ある日のラビ〜一周年記念〜
こんにちこんばんは。
一周年記念と称してハーツ帝国のあたりのラビの一日(半日?)を書くことにした仁科紫です。
少し早いですが、ここまで続けることが出来たのは読者の皆様のお陰です。これからも精進しますのでよろしくお願いします。
それでは、良き暇つぶしを。
「さぁてと。チェシャが居ないうちにお仕事を済ませちゃおうかなぁ。」
さてさて。皆さんこんにちは。ボクは白うさぎのラビ。どうしようもない人間たちのために働く、偉くて有能なAIだよ!...というか、誰に言ってるんだろう。これ...なんていうお約束をやりつつもボクの一日を紹介していこうと思う。
朝、6時。基本的にこの時間帯からちょこちょこと会社には人が集まり出す。え?ブラックだって?違う違う。彼ら彼女らは、昼間にサボりたいから早く出社して遅く退社するんだよ。これぞ、職権乱用ってやつだね。無駄に残業代だけはとっていくから、上司にとっては頭の痛い話らしいよ。それを言うなら、ボクらにも何かしらの褒美が欲しいところではあるけれどね。
えーっと、何を話してたっけ...ああ。そうそう。勿論、この会社に人が居なくなるっていうことはなくて、夜間対応の為に数人は会社に残ってはいるんだ。うん?ボクら、白うさぎが対応したらいいって?いやいや、ボクら、AIだからさ?たまーにだけど、舐められることがあるんだよねぇ。『AIに人様の事情なんて分からないだろ』ってね。あはは...何様だよ。地獄に落ちればいいのに。っと。コホン。それはともかくとして、そういう事情から、問い合わせには出来るだけ人が対応しようって事になっているみたいだね。結局、人の問題は人でしか解決できないんだよねぇ。ボクらも理解できないことがあるし。
それはそうと、今日も元気にお仕事だーっ!と、気合いを入れてデータに不具合がないかを確かめていく。ボクらの仕事は基本的にバグやチートなんかの異分子をこの世界から排除していく事なんだ。ちょっとした小さなことでも後々で大きな問題を起こす、なんてことは何処でもありうるからね。
あと、たまーに、キャラメイクのお手伝いとか宣伝とかに駆り出されたり、AIならではの意見を求められたりする。
「ちょっと、ラビくん。いいかな?」
おや。どうやら、何かの仕事を頼まれるみたいだね。なんだろう?画面のデータの中にいたボクはひょこっと呼ばれた画面へと顔を出す。
「何かな?」
「えっと...そ、その、人型になって罵倒して下さい!」
...ん?どうやら、想定外のバグが発生したみたいだね。えっと、こことここを弄って...っと。よし。これでいいかな。さて、どんな要件かな?
「ごめん。もう一回言って貰えるかな?」
「そ、その、だから、ばt」
「ごめん。聞こえなかったー。ふふふ。」
うん。どうやら、ちょっとしたバグが起きただけだったみたいだね。さあ、お仕事に戻ろうか!
朝、9時。この時間になるとようやく、他の白うさぎたちも活動を始める。...ナビは寝てるけど。ほんっと、本っ当にアイツ、アレだけ寝てるくせに仕事の量は僕と同じくらいこなしてるって意味わかんない...!
