悪役令嬢が欲しいモノは幼馴染みの優しい執事には言えないこと
「ミエル様。どうか私と婚約をして頂けませんか?」
また来ました。
私と婚約をしたいと言う王子様。
「それではあなたは私に何をくれますか?」
私がそう言うと王子様は王子様の周りにいる執事などに目配せをしました。
すると私の周りを取り囲むように王子様の執事や使用人が両手いっぱいにお花を抱え立っています。
はっきり言って怖いです。
男性に取り囲まれ花は真っ赤な薔薇なのですから。
この王子様は女性の気持ちを何一つ分かってないのでしょう。
女性は花が好きなのだからこれで良いなんて思っているのでしょう。
花がたくさんあれば良い訳ではありません。
薔薇のような綺麗な花があればいい訳でもありません。
「申し訳ございません。私はあなた様と婚約はできませんわ」
「そうですか」
取り囲まれた男性の後ろから王子様は現れました。
王子様、本人は花の一つも持っていないのです。
それで私の心を動かせると思った王子様を私は睨み付けます。
「私はあなた様のような女性は花があれば良いと思われるその考えが嫌でたまりませんわ。あなたのような考えを持つ男性がいるから女性が幸せになれないのですわ」
「そんなことお前みたいな子供が分かる訳がない。裕福だからと調子に乗るのもいいかげんにしろ!」
これもいつものことです。
私が本当のことを言っているからなのか王子様はイラついています。
そして王子様は手を上げ私を殴ろうとしてきました。
もう、これは幻滅です。
それでも私は王子様を睨むだけです。
逃げることはしません。
私が逃げては相手の思い通りになってしまうのですから。
『バシッ』
何かを叩く音はしました。
でも私には痛みはありません。
私の目の前には大きな背中があります。
「王子様どうかお許し下さい。ミエル様は少し具合が悪いのです」
「今回は許すが次は無いと思え!」
「はい。申し訳ございません」
私の目の前の大きな背中は私の前で自分勝手な王子様に深く頭を下げています。
すると王子様は花を持った使用人達と一緒に帰っていきました。
その姿が見えなくなるまで大きな背中は深く頭を下げていました。
そして王子様が見えなくなると私の方を向きます。
そしてニッコリ笑って言います。
「お怪我はありませんか?」
「怪我をしているのはアベイユでしょう?」
「このくらい大丈夫ですよ」
アベイユはそう言っていますが口の端が切れて血が出ています。
痛そうです。
「アベイユ。血が出てるのに大丈夫じゃないわよ」
私はそう言ってハンカチで押さえます。
「ミエル様のハンカチが汚れます」
「ハンカチは汚れるものなのよ」
「ミエル様のハンカチは私の血で汚れるものではありませんよ」
「アベイユ。じっとしてよ!」
「はっ、はい」
私よりも大きな体を小さくしてアベイユは私の迫力に負けて大人しくなりました。
私とアベイユは小さな頃から一緒にいます。
私もアベイユも裕福な家庭でした。
しかしある日、アベイユの父親が友人に騙されお金を全て失いました。
アベイユの家は貧乏になりアベイユを残し彼の両親は姿を消しました。
その時のアベイユに私は驚いたのを覚えています。
アベイユは泣く訳でもなく怒らずただ仕方ないと言っただけでした。
私はそんなアベイユを私の使用人として傍に置きました。
今ではアベイユは私の執事になりました。
アベイユは私の使用人になった時に敬語を使うようになり昔の話はしなくなりました。
「アベイユ」
私はアベイユの名前を呼んで怪我をした方の頬に手を当て見つめました。
「…………」
アベイユは私を見つめてくれますが昔のように名前を呼んでくれません。
「昔のように呼んでくれないの?」
私がアベイユに言うとアベイユは顔を背けて私から離れます。
「私は仕事がありますので」
アベイユはそう言って私に背を向けて歩いていきます。
いつもアベイユは昔の話をすると逃げるように私から離れるのです。
そんなに昔の事を思い出すのが嫌なのでしょうか?
