第三十八話 お披露目式当日に!?
翌日も城外への騎乗練習をし、ある一つの作戦を立て、いざお披露目式当日!
その日はこんな日に相応しい晴天に恵まれた。
緊張して何だかしっかりと眠れなかった気がするが、何とかなるかな! と気合いを入れる。
お披露目式は午後からだった。
それまでに身体を解し、用意された衣装を着る。
その衣装は騎士団からプレゼントされたものだ。
騎士団の皆は今日私がお披露目式で騎乗することを知っている。
レニードさんが話しに来たときにいたのが騎士団の控えの間だったからね。
その成り行きで知った皆で騎士団の制服を準備してくれたのだった。
「お嬢、格好いい!」
「フフ、ありがとう、オルガ」
確かに自分で言うのも何だが意外と似合うかもしれない。
騎士団の制服は国の色、瑠璃色に銀色の縁取りが施されたシンプルなものだが、それがとても凛々しく見える。
髪は後ろで一つに束ね、今日はアクセサリーは一切なし。
「うん、格好いい!」
鏡の前で腰に手をあて仁王立ちし自画自賛!
マニカもオルガも笑った。
「さあお嬢様、参りましょうか」
「うん」
今日のお披露目式は魔獣研究所ではなく、王城庭園のさらに先にある広大な広場。整地された綺麗な芝生広場、といった感じか。
普段はあまり使われていないが、何かの催しがある場合に使用するらしい。
その場所に大勢集まる。
国王陛下、シェスレイト殿下、ルー、イルグスト殿下、宰相であるお父様、各大臣たち、騎士団、魔獣研究所員、薬物研究所員、そして野次馬……。ラニールさんたちまでこっそり来てるし。
「うわぁ、めちゃくちゃいる……」
「大丈夫ですか?」
レニードさんが声をかけてきた。
「アハハ、やはり少し緊張しますね」
『リディア』
振り向くとゼロがいた。レニードさんに連れられて来たようだ。
「ゼロ!」
ゼロの首にぎゅうとしがみついた。
「固い……」
『当たり前だ』
「フッ」
何だかそのやり取りが可笑しくて笑った。
「ありがとう、おかげで緊張が解れたよ」
笑いながら言った。
『私は何もしていないがな』
「さて、行きますか」
レニードさんに促され、ゼロと共に歩いた。
マニカとオルガは魔獣研究所員の人たちの元に一緒に並ぶ。
レニードさんが陛下の前に出た。
陛下は用意された豪華な椅子に座り、両脇にはシェスレイト殿下とルーが立つ。斜め後ろにはお父様が控え、反対側の斜め後ろにはイルグスト殿下が。
レニードさんは膝を付き、深々と頭を下げた。レニードさんはさすがに陛下の前では緊張しているようだ。
それはそうよね……、あんなにお偉いさん方が沢山いるんだもんね……。
本来なら魔獣研究所の所長が出るところだと思うのだが、どうやら所長はレニードさんが担当だからと丸投げしたらしい。どこでもそんな人いるのね……。
「本日はお時間をいただき誠にありがとうございます」
レニードさん……声が震えてるよ、頑張れ!
