0話 弟子
鼻腔につく焼け爛れた死体の匂い、腐臭が辺り一面に染み渡っている。
「酷すぎる、どうしてこんなことに...」
目の前の惨状に魔女は思わず声を漏らす、本来そこにあったであろう村は燃やされ半壊状態にある。
魔女は生存者を探すために、さらに村へと歩みを進める。
村は何者かに荒らされた形跡が多数あり、襲撃されたことは明らかであった。辺りは死体が散らばってあり凄惨な有様だ。
死体は大きく分けて2つの特徴があった、酷い火傷の痕があるものと、多数の切り傷や斬撃痕のあるものだ。
焼死体を調べると微かに魔術の足跡、残穢を感じることができた。魔術を行使すれば必ずそこに跡が残る、これを辿ればその術師の特徴を捉えることもできる。だが時間が経ちすぎているのか、それとも意図的か、残穢が小さすぎて追うことは不可能であった。
何故、何を目的としてこの村を襲撃したのか、考えを巡らせるも魔女に答えは分からない。
「誰もいないか...」
捜索からしばらくが経ち諦めかけていたその時、バッと瓦礫の中から手が飛び出し、魔女の足を掴んだ。
魔女は一瞬警戒したがすぐに気を収めた、生存者だ。
だが、その男のお腹には焼けた家の支柱が突き刺さっており、男の命は風前の灯火だった。
「すまない、あなたはもう助からない、何か遺す言葉はあるか?」
「た、頼む...どうか、地下にいる、あの子を」
今にも消えかけそうな声で魔女に頼み、地下を指差した。
「わかった、だからあなたはゆっくり休んで」
そう魔女が応えると、男は安堵した表情で息を引き取った。
男が指した方へ向かうと、本来そこにはなかった、地下へと続く通路が姿を現した。高度な術式で守られていたそれは、男が亡くなったことで消え去ったのであろう。
結界術という珍しい魔術で隠されていた通路、この先に何があるのか、魔女はより一層気を引き締めた。
長い階段を降りた先に、開けた空間があった。そこは、成人男性2人が不自由なく暮らせるほどのスペースがあり、中央にはベッドが置かれている。ベッドには、およそ1歳前後の子供が眠っていた。
この空間に入った時に物凄い魔術の残穢を、魔女は感じた。これほどの魔力となると、大勢の術師が必要となるだろう。まるで村全体がこの子を隠したかったように...
この子は何者か、魔女は不謹慎にも目の前にいる子供に興味を抱いた。
わざわざ結界で通路を隠し、村がこのような状態になるまで守りたかったものがこの子供だとすると、この子にはどれほどの価値があるのか、、
とはいえ、これからどうするか、このまま放置するのは論外。
かと言って、ここから連れ出して、誰かに預けるのも謎に満ちたこの子のことを考えると懸念が残る。
それに魔女自身、この子供に一体なにがあるのか気になって仕方ない。
ならば、、、
「やぁ、ご機嫌よう、坊や。」
返事が出来ない子供に対して魔女は語りかける。
「私の名前はサリィ、魔女のサリィだ。さて、いきなりで悪いけど提案があるんだ。」
淡々と、あたかも会話が成立しているように話を続ける。
「君を私の弟子にしようと思うんだ、どうだろう?」
そんなことを聞いたとして、1歳そこらの子供に意味を理解できるはずもなく、当然答えは返ってこない。
だが魔女は沈黙を肯定とみなし、大きく頷き、パチンと手を叩いた。
「よし!決まりだね。今日から君は私の弟子だ、
でも、そうだね、名前がないとこれから困るよね。」
魔女は自身の顎に手を添えて、少しの間考える。
「君の名前はアレンだ。」
―――よろしくね、耳元で囁き、アレンを抱き寄せる。
歪な師弟関係を勝手に築いた魔女は再び歩みを進める。期待と興味を胸に抱いて。
行先は魔女のまにまに。