第二十二話 魔獣と!?
ルーと一緒に魔獣研究所まで行き、中へ入るとレニードさんが驚いた顔をした。
「リディア様! どうされましたか!?」
「え? あ、今日は差し入れをしようと思い訪れたのですが、何故そんなに驚かれているのですか?」
それほど驚かれる理由が分からない。
「あ、いえ、今日午前中にシェスレイト殿下が来られて、リディア様のことを聞かれたので、つい何かあったのかと……」
勘違いですいません、とレニードさんは謝った。
シェスレイト殿下が私のことを聞いた……、それって、さっき聞かれたことよね……。
「それって、騎獣のことですか?」
「え? えぇ、そうです! リディア様のおかげで魔獣を騎獣に出来ないかと、今研究が始まっているんです!」
「そうなんですか!? 実現しそうなんですか!?」
「僕は実現出来ると思っています」
レニードさんは強く言った。その目は自信に満ちていた。
シェスレイト殿下は私が発言したかの確認だけで、研究が進んでいるとは教えてくれなかった。
本当に実現したら嬉しいな。魔獣たちも殺されずに済む。
「魔獣を騎獣って何の話だ?」
ルーが話が分からない、と質問してきた。
レニードさんが興奮気味に説明し、ルーもそれを聞くと興味が湧いたらしく、目を輝かせた。
「お前、そんなことを思い付くなんて凄いな! 俺も実現したら乗ってみたい!」
子供のようにはしゃぐルーが可笑しかった。
「何か手伝えることがあれば言ってくださいね。これからも顔を出しますので!」
「ハハハ、ありがとうございます! あ、そうだ、リディア様、あの子に名を与えてあげてくれませんか?」
「あの子……」
「えぇ、あの子です」
あの子とは、初めて魔獣研究所に来たときに、会わせてくれた、あの大人しい魔獣のことだろう。
「私が名付けをして良いのですか? レニードさんが一番お世話をしていたのでは?」
「リディア様に名付けていただきたいのです」
とても優しい笑顔を向けられ、そこまで言ってもらえるなら、と、名付けることを引き受けた。
「また会わせてもらっても良いですか?」
「えぇ、もちろんです」
魔獣のいる檻へと向かった。以前会った魔獣。比較的小ぶりなドラゴン。小ぶりと言っても十分人間よりは大きいのだが。
見慣れてくると少し可愛く見えてくる。
以前会ったのを覚えてくれていたのか、そのドラゴンは喉を少し鳴らし、こちらをじっと見ていた。
目を合わせ、しばらく見詰め合う。
「もう少し近付いても良いですか?」
「お嬢!」
「リディ!」
オルガもルーも真っ先に叫んで止めた。マニカも青ざめている。
レニードさんはというと、少し考えていた。
「慎重に少しずつなら」
「おい!」
レニードさんの提案をルーは否定した。
「危険だ! やめておけ!」
「少しだけだから」
ルーとオルガが止めるのを振り切って、少しずつ、慎重に近付いた。
合わせた目を一瞬も反らさずに近付くと、気付けば手が触れそうなほど近付いていた。
さすがにレニードさんが慌てて、私とドラゴンの間に割り込む。
「大丈夫です」
「リディア様?」
レニードさんを横に促し、ルーたちは後ろで息を飲む。声を上げるとドラゴンが余計に興奮してしまう。それが分かって、私がすることにも黙っていてくれている。
「あなたは本当に良い子だね。あなたの名前を付けたいのだけど良いかしら?」
ドラゴンは少し甲高く喉を鳴らし、首を傾げた。
フフ、可愛いな。
ドラゴンの眼に私の行動が見えるように、そっとゆっくりと手を伸ばした。
片手でドラゴンの口元に触れた。
ドラゴンは不思議そうな顔をし、私の手の匂いを嗅ぐような仕草をする。
片手に慣れるともう片方の手も伸ばし、そっとドラゴンの顔を撫でた。
