【小話】神は幼女です~①~
三人称視点で話と話の間に挟まるシリーズ第一弾
陽菜は立っていた
上下左右がはっきりとしない……簡単に言い表せば暗闇の中というべき場所に
不思議なことに、陽菜の視界で見える範囲の自分の姿は認識できる。全身を黒いフード付きのローブで覆い、肩から先の両腕が消失していることから、寝る直前の時と装備や状態などは変わっていないようだ
突然、このような不思議な現象に出会ってしまった場合、普通の人なら「はて……ここは一体どこなのだろうか?」という様な疑問を含んだ思考が出てきそうだが、陽菜は違っていた
「神様ー?いるんでしょー?」
陽菜は以前、この空間を訪れた事があった。 交通事故という名目で日本を去り、異世界転生に見せかけた異世界移動を行う際に……
「行ってきまーす」
それは七月某日……季節は夏に入ってまだ間もない頃のこと。 ラノベやアニメとかでよく見るセーラー服姿の高校一年生、御坂陽菜はリビングでテレビを見ている両親に元気よく言った。 時刻にして午前六時を回ったところだ。
陽菜は『厨二病』を発症していた。 それも世間一般的に知られているものとは違い、実際に非現実的な事を起こせるといったもの。 魔法っぽいものが使えたり、他の人よりも身体能力が優れていた。
この時の陽菜が存在する国、日本では魔法よりも科学を信仰する人が圧倒的に多いため、陽菜はその力を隠しながら日々を過ごしていた。
陽菜の力は、両親――陰陽師と巫女――によって抑えられてはいたものの、いつ暴走するか分からない状態であった。 発症してから約二年、学校で「力が暴走し、陽菜本人の意思に関係なく周りの人間に被害を与えたりする」ことが一切起こらなかったのは、両親の努力の賜物であることは定かであり、陽菜自身もそれを自覚していた。
陽菜が家を出る際、両親は何も言わなかった。 陽菜がいつもよりも一時間位早く家を出ることに対しても、特にこれといって変わったことをしなかった。
陽菜はいつもの通学路を歩く。変わらない景色、いつもと違い、心なしか人はまばらに見える。
(こっちよ)
何かに呼ばれた気がして、いつもとは違う道を辿り始める
アスファルトで舗装された道を少し外れ、草が生い茂るわき道を進み……直径が5メートル位ある魔法陣の様なものが描かれた少し広い場所にたどり着いた。
魔法陣の中心部に立った途端、陽菜の周囲がどこからか出て来た黒く濃い霧に覆われ……そのまま暗闇が生成された。
ぼわぁっ
暗闇の中に光が湧き……陽菜の目の前に、白髪で全裸の幼女が現れる。
「陽菜、時間が無いから簡略化して言うわよ。 あなたは交通事故で死亡し異世界転生たという設定でこれから過ごしなさい。 いいわね」
こう話すのは現役の神。 随分と雑な口調ではあるが、れっきとしたヤバい存在だ。
「う、うん」
言われるがまま陽菜は異世界<エルタニア>に召喚され、農家として過ごすことになった……
「久しぶりね、ヒナ」
以前と同じように出て来た神は、昔一緒に遊んでいた幼馴染みたいな雰囲気で答えた。
「……色々説明して欲しいことがあるんだけど、いい?」
「構わないわよ。 何から聞きたいの?」
「取りあえず……『厨二病』について教えて?」
「いいわよ。 でもここで立ち話するのもアレだから、取りあえずこっちの部屋でお茶でもしながら話しましょ?」
神は何もないように見える空間に右手をかざし……扉を出現させる。
ガチャリ……少し古びたドアノブをひねり、神は扉を開けた