両親のことを思い出すから嫌なのでしょう。
「ミエル様。本日はパーティーがあります。いつもよりお嬢様の自覚を持ってパーティーへ参加して頂きたいのですが」
「いつもお嬢様の自覚を持ってるわよ」
「その自覚が少し間違っていらっしゃるのでこの前の王子様は手を出してきたのですよ?」
「私は間違ってないわよ」
「どうか少しだけでいいので王子様の機嫌をとることもして頂きたいのです」
「それだと王子様が私を見下すのよ?」
「しかし、この前のように私が助けられない時だってあるのですよ?」
アベイユは心配そうに私を見ています。
そんなに心配することなのでしょうか?
「大丈夫よ。この前みたいにビンタとかそのくらいでしょう? アベイユみたいに口の端が切れたら痛いかもしれないけどね」
「ミエル様。見える傷なら私は気付けますが見えない傷だったら気付けないのですよ?」
「見えない傷ならそれほど痛みもないわよ」
「見えない傷はそういう意味ではありません」
「えっ」
「見えない傷はミエル様の心の傷ですよ」
「私はあんな自分勝手な王子様に心を傷付けられたりしないわよ?」
「それは分かりませんよ? ミエル様は女性なのですから」
アベイユは意味深な顔で言いました。
私には少し恐怖を感じる言い方でした。
「しかし、ミエル様は美しいのですから王子様がたくさん集まってきたらいつものように上から目線であなたは私に何をくれますか? って言うのは良い考えだと思いますよ」
アベイユはクスクスと笑いながら言いました。
さっきの意味深な顔なんて忘れて私も笑ってしまいました。
だってその後の王子様達が私にくれる物が面白い物ばかりなんです。
◇
ある王子様は、王子様ご自身が描いた私の絵をくれました。
王子様の絵は子供が描いた方が上手と思うくらいの出来映えでした。
王子様には下手なんて使用人は言えませんよね?
それに両親はあの絵を上手と言っていたみたいなんです。
完全に親バカですね。
その話をアベイユに言うとその絵を見ていない彼は少し寂しそうな顔で言ったんです。
「そんなにヒドイ絵でも親にとっては自分の可愛い我が子の絵なのですから仕方ないですよ」
「私は上手な絵を見たいなあ。そうだ、アベイユに私の絵を描いてもらおうかなあ。昔、描いてくれたでしょう?」
「私は絵を描くことはやめました」
アベイユはそう言って私に背を向けます。
昔の話をすると私から離れていくアベイユ。
◇◇
そしてまた他の王子様は。
この世に一つしかないという宝石を私にくれることはせず、見せてくれました。
私が触ろうとすると手袋をして欲しいと言われました。
私より宝石を選んでいる王子様に私は呆れてしまいました。
私はいつものように王子様を追い返しアベイユに庭に来て欲しいと言われていたので庭に行きました。
「アベイユ。話って何?」
「あっミエル様。こちらへ」
アベイユは私に手招きをしています。
アベイユに近寄るとアベイユは私の顔の横に顔を持ってきて同じ目線にし、何かを指差しながら言います。
「あそこに小さな花が咲いているのが分かりますか?」
「あっ白い小さな花ね」
「そうです。あの花は虹が出る時に咲く花なのです」
「そんな花があるの?」
「はい、あります。あっ空を見て下さい」
アベイユはそう言って私の顎を持ち優しく空へ向けます。
「虹だぁ。綺麗ね」
私はそう言って横を見るとアベイユの綺麗に整った顔が横にあってドキッとしました。
「この花は触れると枯れてしまうので見るだけにして下さいね」
「か弱い花なのね」
「だから珍しい花なんです」
「珍しい花なら昔、アベイユが教えてくれた青い薔薇もよね?」
「そのような話は忘れました」
アベイユはそう言って私に背を向けました。
また昔の話をしてアベイユは離れていきます。
◇◇◇
その日のパーティーもつまらないパーティーでした。
王子様が集まって来るので私はいつものように私に何をくれるの? と言い、王子様達は私へのプレゼントを考えています。
その間に私はその場から逃げるようにバルコニーに出ました。
風が少し冷たくて火照った頬を撫でました。
「あなたは本当に性格の悪い悪女ですわね?」
後ろから悪口が聞こえ私は振り返りました。
そこには美しいどこかの令嬢が立っていました。
「私ですか?」
「そうですわ。あなた以上に悪女はいませんわ」
「私の何処がですか?」
「王子様達を虜にする美貌で王子様達を独り占めにして楽しんでいるのでしょう?」
「そのように見えるのですか?」
「そのようにしか見えませんわ」
私はただ婚約なんてしたくないから王子様を追い返しているだけなのです。
それが他の人からすれば悪女にしか見えないのですね。
その後、美しい何処かの令嬢は私に悪口を気が済むまで言って部屋へ戻っていきました。
私はその悪口は聞いていません。
ただ私が悪女だというのは納得いきませんでした。
私が悪女ではなくて王子様達が悪いと思っていました。
私の為にプレゼントをしているはずの王子様達はみんな自分の為にプレゼントしているのです。
私のことなんて考えていない王子様達。
そんな王子様達を追い返すことの何処が悪いのでしょうか?
