2、魔王との休戦協定
「妾と休戦協定を結ぶのじゃ」
私の耳に聞こえてきたのは、意外な言葉だった。最初は、聞き間違いかと思ったくらいである。しかし、私に対して魔王はハッキリと休戦協定と言って来たのだ。
「きゅ……休戦協定!? なんで敵同士の私達がそんなものを結ぶの?」
「いいか、お主も妾も、本来はこの世界にいてはいけない存在なのじゃよ。お主は一度死んでこの世界を去っておるし、妾は元々<エルタニア>出身であり、この世界の住人ではないのじゃからな」
「なるほど……?それで私にどうしろと?」
「戦闘面では、妾がお主を守ってやるのじゃ。こう見えて妾は魔王じゃからの。弱体化したとはいえそこら辺に居る人間共よりは強いのじゃぞ? その代わり、お主は生活面で妾を守ってほしいのじゃ」
……生活面で魔王を守る? そもそも、この世界の食べ物って口に合うの? それ以前に食事とかするのか……? とりあえず、それは考えないようにと、心の奥底にそっと鍵をかけてしまったのだ。
「つまり、私はこの世界についての知識と農業で、魔王のあなたを養えということね」
「そういうことなのじゃ」
私の質問に魔王は静かに頷いたのだ。良く考えれば、確かに悪くない条件かも。私、全く戦闘に自信がないし……ってちょっと待って。
「……この地球に、戦闘要素ってあるの?」
私の知る限り、地球って武力での戦闘は起こってたけど、RPGとかでよく見る剣や魔法の争いってなかったような気が……。
「これを見るのじゃ」
そう言った魔王はどこからかタブレットを取りだすと、私に1つの動画を見せてくれた。そこには、レットドラゴンの炎のブレスと、人間が放った氷の魔法が衝突したことによって引き起こされた激しい爆発が映し出されていた。
粉々に崩れ去った周囲の建物の様子や、聞こえてくる悲鳴が混じった声から、この映像はCGとかではなさそうだ。
「これは……?」
「今日の昼頃、トウキョウ? というところで撮影された映像じゃ。今のこの世界に魔法が存在する事がわかるじゃろ」
「……これ、どうやって対抗すればいいの?」
実際に会ったら、逃げるという選択肢しかなさそうである。いや、逃げ切れるのだろうか。むしろ、協定を結べば守ってくれると言っているのだから、最悪このロリ魔王を囮にすればと、良からぬ考えを抱いていた。
「妾も分からんのじゃ。このレットドラゴンや魔法が、どのくらいのスペックかさえ分かれば話は別なのじゃがな」
異世界の魔王が人類を……この世界を危惧しているという現実に、私はこの問題がより深く面倒であることを悟った。
戦闘能力が皆無な人類が魔法を得たことによって進化したという事は、レアアイテムを求めたり自然のダンジョンの所有権を巡って争い会う事が頻繁に発生するかもしれない。
最悪の場合、国を超えて戦争に発展するかもしれない。それがたどり着く未来は平和とは程遠い物だと……
スローライフが脅かされるのは全力で避けたい。
「それで、休戦協定の件はどうするのじゃ?」
私はこの絶望的状況を打開するため、渋々であるがロリ魔王と協定を結ぼうと思った。
「分かった、協定……結ぼうよ」
「ありがとうなのじゃぁ~」
「さてと、とりあえずは拠点を探すのじゃぁ!」
私とロリ魔王は協定を結び、共存することを決めたのだ。私が協定に賛成だと知ると、ロリ魔王は元気な声を出していた。




