1、目覚め
「……え? なんで魔王がいるの?」
私の理解を超える事象が、現実として目の前に存在していた。あれは、夢であったのか。いや、夢であるなら今ここにいる魔王は、コスプレした誰かのイタズラであるはずだ。そもそも、ここはいったいどこなんだろう……? 私の視界には、少し埃をかぶった電球の光が、暗い部屋を灯している事しかわからなかった。
「お主に巻き込まれて、この世界に連れてこられたからなのじゃっ!」
私の疑問に答えたのは、若すぎる(おそらく十歳くらいと推測する)年齢、金髪で頭には作り物とは思えない角が生えている。確か名前は……ニーナ、夢の中で倒したはずの魔王である。いや、あの角はどう見ても作り物には見えない。つまり、あれは現実であり、今目の前にいる少女は、コスプレ好きな人ではなく、本物の魔王と言う事になる。
という事は……死んだ事も、転生して不老不死になった事も事実だったのか。つまり、現実世界で私が倒したはずの魔王である。まさか……よみがえったの? 様々な疑問が私の頭を混乱させ、思わず魔王に質問を投げかけてしまった。
「どういうことなの……?」
「お主、最後に<創造者>と1つになったじゃろ」
「う、うん」
<創造者>というのは、夢のような現実世界で私が持っていた農業特化のクワの事。しかし、今は私の中に取り込まれたようで、物としては存在していないのだ。だが、その事がいったい何と関係あるのだろうか?
「<創造者>には隠された力があるのじゃ」
「隠された力? 農業にしか使えないクワに……?」
そもそも、クワに農業以外での使い道があるの……? 確かに、剣術ならぬクワ術なる物が存在し、実はこのクワが伝説の武器だって可能性もある。一応……刃物もついてるし。
「それで、隠された力っていったい……?」
「【異空間転送】、対象を別の空間や別の世界に飛ばせることができるのじゃ」
「……?」
「要するに、お主が妾を倒したとき<創造者>の能力が発動……いや、暴走したと言うべきなのじゃが……その場にいたお主と、死んだはずの妾を、こっちの世界に飛ばしてきたという訳なのじゃ」
「……それなら、ここは一体どこなの?」
魔王は、「こっちの世界」と言った。つまりここは、元いた世界とは別の世界ってことだよね……。
「地球の……確か日本とかいう名前の国なのじゃ」
「え……えぇーーーーーーーー!!!」
Uターン転職じゃなく、Uターン転生なんて初めて聞いたよ。って、一回死んでまた戻ってきたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
「その反応……やはり、ここはお主の故郷だったのじゃな」
私のリアクションから何か察したのか、魔王はそんなことを言ってきた。
まぁ……故郷っていってもそこまで思い入れがないんだけどね。
「あ、でもこれからどーしよ……。私たちって一応敵同士だよね?」
流石に一緒に生活するのは、ちょっと無理。だって、魔王だよ? 寝てる間に何かされるかもしれないじゃない? 一応、女同士とは言え……ね? ってそういう事ではなくて、倒された相手と、一緒に生活なんて……きっと後ろから、プスリと刺されるに決まってるじゃないかあぁぉぁぁ!
「……お主に、妾から1つ提案があるのじゃ」
「……何? お金なら貸さないよ?」
私の視線を上目遣いで魔王が見てくる。なんか変なこと言いそう……。
「妾と、休戦協定を結ぶのじゃ」
え……えぇぇぇぇ……