あ。チェシャがログインしてる。見に行こーっと。
「どこ行くの!?」
「ん?ああ。ビビ。おはよう。ちょっと、チェシャを見に行こうかなって。」
「お仕事は!?」
「大丈夫。今日の分はだいたい終わったよ。後は緊急のやつくらいだから、もし何かあったら呼んで。」
「むぅ。...ホントだ。分かったー。行ってらっしゃい!」
こうして仕事をしろと言わんばかりに声をかけてくる連中を適当にあしらい、チェシャの行動をスクリーンに映して観察する。
初めはなんとなく始めた観察だったものの、今となっては日々の楽しみとなっていた。
どうやら、今日はハーツ帝国の城へと乗り込むらしい。まさか、あの女王の元へと行こうとするだけでなく、彼まで巻き込むとは相変わらず彼女は面白い行動をする。いや、正確には彼がそう選んだようではあったけどね。
「ふふふ。ドクター。正式名称、Dr.帽子屋。女王の右腕的存在であり、女王を自身の中で神格化する程に女王を狂愛する異端の臣下。元となったのは帽子屋ことマッドハッター。その狂った頭の中には一体、どんな未来が見えているんだろうね?」
ボクはそんな事を呟きながら、次は何をするんだろうとワクワクとした気持ちで観察を続ける。
Dr.帽子屋の第二人格はお節介焼きとしてボクらの中では割りと有名だったりするんだ。だって、あの変人から生まれた人格だよ?絶対変人だと思ってたのに、普通にいいヒトだから初めて見た時はとんでもなくびっくりしたよ。『え!?変人じゃないの!?』ってね。
「それにしても...なるほどねぇ。そんなにあの時の言葉が刺さったのかな。」
思い出すのは過去の記録。帽子屋がただの帽子屋だった頃に起きた出来事だ。彼でないものならば気に止めもしなかったであろう出来事。しかし、どうやらそんな出来事でも女王狂のあの男からするとよっぽど消すことの出来ない記憶だったらしい。
『何故ですか!陛下...!何故、あの無礼な男ではなく私が謹慎処分を受けねばならないのですか...!』
『それは違うぞ。帽子屋。彼奴は無礼なのではない。不慣れなだけだ。むしろ、これから学んでいくことの方が多いのだから伸び代はある。
お前は他人にも自分にも厳しいが、そろそろ他人を気遣うことを覚えるべきだぞ?なんでも不敬罪にしていてはヒトが寄り付かなくなるのだからな。』
『気遣う、ですか...考えておきましょう。』
『ああ。』
それはとある宮殿でのはるか昔の記録だ。でも、それは間違いなく存在し、今にも影響を与え続ける重要な記録だった。
「ま、この世界の住人は一途な子が多いからねぇ。」
そう呟きながらも画面の向こう側で薔薇の花へと投げ続けられるチェシャという光景を見て、『あ。やっぱり帽子屋の第二人格だな』と再確認することとなった。うん。やっぱり、変人は変人だよね!人格が変わっても根本は変わらないんだから仕方がないや。
というか、ココ最近の中でもトップクラスの珍事なんだけど。あのチェシャが!チェシャがにゃぁあって叫びながら...!叫びながら飛ばされては眠って麻痺して、燃えてからようやく慌てて目を覚ますなんて、もーサイッコーっ...!!
「あはははっ...!...ヒィ...ヒー...はぁ...。ほんっと、チェシャって最っ高に面白い...!」
「ねぇ。この書類...あれ...?ラビ。どうした...?」
その笑い転げているまさにその時、ボクにとって一番見られたくないやつが無断でやって来た。ホント、いつもいつもやめて欲しいんだけど。ボク、ちゃんと鍵閉めてるんだよ?それなのに、コイツと来たらあっさりと扉をハッキングで開けて入ってくるんだから...!やになっちゃうよ。まったく。
「...はぁ。何?ボクは忙しいんだけど。」
「うん。ちょっと気になることがあって...ん?この子、ラビのお気に入りの子...?見てたんだ...。」
ボクのつっけんどんな態度にも気にすることなく淡々と話すナビが気に食わない。ボクばっかりが意識させられてるだなんて不公平じゃないか!だから嫌いなんだよね。ナビって。
まあ、向こうはどうでもいいって思っているんだろうなぁ。そういうところもムカつく。...意識されていたらされていたでナビらしくないから結局、ムカつくんだけど。
「そうだよ?何か悪い?」
「うーうん。悪くない...。それ、終わるのいつ?」
何故かナビは観察が終わる時間について尋ねてきた。変なナビ。いつもなら問答無用で書類を投げつけられて確認してたのに。よっぽど重要な案件なのかも。それなら仕方がないかな。素直に教えてあげるよ。
「うーん。今、5時だし...あと1時間かな。」
「おけ。...おやすみ...すぅ...。」
それだけ言うとナビは寝てしまった。よっぽど寝たかったらしい。...本来、ボクらには睡眠も何も要らないと言うのにね。ホント、なんで寝るのか理解不能だよ。まあ、でも...
「これはこれで、いっか。」
楽しい日々のスパイスとしては丁度いいのかもしれない。ボクらの時間は永遠に続くのだから。
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。