黒井咲絺は猫になりたかったようです
こんにちこんばんは。
今回のお話は下の要素が含まれています。
飛ばしても一応問題はないので1つでも嫌な要素がありましたら、飛ばしてください。
※作者からの注意点※
この話は黒井咲絺が猫になる前の話です。
前回とは時系列が異なります。
前回と異なり、第三者視点となっております。
また、この話は個人の意見が含まれています。
つまり、深く考えないのが吉です。
黒井咲絺はある時からか、猫になりたいと思っていた。
何故か。そこに明確な理由はない。
もしかしたら、気まぐれに人と接しながらも死ぬときは人の前から姿を消す。そんな生き方をする猫に憧れでもあったのかもしれない。
しかし、そんなことを考えずに猫になりたいなぁと考える程度には、咲絺は人付き合いに疲れていた。気遣うのに疲れ、自分の発言に後悔するのに疲れ、通常ならば気にしなくてもいいことに対してまでも、気にするような自分に嫌気がさしていた。
まだ、閉じた世界でしか生きていない、中学生でしかないというのに。
何か不幸なことでもあったのかときかれると、そんなことは何も無かったと答えるだろう。
いたって普通で平和で平均的で特別な何かもなかった。家族仲が悪いわけではなく。虐められていたわけでもなく。何もない。
だからこそ、何もない自分に価値があるわけがない。そう考えては、自身が生きる意味、理由、価値を考えた。だが、その答えはいつ考えても出てこなかった。
相談相手はいつも親だったが、こんなことを言うのは流石に気が引ける。そうなれば、友人にでも、と思う人はいるかもしれない。
だが、咲絺には特別仲のいい友人になれる人などはいなかった。友人を作ろうにも、その人には他にもっと仲のいい友達がいるのだから。何もない私ではきっと一緒にいて楽しくは過ごせない。そう考えていた。
明らかに考え方がおかしいが、これが咲絺にとっては普通の考え方だった。
ようは、臆病で、お節介過ぎたのだ。誰と付き合うのかはその人が決めることだ。それを、相手にどう思われるかが怖くて逃げていただけに過ぎないのだ。
だが、その指摘をしてくれる人など誰もいなかった。当然だ。拒絶していたのは咲絺の方なのだから。
しかし、それでも怖かったのだ。相手が自分の居ないところで何を言っているのかが分からないことが。何を考えているのか理解出来ないことが。
咲絺にとって感情は基本的に言葉で表すものだ。好きならば好き。嫌いなら嫌い。はっきりそう伝えればいいと考えていた。
だからこそ、言葉と本当の考えを切り離せる人が怖かった。理解できなかった。
皆がみんな、そうではないと知っていたが、そんな相手がいると思うと、とても恐ろしかった。そんな咲絺の態度が相手にどう思われるか、咲絺には理解できていなかった。
そして、そんな咲絺はどんどん、ネガティブになっていった。些細なことが、以前人と話したときの何気ない会話を想起させ、そのとき自分が口にした言葉が気になる。
あのとき、もっといい言葉があったんじゃないか。あのとき言った言葉は余計なものでしかなかったんじゃないか。
どうしようもないほどにネガティブな思考しか出てこない。考えても無駄だと知っている。変えることが出来ない事実を、考えることに意味などなく、正解などというものはどこにもないのだから。
それでも、自分には何もないと思っているからこそ、もし、誰かの嫌な思い出のひとつになっていたら。もし、この一言が相手に影響を与えていたら。咲絺はそう考えると話すことが怖くなっていったし、言葉選びに慎重になった。
もっと自然体の自分でいられるようなそんな環境が欲しい。もっと、私を見てくれるような人たちと出会いたい。正解がわからなくても、せめて、私が何をしても許してくれるような誰かがいれば…。
咲絺はずっとそんな願いを胸に秘めながら生きていた。無意味だと知りながらも。本当はわかっていた。理解していた。
そんな環境なんてあるわけがないし、そんな身勝手を許すような甘い世間でもない。唯一の答えなどというものもあるわけがない。そもそも、関係を深めるにはコミュニケーションが必要だ。はなから諦めてる咲絺にそんな人物が都合よく現れるわけもない。
それでも、理解していても、その願いに縋らずにはいられなかった。幻想に思いを馳せずにはいられなかった。
そうでもしなければ生きていくことに希望を見いだせなかったからだ。
なぜ、人は生きなければならないのか。なぜ、自由に生きる権利があるというのに自由に死ぬ権利はないのか。なぜ、なぜ…
そんな世間が許さないようなことしか考えられない日々に、咲絺は平均寿命の四分の一も生きずに、生きることに疲れていた。
そんな日々も過ぎ去っていく。
咲絺は人生に疲れながらも、順調に進学し、大学生になり、一人暮らしを始めていた。
そんなある日、世間を賑わせたのはフルダイブ型のVR技術だった。まだ、そこまで高度な動きは出来ないものの、脳に働きかけることに意味はあるとか何とかという理由で、まずは医療用に利用され始めたということだった。
このニュースをきいた咲絺はすぐに行動を開始した。
なぜなら、この技術が出来たということは、時間はかかるだろうが、後に一般に導入されるということだ。
もしかしたら、こんな現実を忘れることの出来る世界があるかもしれない。それならば、咲絺はその世界が出来るまでにこちらの世界を最小限にするために行動を開始しなければならない。
この世界は咲絺が生きるには複雑すぎたのだから。