「ふむ、魔獣を騎獣にするということだったな」
「は、はい。この国初めての騎獣となります」
「うむ、実現すれば素晴らしいことだ! 今日はその騎獣を見せてくれるのだな?」
「はい、初めての騎獣、ゼロです」
レニードさんがこちらをチラッと見た。出て来いってことね。
大きく深呼吸をし、ゼロを見た。
「ゼロ、行くよ」
『あぁ』
ゼロの手綱を引きレニードさんの元まで歩いた。
陛下やお父様の驚愕の顔。これでもかというくらいに目を見開き、口まで開いている。
シェスレイト殿下は真剣な顔を向け、ルーはニッと笑った。イルグスト殿下は……、髪で目が隠れていて良く分からないわね。
各大臣たちも陛下とお父様と同様に驚愕の顔。騎士団の人たちは歓声を上げそうな勢いでそわそわしているが皆笑顔だ。
魔獣研究所と薬物研究所の人たちは祈るような目を向ける。
ラニールさんがこっそり手を振るのが見えた。
「フフ、皆、様々な表情で面白いわね」
ボソッと呟いたのをゼロに聞かれていたようだ。
『意外と余裕だな』
「アハハ、余裕というか何か実感がなくて他人事な感じ」
『フッ、分かる気はするな』
「ゼロも緊張ってするの?」
『緊張なんてものは分からないな』
分からないのか、何て呑気なことを考えつつ、現実逃避しながら陛下の前まで行った。
お父様の驚愕の顔が怖いわぁ、と笑顔で陛下の前に立つ。
今日はドレスではないため、レニードさんと同様に跪く。頭を深々と下げた。
「リディア嬢! 頭を上げなさい! どういうことだ!? 何故リディアが騎士団の制服を来て魔獣を引いて現れる!?」
陛下が混乱している。それはそうよね、申し訳ありません。
「陛下、今回騎乗をしてくださるのはリディア様です」
「何だと!?」
レニードさんが宣言すると陛下は椅子から勢い良く立ち上がった。
「ヨゼフス! そなたは知っていたのか!?」
ヨゼフスとはお父様のことだ。宰相であるお父様も知らなかったこと。驚愕の顔を今でも浮かべているお父様が知っているはずがない。
「わ、私は何も存じませんでした」
慌てるお父様の姿も中々見られないわよ! これはちょっと面白い! と、ここぞとばかりにお父様を凝視してしまった。
「陛下、ゼロはリディア様にしか騎乗出来ません」
レニードさんは陛下に説明をした。
騎獣の提案者のこと、ゼロに名を与えたこと、ゼロとの騎乗のこと、全て話した上で改めて、
「リディア様に騎乗していただきます」
レニードさんは言い切った。うん、今はレニードさんの強い意志が感じられる。
「陛下、とりあえず騎乗を見てみませんか?」
唖然とする陛下にシェスレイト殿下が声をかけた。助け船を出してくださったのかしら。
チラッとシェスレイト殿下を見ると目が合った。
何かを言いたそうな目だったが、ふいっと視線を外された。
「シェスレイト、お前は知っていたのか!?」
「えぇ、聞いておりました。私も実際に騎乗を見たことはありませんが大丈夫です」
意外だった。シェスレイト殿下は大丈夫だと言い切ってくれた。
背中を押してもらえたようで嬉しくなる。
そう、私とゼロなら大丈夫! そう思えた。
「わ、分かった。仕方ない、リディア、本当に大丈夫なのだな?」
声をかけられ、顔を上げた。
「はい」
強い瞳で真っ直ぐに陛下の目を見詰めた。
陛下は深い溜め息を吐き、お父様も何とも言えない顔をしている。
「では、始めると良い」
レニードさんと顔を見合わせ頷いた。
ゼロは身体を低くし、その背に勢い良く乗り上げる。
それなりに颯爽と乗れたんじゃないかしら。皆呆然としているわね。
「ただ飛ぶだけでは騎獣の凄さは伝わらないかと思いますので、リディア様にセイネアの花を取って来ていただきます」
「!? セイネアの花!?」
「はい。どれだけ早く飛べるかの証明になるかと思います」
セイネアの花とは王城より遥か離れた地にある、クズフの丘に咲くとても美しい青色の珍しい花。この国でその丘にしか咲かず、摘んでしまうと一日であっという間に黒ずんで枯れてしまう。
その丘に行くには馬ならば行って帰るのに丸一日はかかる。
そこへ行きセイネアの花を、クズフの丘まで行った証拠として持ち帰る。
それが昨日レニードさんと立てた、単純だけどゼロの速さが分かりやすい作戦!




