21、真実
ドタドタドタドタッ カシャカシャカシャカシャ
その音は徐々に大きくなっている。 その情報だけで人数までは把握できないが……少なくとも十人以上はいるようだ。
キィン! カァン! ドォォォォン!
下の階から聞こえる、戦闘音の数々。 ニーナの部下たちが襲撃者たちと戦ってくれている。 ここからまだ距離があり、私達の所にたどり着くまで時間がかかりそう……
「ニーナ様! 前方に転移、来ます!」
ティアラちゃんの見た目通りのロリ声が聞こえたかと思うと、ニーナの前方……この部屋の入口付近に突然、虹色に光り輝く魔法陣が展開された
それを見て何か気付いたのか、ニーナは私に指示を出した
「ヒナっ! とびきり強力な支援魔法を発動するのじゃっ!」
「うん!」
「光と闇が交わりしとき、我が真なる力を持って我らを導け!【創造の加護:序】!」
私を中心に発生した黄金の光は、私とニーナ、そしてスカーレット姉妹を包み込む
その効果は、各種ステータスを上昇させる効果に加えて、魔法発動時のMPの消費量を軽減させてなおかつ、HPとMPの回復量を大幅に上昇させるといったもの
私の持ってる能力の中でも、かなり上級のものである
「魔王ニーナ! 勇者の名のもと、貴様をここで討伐する!」
魔法陣から出現したのは……金色の鎧を身につけた男と、それを取り囲むようにいる白銀の鎧をまとった騎士……? が数名。 いやちょっと待って
「勇者? この世界には確かいなかったような気がするんですけど……」
「……セーラー服だと? お前、この世界の人間ではないな」
「セーラー服着てたらこの世界の住人じゃない……それってあなたの偏見ですよね?」
「その言い方……やっぱり日本人か」
「ということはあなたも日本人ってことだよね?」
「……ああ」
私は勇者を名乗る謎の男と普通に会話が成り立っているということに気付いた。
「あの……同じ日本人として聞くけど、あなた一体何者なの?」
「俺はツカサ、【聖樹騎士団】所属の勇者だ。」
「ら……【聖樹騎士団】!? 何そのなんか光属性な集団は」
「闇を滅ぼすための集団さ」
途端、勇者は腰の長剣を勢いよく抜くと、ズバッっとその場で一振り
……ぽとっ
私の足元に二本の腕が転がってきた。
「えっ……?」
少し遅れて気づく。 私の両肩から先がバッサリと切り落とされていることに
痛みは感じない。 多分、衝撃で痛みの感覚が吹き飛んでいるのだろう
「ごめんね〜君みたいな弱いのには興味無いんだ。ちょっと引っ込んでて貰えるかな」
護衛のメイドに傷一つ付けず、私のバフも貫通しての攻撃と……宣戦布告と捉えられる煽り
私の中に芽生える「殺意」 この時初めて、他人に対しての明確な殺意を覚えた。
「……ろす」
「うん? 今何ていった?」
「貴様を……殺す!」
ここまで口調が荒くなるということは、私は相当怒っている。 当たり前か、両腕を切り落とされてたのだから怒らない方がどうかしてる
それにしても……どうしようか、両腕が失われた以上、クワを持ってぶん殴りに行くわけにもいかないからね……
(チカラガ……ホシイカ)
「うん」
声の主が何者かは全く分からないが……とりあえず返事をする
……ばさっ
どこからか、私にローブが掛けられた。 体全体を覆う漆黒のそれは……私の中の何かを覚醒へと導いた。
そこから先は……覚醒した私と、魔王のニーナによる一方的なまでの蹂躙が繰り広げられていた。 私の超高火力の魔法と、ニーナの魔法で武器を生成してぶん殴るという、なんか最終回みたいな光景を前に相手はなすすべもない状態でいた。
「【氷槍乱舞】!」
「【異次元弾丸】じゃっ!」
ごぉぉぉぉぉぉっ!!
敵「うわぁぁぁぁっ」
その肉体が跡形もなく消え去る。 完全なオーバーキルだった
「くっ! これでもくらえ!【煙幕】っ!」
絶対それ勇者を名乗るやつが使っていい技じゃないでしょ……とツッコむ間もなく、辺り一面はもうもうとした灰色の煙に包まれた
視界を奪うということは……ここらあたりで撤退でもするのだろうか
「……っ!」
後ろに人の気配……煙に紛れて移動したのかっ!
私はカッと両目を見開いて……【索敵】を発動させる。 いた、ニーナの方を向いて両腕をウルト○マンみたいに十字に組んでるやつが
びぃぃぃぃぃぃ
放たれる銀色の光線。 うわぁーテレビで見た奴と同じや~……なんて言ってる場合じゃないニーナを守らないと
ばっっ と5メートルほどの距離を一瞬にして移動し、ニーナをかばうようにして彼女の後ろに立った私は……光線を後頭部で直に受けた
「ヒナっ!」
2秒ほど遅れて、私の方に振り向くニーナ。 私は彼女をかばうため、踏ん張っている両足に力を入れる。 ……が、私一人で全て受け止めるのには無理があったようで……貫通した光線の一部がニーナにも直撃した
「あばよ、小さき魔王と人間さん」
勇者がそう言い残したと思うと……私とニーナの足元に虹色の光が出現した。 この色……転移魔法か
その光は、私達の意識と共に私とニーナをどこかへと連れ去った
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「どう? 二人とも思い出した?」
自分の部屋のベッドで目が覚めた私は、さっきまで見ていた夢……いや本来の私の記憶の中での姿になっていた(つまり両腕が亡くなっていた
「うん……私達【聖樹騎士団】の光線によって記憶を書き換えられていたんだね」
「ということは……妾らの今後の目的は決まったも同然じゃな」
そう言ったロリ魔王は、小さい右手を差し出してきた。 過去最大級の笑顔と共に
「ヒナ、妾を守ってくれてありがとうなのじゃ。」
「こっちこそ。 この世界で1か月もの間、私のお世話をしてくれてありがとう。 これから……長い戦いになりそうだけど、いろいろよろしくね!」
私は無意識に周囲の魔力を操って、見えない手でロリ魔王……否、私の最高で最強の相棒の手を握り返した
「さて、とりあえず朝ご飯食べたいんだけど……ティアラちゃん何か作ってくれる?」
「分かったわ。」
ティアラちゃんは私の部屋を後にした
「朝ご飯食べ終わったら今の私のステータスを確認しようっと」
「そうじゃな」
こうして……ロリ魔王ニーナとロリ吸血鬼メイドのティアラちゃんを仲間にして、私のスローライフは本格的に始まったのだった。




