第六十一話 告白!?
ゼロは周りを警戒しながらも優雅に飛ぶ。
以前も通った行路だが、やはり大空をゼロに乗って飛翔するのは気持ちが良い。
『リディア、どうかしたか?』
「え?」
『何やらいつもと雰囲気が違う気がする』
何で皆にバレるんだろうな。苦笑した。私ってバレバレなのかしら。
「ん、あのね、クズフの丘についたらちょっと話がしたい」
『? あぁ、分かった』
ゼロはそれ以上何も聞かず飛び続けた。
クズフの丘が見えてくる。
巨木の根元にセイネアの青い色が見える。
ゼロはセイネアの花が咲く場所を避け、地上に降り立つ。
ゼロの翼の風に煽られ花弁が揺らいだ。
「綺麗だね……」
巨木の側に立つと、周りには遮るものが何もなく見渡す限りの平原が広がっている。
ゼロは何も言わず側にいてくれる。
ラニールさんもそうだったが、皆何故こんなにも優しいのだろうか。
私は幸せ者だな。クスッと笑った。
『リディア?』
「フフ、ゼロ、大好きだよ」
『? 私もだ』
「うん、ありがとう。私ね、ゼロに言っておかないといけないことがある」
ゼロは何も言わず、黙って聞いていた。
何て言ったら良いだろうか。
マニカ以外に初めて自分のことを話す。緊張する。
ゼロは魔獣だから、他の人間とは話せないから、だからゼロに話してもバレる心配はない。
そんな卑怯な心。言ってしまうとゼロの負担になるかもしれないのに……。酷い相棒だね。
でもやはりゼロに何も言わず離れるのは嫌だから……。
「わ、私ね……、その……、リディアじゃないの……」
『? リディアではない? どういう意味だ?』
心臓の音がうるさい。大きく深呼吸をし、ゆっくりと話した。
「私ね、リディアじゃないの。リディア本人と魂だけを入れ替えた別人なの」
『魂だけを入れ替えた?』
「そう」
『では、今の君は誰なんだ?』
「外見はリディアだよ。中の人間はカナデ」
『カナデ?』
「そう、魂だけ入れ替えたカナデという人間……」
リディアの記憶もあるし、徐々にリディアとして馴染んで来てしまっている。だからカナデの記憶もあるが、今は混ざり合ってしまったかのような、不思議な感覚なのだけどね。
『カナデ……』
ゼロは考え込んだように、しばらく無言だった。
『ならばカナデと呼ぶほうが良いか?』
「え? あ、ううん、姿はリディアだし、リディアで良いよ」
『そうか、ならばリディア』
「うん。それでね……、私は次の誕生日にはいなくなる……」
『!? どういうことだ!?』
初めてゼロが激しい口調で聞いて来た。
「誕生日に入れ替わって、次の誕生日までって約束なの」
口に出すと悲しくなってくる。でも泣いてはいけない。ラニールさんがたくさん泣かせてくれた。もう覚悟は決めたのだから。
『そこで入れ替わりを戻したら、君はどうなるんだ!?』
「本来のリディアが戻るよ」
なるべく笑顔でいようと思ったが、どうやら少し悲しい顔になっていたらしい。
ゼロは頭を擦り寄せ、座るように促した。
巨木の根元に腰を下ろすと、ゼロは再び聞いた。
『本来のリディアが戻れば、君は二度と私の前には現れないということか……』
「うん…………」
『もう決まっていることなのだな?』
「うん…………」
『…………分かった』
ゼロは一言そう言った。沈黙が流れ、風の音だけが聞こえる。
『私のことは忘れてしまうのか?』
「え?」
『カナデに戻ると君は私のことを忘れてしまうのか?』
元の世界に、カナデに戻ると……
「きっと忘れない! ううん、絶対忘れないよ!」
ゼロの首に力いっぱいしがみつく。
『私の相棒は君だけだ』
「うん」
本来の「リディア」が戻っても、もうそれは今の「私」ではない。
ゼロは「リディア」を乗せなくなるだろうか。乗せてもらわないと今までのリディアと別人であることがバレてしまうかもしれない。でも私以外には乗せて欲しくない、といった自分勝手な気持ちがこみ上げ、自分自身が嫌になる。
だから「乗せないで」とは言えない。言ってはいけない。
そう自分に言い聞かせた。
力強くゼロを抱き締め、そして離れた。涙が出そうになるが、ぎゅっと目を瞑り深呼吸をし顔を上げた。
「ゼロ、呼び笛を試そうか」
『…………』
勢い良く立ち上がり、ゼロの顔を見下ろしながら出来る限り明るく言った。
『分かった』
そう言うとゼロもゆったりと立ち上がり、巨木の側から離れた。
「私はずっと呼び笛を吹いておくから、ゼロは聞こえるところまで飛んでね。聞こえなくなったら戻って来て」
『あぁ、分かった』
ゼロは翼を大きく広げ羽ばたかせた。その風圧にセイネアの花が揺れている。
大きく羽ばたきながら少し上空まで上がると、私が鳴らした笛の音に反応するように、ゼロは一度こちらを見てから平原を飛んで行く。
どんどんとゼロの姿が小さくなっていく。小さくなって……、見えなくなった。
「ゼロ……」
姿が見えなくなった途端不安になる。
周りを見渡しても誰もいない。草木以外何もない。まるでこの世に一人きりになったかのよう。
一人になった途端こんなに弱くなるとは。自分が信じられなかった。
「ゼロ……ゼロ!! ゼロ!!」
吹いていた笛を口から離し、思わず叫んだ。また涙が零れてしまった。
ラニールさんのところで涙が零れてしまってから、どうも涙腺が壊れてしまったのではないか。
何かにつけてすぐに涙が出てこようとする。涙はもう嫌なのに! 情けない! 私は笑って過ごしたいのよ!
「ゼロ―――!!!」
再び大きく叫ぶと遠目にゼロが見え、物凄い速度で戻って来た。
その勢いのまま速度を落とすためか、上空で何周か旋回し、そして降りて来る。
「ゼロ!!」
駆け寄り抱き付いた。
『すまない、考え事をしていたらいつの間にかかなり離れていた。大丈夫か?』
不安そうな顔だったようで、心配したゼロが聞く。
「うん、大丈夫……、じゃなかった……。ゼロの姿が見えなくなると凄く不安になった。怖かった」
練習をしているのだから仕方がない。そう思っても心は付いて来なかった。
『すまない。私がリディアと離れることは絶対にない。不安になるな』
ゼロは抱き付いていた身体を離し、私の頬をペロリと舐めた。
「フフ、ありがとう」
ゼロの頭を撫で、再びゼロに抱き付いた。
そして耳元でゼロが話し出す。
『飛んでいる間、考え事をしていた。ずっと気になっていたことだ』
「?」
ゼロから身体を離し見詰めた。
『リディアには何かを感じた、と言ったことを覚えているか?』
「何かを感じた?」
『あぁ、君が私に初めて名を与えてくれたとき……』
ゼロを初めて名付けたとき……、そういえば名付けてゼロと会話が出来るようになったとき、そのときにそのようなことを言っていたような……。
『そのことを改めて考えたのだ。何故、そのように感じたのかを……』
ついにゼロにだけ真実を告白しました!
さて、ゼロはリディアに何を感じたのか!?
これから段々と終盤に向かっていきます!
最後までお付き合いいただけると嬉しいです!




