黒猫はハロウィンを楽しみます
こんにちこんばんは。
ハッピーハロウィン!ということで、予告していたハロウィン回を投稿する仁科紫です。
後書きに10時間の頑張りを載せておくので、見ていってください。
それでは、良き暇つぶしを。
これはとあるハロウィンの話───
「Trick or Treat!!」
「お菓子をくれなきゃ!」
「イタズラするぞ、です...!」
頭上から聞こえて来た声にそういえば今日がハロウィンだったのだと思い出したわ。数日前に作ったカボチャ型やおばけ型、コウモリ型のアイシングクッキーをそれぞれに差し出そうとして思いとどまる。
地面に置くことになるのはちょっと...よし。人型に変化してしまいましょう。
ポンっと人型に変化した私は丁度目の前にいるロゥ、アィラ、ウィラにそれぞれラッピングした袋を渡したわ。
「はい。どうぞ。」
「「「わーいっ!ありがと!(ございます...!)」」」
嬉しそうに受け取った3人はお礼を言って、そのままどこかへと去っていったわ。
ふふふ。3人とも仮装していてハロウィンを満喫する気満々だったわね。ロゥはカボチャのお化け、アィラは狼人間、ウィラは悪魔とそれぞれの性格が出るような可愛らしい仮装だったわ。
微笑ましく思い、頬が緩んでいるとそこにアリスと猫さんがやって来たわ。
「トリックオアトリート!」
「お菓子をくれなきゃイタズラするよ?おかーさん♪」
「ふふふ。それは怖いわね。これをどうぞ。」
先程妖精達に渡したものと同じものを2人に渡すと、2人は嬉しそうに顔を見合わせて笑っていたわ。
うん。こんな日も楽しくていいわね。
ニヤニヤっと顔が緩みそうなになるのを引き締めていると、魔女の格好をしたアリスと仮装をしていない猫さんが私を見て首を傾げていたわ。
あら。どうしたのかしら?
「ねぇ。おかーさんは仮装しないの?」
「そうよ。チェシャもするべきだわ。」
「あら。私はいいのよ。そういう格好をする歳でもないし。」
どうやら2人はハロウィンなのに仮装もせず普段の服を着ている私が不思議だったようね。
正直、私はもうそういう事ではっちゃける年齢という訳でもないと思うのよ。だから、仮装とかは何も考えていなかったのよね。あと、普通に恥ずかしいし。
でも、この2人はそれが不満なのかしら。それを言ったら猫さんも仮装をしていないと思うのだけど?
「それに、猫さんも仮装していないわよね?私だけではないと思うわよ?」
「えー!おかーさん、分からないの!?」
「そうよ。猫さんも仮装しているよ?」
「...あー。そういう事ね。」
どうやら、猫さんは黒猫の仮装をしていたようね。服を着ないのが仮装になるなんて盲点だったわ。
という事は、私だけが仮装をしていないことになるのね。確かに、それはツッコミをされちゃうかしら。うーん。でも、どうしたものかしら。困ったわ。流石に恥ずかしい...うん?いえ、そもそも、今の私の格好自体、コスプレのようなものだし今更かしら?
「でもねぇ。うーん...。」
「やっぱりね。」
「うん。予想通り。」
悩む私の様子を見て2人は顔を見合わせて頷きあっていたわ。
なんだか今日は一段と2人の息がピッタリね。いつも仲が良いけれど、今日は事前に話し合っていたように通じあっているわ。
これは、無理にでも仮装させられそうな雰囲気かしら...?
「ふっふっふ。おかーさん。こっちにおいで。」
「そんなチェシャにピッタリなものを用意しているから!」
「いえ、私は別に...。」
「「問答無用!」」
何やら妖しい笑顔を向けてくる2人から逃げようと外に向かって歩き出そうとすると、その前にアリスによって捕まってしまったわ。そして、そのまま引きずられるようにダイニングからアリスの部屋へと歩かされることとなったわ。
何を用意されたのかしら...?ちょっと、怖いわね。
・
・
・
「ジャーンっ!」
「これって...。」
「そう!私の服のデザインに似せてちょっと改造した、アリス服Part2!チェシャバージョンともいうわ!」
アリスの部屋へとたどり着くと、そこにはマネキンに飾られた水色のエプロンドレスがあったわ。
真っ白のエプロンにはフリルが付いており、ハートやスペード、ダイヤやクラブといったトランプのスートが刺繍されていることからこのアリス服Part2というのはどちらかというと不思議の国のアリスをテーマにしている事が分かる...って。
「どうして私にアリスの仮装をさせようと思ったのかしら?不思議だわ。」
「えー。当然でしょ?今回のハロウィンはアリスとおかーさんの服装チェンジ回!だからだよ!」
「え。意味がわからないのだけど。」
不満気に呟く猫さんに口元をひきつらせながらそう言うと、アリスが瞳をうるませて私を見てきたわ。...これは、本当に嫌な予感がするのだけど。
「チェシャ。私とお揃い、嫌なの...?」
「あーあ。おかーさんったらアリスを泣かせちゃダメだよー?」
アリスの頭に登った猫さんはよしよしと頭を撫で、私を批難したわ。
でも、アリスってそう簡単に泣く子ではない気がするから、罠のような気もしなくはないのだけれど...仕方がないわね。ここは 提案を飲んであげましょうか。...恥ずかしいけれどね...!
