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魔女の弟子  作者: she
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2話 術式

小鳥のさえずる声が、こだまとなって森全体に響き渡る。

朝の青白い日差しが、木々の合間を縫い、二人を照らしていた。


今、アレンとサリィの師弟は森の奥で、シガシガの葉というのを採取していた。


「アレン、今何枚見つけた?」

「十枚見つけたよ。」

「相変わらず凄いね君は。中々見つからないんだけどね、これ。」

アレンは採取が難しい珍しい植物でも、すぐに見つけることが多々あった。


シガシガの葉は他の植物に比べて背が低く、葉の大きさも小さいため見つけるのが難しい。


アレンは、早く切り上げたい一心からいつもより集中し、目を凝らして採取していた。


ノルマまで後半数といったあたりで、アレンは不思議な光を見つけた。


「何これ?」

謎の光はユラユラと揺れ動いて、どこか掴みどころがない。

アレンの周りをぐるっと一周すると、まるで、ついて来いと言わんばかりに移動を始めた。


ーー僕を呼んでいるのか。

意思を感じさせるその光は、導くように先へと進んでいく。

やや戸惑いつつも、好奇心が後押しし、光の行方を追って行く。


歩いて数分すると、目的地に到達したのか、謎の光は同じ場所をぐるぐると周り始めた。


「ここを調べろってこと...?」

アレンなりの解釈で光が回っている場所を調べると、そこにはシガシガの葉がノルマ丁度分落ちていた。


「なんで...それも、必要な枚数を...」



「アレンーー!」

目の前の不思議な現象に頭を悩ませていたアレンに、サリィの呼ぶ声が響く。

自身の居場所を知らせるために声の聞こえた方向に向かってアレンは声を出した。


先の場所へ目を戻すと、謎の光の姿はなく、シガシガの葉がただ落ちていた。


「こんなとこにいたのか。」

アレンの元に着いたサリィが、やや心配気味に声をかける。

「あの光は師匠の...?」

「なんだい?光って。」


ーー師匠じゃないとしたら、あれは一体何だったんだ


「そうだ、師匠、この辺りに魔力の残穢って残ってる?」


「特には感じられないけど?ところで、それ!シガシガの葉じゃないか!もう集め終わるなんて凄いじゃないか。」

サリィは、目の前にある目的の物を見つけ、驚きの声を上げた。


僕じゃない、とぼそっと呟く。

魔力でもないし、師匠の仕業でもない、じゃあ、今のは一体何だったんだ?