私はただ私を愛してくれる人を探しているだけなのです。
「アベイユ様。今日は私と一緒にいてくれますか?」
私は後ろから聞こえたワントーン高い声に反応して振り向きました。
そこには何処かの可愛らしい令嬢がアベイユの腕に腕を絡め立っていました。
「ミエル様」
アベイユは罰が悪そうな顔になって言います。
「あっ私は邪魔よね。中へ戻るわ」
私はそう言って中へ戻ります。
アベイユと何処かの可愛らしい令嬢がどうなったのかは分かりません。
アベイユも男性なのだからあんな可愛らしい令嬢に一緒にいたいと言われればいるでしょう。
アベイユのバカ。
◇◇◇◇
あの日からアベイユと話をしたくありませんでした。
アベイユは私ではなくてあの令嬢を選んだのだから私は必要ないのかもしれないと思ったからです。
「ミエル様?」
「えっ何?」
「本日は隣の国の王子様がいらっしゃいます。その王子様は少し難しい方なのでミエル様のいつものプレゼントの件は言わないようにお願い致します」
「うん」
「それと」
アベイユはそう言うと私のおでこにアベイユのおでこをつけました。
「なっ何よ」
「熱でもあるのかと思いましたが私と変わりませんね」
アベイユはそう言っておでこを離しました。
私の心臓はドキドキしています。
いきなりするからドキドキしただけです。
「さあ、王子様がいらっしゃる頃です。お迎えに行きますよ」
「うん」
そして王子様は客室へ入り私とアベイユも入ります。
アベイユは優雅に紅茶を入れています。
そんな姿も絵になるアベイユ。
だからあの令嬢はアベイユを好きになったのでしょう。
優しくて格好いいアベイユを好きにならない人なんていないのです。
「アベイユ様」
客室のドアからアベイユを呼ぶ声がしました。
客室のドアにはあの令嬢がいました。
アベイユは慌てたように彼女の元へ行きます。
そしてアベイユはいつまで経っても戻って来ません。
アベイユはお茶の準備をして出ていったので私と王子様はお茶を飲みながら話をしました。
王子様と話をしながら私はアベイユのことばかり気になります。
王子様の話なんて聞いていません。
ただ相づちをするだけです。
「おいっ」
私は王子様の怒鳴った声に我に返りました。
王子様は怒った顔をしています。
「どうしました?」
「俺の話を聞いてないだろう?」
「きっ聞いてますよ」
怖い。
この王子様は今までで一番、怖いです。
「誰のことを考えてんだよ?」
「考えていません」
「嘘つくなよ。あの執事が出ていく時、悲しい顔をしてただろう?」
「私がですか?」
「気付いていないのかよ。あの執事が好きってことだろう?」
「そうなのですね」
この王子様は怖いと思っていましたがもしかしたらいい人なのかもしれません。
だって私より私の気持ちが分かるのですから。
人の気持ちが分かる人はいい人です。
「あの執事がこの部屋に入って来る時にちょっと騙してあいつの気持ちを確認してみるか?」
「そのようなことができるのですか?」
「うん」
「何をするのですか?」
「それはその時、分かるさ」
アベイユが帰って来るまで王子様と楽しくお茶を飲みました。
この王子様は楽しいお方です。
今までの王子様の中で一番いい人です。
「ミエル様。アベイユです。入っても宜しいでしょうか?」
王子様は私にいいと返事をしろと目配せをしました。
「いいよ」
私がそう応えるとアベイユがドアを開けるのと同じタイミングで王子様は立ち上がり私の腕を引っ張り抱き寄せました。
「えっ」
アベイユの驚く声が聞こえました。
私はアベイユの顔は確認できません。
だって王子様の腕の中なのですから。
「なっ何ですか、いきなり。やめて下さい」
私は王子様の腕の中で暴れます。
それでも王子様の腕は動きません。
私の力ではどうすることもできないのです。
「ミエル様が嫌がっているのでやめてもらって頂いても宜しいでしょうか?」
アベイユの低い声が私の後ろから聞こえました。
アベイユは確かに怒っています。
でもこの反応は私がアベイユの守らなくてはいけない対象だからでしょう。
好きとは違うに決まっています。
「俺はこの女が気に入ったんだ。この女と婚約することに決めた」
「えっ王子様?」
王子様は何を言っているのでしょう?