溜息をつきつつ猫さんたちに向かって頷いたわ。
「仕方がないわね。良いわよ。着てあげるわ。」
それを確認した瞬間にアリスはパーッと顔を明るくして頭上に乗っている猫さんと目を合わせたわ。
嬉しいのはわかるけれど、よくその体勢で目を合わせられるわよね。猫さんのバランス感覚が凄いのかしら?
...それにしても、やっぱり泣いていなかったのね。瞳を潤ませただけで猫さんが泣かせたと言うから、本当に泣いたのかと考えてしまったけれど。...猫さんのミスリードに引っかかるなんて私もまだまだだわ。
なんとなく悔しく思っていると、猫さんが話を切り出したわ。
「それじゃあ、さっそく着てみよーっ!」
「ほら、チェシャの新しいチョーカーもあるわよ?」
その言葉に思わずアリスの手を凝視すると、そこには確かに明るい茶色のチョーカーがあったわ。
へぇ。今回は留め具がカボチャ型...って、もう要らないのだけど!?どんどん私のチョーカーコレクションが増えていくし...!こう、チョーカーと言えば聞こえはいいけれど、結局見た目は首輪じゃない?集まれば集まる程にどんどん変態度が上がっていっている気がするのは私だけかしら!?
「いえ、ソレ、イラナイワ。」
「あはは。カタコトになってるー。でも、つけてもらうからね?」
「どうしても?」
「どうしてもね。」
2人からニコニコとした笑顔を向けられ、私は仕方がなく頷くこととなったわ。いえ、圧がすごいのよ。圧が。これは私には耐えられないわ...。
「...ハイ。謹ンデツケサセテイタダキマス...。」
「やったわ!流石猫さんね!」
「ふふふ。そうでしょー?もっと崇めてくれても良いんだよ?」
ワァ。猫サンノ入レ知恵ダッタノカー...。
...うん。それは勝てるわけがないよね!?
こうして私はアリスの仮装をして、みんなで街へと繰り出すこととなったわ。
□■□■□■□■
せっかくだからと私たちは賑やかそうな王都を訪れたわ。
街ではカボチャやお化け、コウモリ、クモの巣といった飾り付けに溢れており、オレンジや紫といった色で統一された街は十分にハロウィンの雰囲気を味わうことが出来たわ。
街ゆくヒトたちはみんな大なり小なり仮装をしており、お店のヒトに買い物ついでで「Trick or Treat!」と話しかけているわね。
あ。そういえば、この日は大々的なイベントはなかったものの、街中で仮装をして「Trick or Treat!」と話しかけるとお菓子や素材といった何らかのプレゼントが貰えるとメールが来ていたわ。それでかしら。
うっかり忘れていたその事を一先ず置いておき、何やら賑やかなみんなの方を見たわ。
そこでは薄ピンク色の洋服を着たラヴァが顔を真っ赤にさせて不服だとばかりに言い返しているところだったわ。
『だから、これは決して女装ではないのである!』
「いや、それはどこからどう見てもナース服だよ?」
『そうだぜ?ナースっていったら、看護師の女の人のことを言うんだろ?』
『つまり、女装。間違いなし。』
「うんうん。どこからどう見ても女装だわ。」
「女装...?...可愛いよ!」
「かわい、いこと。」
「可愛いは正義ですが...まあ、それもあり、です...?」
どうやらラヴァがナース服を着ていたから、からかいたくなったみたいね。どうしてナース服になったのかは聞いてみたいけれど...まあ、やぶ蛇になりそうだしやめておきましょうか。
因みに、メルは包帯を巻いていて、ルナは黒いマントを羽織っているわ。恐らく、メルはミイラ。ルナはヴァンパイアとかその辺りの仮装のつもりなんでしょう。2人ともよく似合っているわ。
『もういいである!とにかく、今日はこの格好でいなければならないのだ。これ以上は言うなである!』
そう言ってラヴァは飛んでいってしまったわ。
居なければならない...やっぱり、あれはフェニあたりと約束したとかそんな所ね。
「あーあ。行ったちゃった。」
「私たちもハロウィンを楽しみましょう?」
『賛成。』
『どこに行こうか悩むな!』
「ぜんぶ!」
「そうだよ!全部行っちゃえば問題解決!」
「ですね...!行きましょう...!」
「そうね。まずはアリシアさんのところへ行きましょうか。」
こうして私たちはハロウィンを満喫したわ。ふふふ。お菓子を貰う側というのも楽しいわね。
王城に行ってアリシアさんから可愛いと抱きつかれたり、リリー師匠の所へ行ってまた抱きつかれたり...あら?なんだか、抱きつかれてばかりなような...気のせいね!きっと...!