「良い子。あなたの名前はゼロ。始まりの子。これからあなたが世界を広げるのよ」
ゼロと名付けたドラゴンは返事をするように大きく咆哮を上げた。
それに触発されるように他の魔獣たちも咆哮する。
「リディ!!」
ルーが慌てて腕を掴み後ろへ引っ張る。
魔獣たちの咆哮は空気をビリビリと震えさせた。
「凄い……」
レニードさんは信じられないといった顔で魔獣たちを見詰める。
『君の名は?』
「?? 何か言った??」
「は?」
横にいるルーに聞いた。
誰かの声がした。ルーではなかったようだ。
周りを見回すが、誰の声か分からない。
『こっちだ』
「??」
周りを見回す内にゼロと名付けたドラゴンと目が合った。
「ゼロ?」
『名をくれてありがとう』
「ゼロなの!?」
『あぁ、そうだ。君の名は?』
「私はリディアよ」
腕を掴むルーの手を離し、ゼロに近付いた。
「リディ!」
「大丈夫よ、ルー」
ルーは怪訝な顔をし、後ろに続いた。オルガとマニカも心配しながらも後ろに続く。
レニードさんは興奮状態だ。先程の魔獣たちの咆哮のせいで、研究所内の研究員が皆出てきた。
『リディア、君に名をもらい私は君と繋がることが出来た』
「繋がる?」
『会話が出来るし気配を覚えた』
「他の人とは会話出来ないの?」
『名を与え、お互いが認め合い、なおかつ相性が合った者だけだな』
周りを見ると、確かに皆不思議そうな顔をしている。
私が誰と会話をしているか分からないようだ。
「私で良かったの?」
『リディアと眼を合わせたとき、何かを感じた。何かが始まる気がした。だから君で良かったのだと思う。他の魔獣たちも喜んでいたよ』
ゼロは意外にも紳士的な話し方だ。
「リディ?」
ルーたちは訳が分からないといった顔で、痺れを切らし聞いた。
「あぁ、ごめんなさい。ゼロが話してくれてたから」
「えっ!?」
レニードさんが一際大きな声で驚き、詰めよって来た。
「リディア様、どういうことですか!?」
「名を与えた人と、お互いが認め合っていて、相性が良ければ会話が出来るようになるらしいです」
「!! 本当ですか!? 何てことだ!! 新しい発見だ!!」
レニードさんはあたふたしだし、駆け付けた研究員の人たちに興奮気味に話す。
「お嬢様……、もう! 無茶をしないでください!」
マニカに泣きながら訴えられた。
「ごめん、マニカ」
魔獣だものね、それは心配するよね。ごめんなさい。
「はぁ、お前はもうちょっと自重しろよ?」
ルーが溜め息を吐いた。
「お嬢!!」
さすがに今回はオルガも少し涙目だ。
「うん、心配かけてごめんね、みんな。でもゼロはとっても良い子だったよ」
ニコリと笑いゼロを撫でた。
三人とも苦笑している。
他の魔獣たちもまた挨拶出来たらな。と、チラッと檻に目をやると、様々な魔獣がいた。
「お嬢様!!」
「アハハ、他の子にはまだ近付かないよ」
さすがにまだ警戒されている魔獣に近付くのは怖そうだしね。
『リディアならば他の魔獣たちも認めそうだがな』
ゼロはそう言って笑った。笑った? と言って良いのかは分からないけど……。
「そうだと嬉しいな! ゼロは騎獣に頑張ってなってね!」
『リディアはなって欲しいのだな?』
「うん!」
『ならば、なろう』
ゼロは言い切った。本心でそう思ってくれているのが分かった。
ゼロが騎獣になってくれたなら、きっとこれからは安易に魔獣を殺処分しなくても良くなるはず!
そう思うと嬉しくなった。
「お嬢様、そもそも差し入れを持って来たのでは?」
マニカの手にある籠に目をやり思い出した。
「あっ! そうだった!」
全員で苦笑した。
そもそもコランクッキーを差し入れに来たんじゃないの! ラニールさんたちが待ってるよ、早く戻らないと!