私はアベイユが好きなんですよ?
「ミエル様、教えて下さい。あなたを私は助けても宜しいでしょうか?」
どうして私に許可をとるのでしょう?
アベイユがしたいようにすればいいのです。
「アベイユはどうしたいの?」
「私には選ぶ権利はありません」
「私はアベイユに決めて欲しいよ」
「私は今すぐにでもその腕の中からミエル様を救いたいです」
「それなら助けて」
「喜んで」
すると王子様の腕の力が弱くなり私はアベイユに助けてもらう前に自由になりました。
「これで分かっただろう? 二人とも」
王子様は私とアベイユに言いました。
アベイユを見ると笑っています。
「お前は俺の苦労を水の泡にしたんだからな」
「それでいいんだよ。二人とも好きなのに結ばれないのはおかしいんだよ」
「えっ何?」
アベイユが敬語を使っていないです。
あれ?
二人は知り合いなのでしょうか?
「ミエルおいで」
「えっ今、ミエルって呼んだ?」
「いいから早く」
「うん」
私がアベイユの元へ行くとアベイユは私をギュッと抱き締めました。
「アベイユ?」
「消毒」
「えっ」
アベイユは優しく私を抱き締めてくれます。
すごく幸せです。
王子様が俺はバイ菌扱いかよなんて言っていましたが私には聞こえません。
アベイユの心臓の音が心地よかったので。
「アベイユ?」
私はアベイユの腕の中でアベイユを見上げます。
「それは反則」
「えっ」
そしてアベイユは私にキスをしました。
王子様は見てられないと言って部屋を出ていきました。
アベイユの長いキスは私の体の力を奪います。
そんな私をアベイユは抱えソファに座らせました。
「こんな長いキスなんてしてアベイユって変態だったの?」
「違うよ。我慢してたんだよ」
「我慢?」
「昔の記憶は忘れてミエルへの想いも忘れてこれから生きていこうと思っていたのにミエルはすぐ昔のことを思い出させるんだ」
「だから私に背を向けて離れていってたの?」
「そう。思い出せば必ずミエルを困らせると思ったから」
「困らないよ。私はアベイユが大好きだもん」
「知ってる。さっきのキスを嫌がらなかったから」
アベイユはそう言って私の顎を持ち親指で唇をなぞりました。
「もう。アベイユのバカ」
私はうつむきました。
恥ずかしかったので。
「ダメ」
アベイユはそう言って私の顎を上げます。
アベイユと見つめ合います。
「恥ずかしい」
「その顔も可愛い」
「もう」
「もう一回いい?」
アベイユがいい? と聞くのが何のことなのか私は分かっていますが簡単には答えません。
これは私のアベイユへの少しだけの反抗です。
「それではあなたは私に何をくれますか?」
「俺の君への愛をあげるよ」
アベイユはすぐに答えました。
私の欲しい言葉をくれました。
いいえ、違います。
私が欲しかったのはアベイユからの愛だったのです。
◇◇◇◇◇
部屋から出ていった王子様はアベイユが裕福な時に出会った王子様で親友だそうです。
そしてアベイユのことが好きな令嬢はずっとアベイユから離れなかったからアベイユは私が好きだと言ったら諦めて帰っていったそうです。
それからの私達?
聞きたいですか?
「あっアベイユ。白い花が咲いてるよ」
「ミエル様。触れないで下さいよ」
「大丈夫よ。私が触れたいのはあなただから」
私はそう言って誰からも見えないようにアベイユの手を握りました。
アベイユは私の手をギュッと握り返してくれました。
「ミエル、虹が綺麗だよ」
アベイユは誰にも聞こえないように私の耳元で囁きました。
私達は幸せです。
読んで頂き誠にありがとうございます。
楽しく読んで頂ければ幸いです。




