越して青くなった……。
「あ、い、いや、違う、あれは!!」
青くなり赤くなり、頭を抱え、完全に混乱している……。その姿がとても冷徹王子とは思えず、何とも情けない姿が可愛く、笑いが堪えきれなかった。
「フフフ、アハハ……、フフ、アハハハ……」
涙まで出て来た。しまった、止まらなくなってしまった。
それに釣られて他の皆も笑い出す。シェスは呆然としていた。
「ご、ごめんなさい、笑ったりして。あまりにシェスが可愛くて……」
と言ったところで、あっ、となった。
「か、可愛い!?」
シェスは目を見開く。
あぁ、やってしまった。可愛いだなんて! 男性に言っても喜ばれないだろうに。激怒されたらどうしよう……。チラリとシェスを見た。
「か、可愛いとは何だ!? どういうことだ!? 男が可愛いのか!?」
あ、混乱してる。
「殿下……、落ち着きなさい。可愛いも褒め言葉ですよ」
ディベルゼさん……、めんどくさくなったわね……。
シェスの肩に手を置き、ディベルゼさんは薄っすら微笑んで遠い目をしていた。
「で、では、失礼いたしますね」
ここは逃げよう。
「え、あ、リディ……」
シェスが我に返るのを待たずして執務室を後にした。
足早に執務室から急いで遠ざかる。
「あぁ、色々何だか疲れちゃった……」
「フフフ、お嬢様、良かったですね」
「う、うん、大丈夫かなぁ……」
緊張しかない。
「明日って二人とも付いて来てくれるのよね!?」
慌てて聞いた。そういえばディベルゼさんが「二人で」と言っていた。二人!? 二人きりで!?
そんなの無理だ!!
「明日はシェスレイト殿下とお二人ということでしょう? 殿下方はそうおっしゃっておられたかと思うのですが」
「えぇ!!」
「俺は一緒に付いて行く!!」
オルガが叫んだ。
「オルガ、そこは引きなさい。貴方は従者です。お嬢様との立場を弁えなさい」
マニカが冷静に諭した。オルガは唇を噛む。少し涙目になっている?
「オルガ……」
いや、私は出来ればマニカにもオルガにも一緒に来て欲しいけどね? でも今はそれを言ってはいけないのよね、きっと。
マニカもオルガも真面目な顔だしね。
オルガは涙目になりながら、踵を返しそのまま背を向けたまま歩き出した。
ごめん、と言うのも違うと思う。だから何も言えなかった。
その後は三人とも無言のままで部屋まで戻ったのだった。
部屋に戻るとその日は明日のためにと、マニカは早めに夕食準備や就寝準備をしてくれ、いつもよりも早い就寝となった。
「明日二人きりで外出か……、大丈夫かな……」
楽しみ半分、不安半分だった。