アレンは幻でも見てた気分になる。

辺りを見渡してもそれらしき光はもうどこにもなかった。


やけに考え込んでいる弟子を尻目にサリィが、帰ろうかと、声をかける。

もう少しこの場所を調べたいアレンであったが、渋々といった様子で肯いた。


アレンとサリィは共に帰路につく。

帰り道、アレンは謎の光のことで頭がいっぱいだった。正体不明な光だったが、アレンは不思議と好意的な気持ちを抱いていた。

サリィに光のことを話すも、よく分からないとのことだった。


「もしかしたら聖霊を見たのかもね。」

ふと、そんなことをサリィは呟いた。


聖霊なんてものは空想上の生き物で、事実、観測されたことはない。御伽噺に出てくる、そんな程度だ。


だが、聖霊という言葉が妙にアレンの心に響いた。


そんな話をしている内に二人は家に帰宅した。

サリィは薬草の調合をするため自室へ戻り、アレンに魔力の修行をするように指示した。


アレンは軽く食事を済ませて、言われた通りに修行を開始する。

最早、習慣化している動作を淡々とこなす。

今日から、やっと術式の修行へと入る。魔術を扱う上で必要不可欠な要素だ。尊敬する師匠へと一歩近づける。

アレンは、はやる気持ちを抑えられないでいた。




日が暮れる、赤い空がだんだんと黒に覆われて、夜の帳が下りる。

ようやく部屋から出たサリィは、アレンの部屋へ向かう。控えめにノックをし、部屋へと入り、お待たせ、と一言声をかけた。


「少し休憩をとってから始めようか。」

アレンの様子を伺って、若干の疲れが見てとれたサリィは、そう提案した。


アレンは待ちきれない様子だったが、万全の状態で修行に集中するため、サリィの提案に乗っかる。

身体を伸ばし、先の修行で固まった筋肉を徐々に慣らしていく。

充分に休憩をとったアレンはサリィに声をかける。


「準備ができました。」

「じゃあ、修行に入ろうか。」

「でも修行の前に、少し術式について話さなきゃいけないことがある。」

サリィはいつもより少し真剣な表情で言葉を続ける。

「そもそも術式とは、一体どういうものだと思う?」


「術式とは、魔術を構成する上で必要不可欠なもの?かな。」

アレンは首を傾げながら、自信なさげに、答えた。

「そう、正解だよ。魔力を通して術式を介し、魔術と為す。」

これは良く言われる言葉だね、と付け足し説明を続ける。

「そもそも術式とは、人が生まれつき備わっているもので、その内容は人それぞれ。」

「そして、術式は魔術の適正を示す指標でもある。」

アレンの顔を見ながら、一拍間を置いて言葉を続ける。

「だから、君の術式が一体どういうものか確かめてみよう。」

サリィは、自身のポッケから一枚の紙を取り出し、アレンに手渡した。

「これは?」

「それは、式紙といってね、血と魔力を流すと君の術式を判明してくれるものだよ。」


式紙は中央に星の形が描かれており、水に浸してもふやけなさそうな丈夫な手触りがした。


アレンは早速、魔力を流そうとしたが、サリィに止められた。

「おっと、その前に術式の種類についても教えておかなきゃね。」

サリィは自身の人差し指に火を灯し、説明を続ける。

「まず属性術式。これは魔力をいろんな属性の性質に変換する術式のことだね。人の持つ術式の八、九割がこれだと言われてるよ。」

サリィは、手本を見せるように、人差し指の火を水に、氷にと次々に変化させ、最後にパチンと指を鳴らして魔力を消した。


「次に相伝術式。これは言葉の通りだね、代々受け継がれてきた術式。そして特殊な効果を持つ術式だよ。この術式はかなり珍しくてね、中々いなんいんだよ、使える人。」


君のいた村は、恐らく相伝術式を持つ一族だったけど、と心の中でサリィは呟く。


サリィは、さて、と前置きし、両手を広げアレンに問いかける。

「アレン、君はどっちだろうね?」

含みを持った笑みを浮かべ、アレンに式紙を使用することを促す。


アレンは親指に針を刺し、血を流す。

少しの緊張と興味が入り混じり、やけに真剣な表情でアレンは式紙に血と魔力を流す。


もしこの紙が、なんらかの色に変化したならば属性術式。

もしこの紙が、流した血に反応し、中央の星を、血がなぞったならば相伝術式。


「............。」


沈黙が場を支配する。

およそ数分間、何の反応も示さない式紙に疑問を持ったアレンは、首を傾げる。


何らかの誤作動が起きたのかもしれない、そう思ったアレンは、もう一度親指を式紙に押しつけ、魔力を流す。


だが、結果は変わらず、何の反応もなかった。

怪訝な表情で、アレンはサリィに顔を向ける。

「師匠、これ、不良品だよ。全然反応し……」


「すごい…こんなの初めて見た…」

アレンの言葉を遮るように、サリィはボソボソと何か呟きはじめた。

食い入るように式紙を凝視し、忙しなく顎を摩る。

どう見ても、明らかに様子がおかしい。


だが、アレンはこの状態のサリィを知っている。

珍しい物、研究対象を見つけると、それに対して、異常な集中力で没頭してしまう。

他の物が一切目に入らないほどに。


まさしく、これはその前兆である、そう感じ取ったアレンはサリィを正気に戻すべく、声を上げる。


「師匠!師匠!これは一体どういうことですかー!」

けたたましい大声がアレンの部屋に響き渡った。


アレンの声に驚いたのか、サリィは珍しく焦った様子で取り乱し、尻餅をついた。


「びっくりするじゃないか!全く、心臓に悪い。」

悪態をつきつつも、自分の世界に入りそうになったことに、悪い癖だな、と少し反省した。


「ごめん、悪かったよ、それで僕のこの結果は、どういうことなの?」

アレンは式紙を指差しながら、少し責め立てる口調で説明の催促をする。

アレンのテンションは少し落ちていた。

楽しみにしていた術式が分からない、それどころか、何の反応もない。

肩透かしをくらって、少々投げやりになっていた。


そんなアレンの心情を知ってか、知らずか、楽しそうな表情をサリィは浮かべた。


「あぁ、実はね、私も、こんな反応を見たのは初めてなんだよ。だから少し取り乱した。すごいんだよ?君の術式は。滅多に見られるなんて物じゃない。ハハ、今もまだ興奮してるよ。アレン、君の身体を隅々まで調べ尽くしたいほどにね。」


頬を染めて、嬉々として話すその姿は、どこか艶かしく、どこか狂気じみていて、まさしく魔女そのものであった。


中々止まることのない饒舌な舌は、段々とエスカレートしていく。やがて、言いたいことを全て吐き出したのか、サリィの話は核心をつく。

「アレン、君の術式はね...」


「何もないよ。」


溜めに溜めた答えは、アレンを失望させるのに充分であった。










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