それからの咲絺は勉強をしつつも、死にものぐるいで働いた。苦手な人と接するような仕事も自ら進んでしたし、勉強をして、株にも手を出した。
そして、大学を卒業し、社会人として働くようになると、よりよい収入を求め、大手の会社に勤めた。
日々の生活はできるだけ節制し、無駄をなくした咲絺の暮らしは傍から見れば大変色褪せたものだったが、目標を定めることの出来た生活は今までよりも充実していた。
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そして、10年ほどたったある日、ついに待望のものが完成したというニュースで世間の話題は持ちきりとなった。
気付けば咲絺の貯金は一生遊んでも暮らせるほどには達しなかったものの、年金が貰える頃までは働かなくても遊んで暮らしていけるくらいにはなっていた。
待ち望んでいたものを手に入れることができる。そんな状況に咲絺は歓喜した。
そして、もうこの場所に用はないとばかりに勤め先に辞職願を提出し、慌てる上司に引き継ぎの話を手早くし、後任の後輩にはさっさと覚えろとばかりに、以前から用意していた引き継ぎの際の注意点などの書類を押し付け、その場を去っていった。この間、二時間もかかっていない。
どれほど咲絺が待ち望んでいたかがよくわかる出来事であった。
そして、咲絺の手に入れたものは、何度も試行錯誤を繰り返した結果、とても自由度が高く、何にでもなれる世界だった。
Wonder World Life Online、通称WWLOは開発当初から多くの投資家や資産家から期待されていた。
大手ゲーム会社が多額の開発費をかけ、有名なシナリオライターや、デザイナーたちが積極的に参加していた。
もちろん、このゲーム以外にも同じように多くのオンラインゲームが開発され、販売されてもいたが、注目度が違った。
なぜならば、WWLOは他とは異なり、人外種、それも人型だけではなく、様々な動物のアバターを選択することも可能だったからである。
さらには、進化システムも導入され、幼い頃に憧れたような伝説の生き物にもなることが出来るという売り文句まである。
それだけに、他のゲームが次々と販売されていく中、完成までに時間がかかってしまったのは当然のことだろう。
そして、それだけのゲームは当然のように競争率が高かった。
とはいえ、一部躊躇した人たちもいた。
それはこのWWLOというゲームが参考にした世界観にあった。
それは、【不思議の国のアリス】である。
あくまでも参考にしただけとはいえ、可愛らしいイメージが強いことから躊躇う男性がそれなりにいたという。
そのようなことからはじめは様子見にしておこうと、考えるものもいたためか、初期の競争率は一般的なゲームより少しばかり高いだけになっていた。
そのおかげか、咲絺はβテストに参加することはできなかったものの、見事に第一陣に当選することができたのである。
まあ、第二陣以降はかなりの競争率となったため、様子見勢が多かったのは、運が良かったのかもしれない。
何はともあれ、咲絺はWWLOの世界を手に入れた。あとはサービス開始までに料理の作り置きや、日持ちのする食べ物や飲み物を買い込むだけである。
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そうして、サービス開始初日。
あともう一時間ほどでログイン可能であるという時間、咲絺は何をしていたかというと…。
「猫ってどんな風に走っているのかしら?」
猫動画をひたすら見ていた。
人によってははぁ?と、思うところかもしれないが、本人はいたって真面目である。
咲絺はどうしても猫になりたかった。
なりきるのではなく、なるのである。
それには歩き方、仕草や鳴き方などの研究をする必要があったのだ。
それにしても、今というサービス開始一時間前まですることだろうか。それならば、とりあえず妥協で人型でもいいのではないかと、思う人もいることだろう。
しかし、まず前提として、ゲームの中で人型の種族をするという選択肢はいっさいないと言いきるほど咲絺は人型に興味が無い。それならば、他の動物でも構わないのではないかと思うかもしれないが、先に述べたとおり、ずっと漠然とではあったが猫になりたいと思って生きてきたのである。今更変更するわけがない。
とはいえ、猫の生態について詳しいわけでは全くない。そもそも、そんな暇すら削って生きてきたような人間である。
猫動画を見る余裕など咲絺にあるわけがなかった。
ゆえに、退社後ずっとほぼ一日ログイン(廃人プレイ)の準備を進めながらも猫動画を見ていたのである。
それから50分後…
そろそろログインに備えていろいろしなければならない頃。
おもむろに時計を見た咲絺は今更慌てていた。
「あれ、そろそろ時間だわ!急がなくちゃ!
って、あわわわわぁ!」
どったんバッタンずっドーン!!
そんな音をたてながらもなんとかサービス開始時間に間に合わせることができた咲絺は専用のゲーム機を身につけて寝転がりながら、決心していた。
(この世界では絶対に自分のやりたいと思ったことしかしないわ!
悩むのならば自分のより心惹かれる方を選ぶ。これに限るわ!
もう、何も抑える必要なんてないのだから。)
そして、その時がきた。
咲絺は電源を入れてこれからするゲームを選択した。
<Wonder World Life Online(WWLO)が選択されました。開始しますか?>
▶YES
NO
こうして、WWLOに後に狂い猫と呼ばれるプレイヤーが誕生したのである。
今回のお話は作者の考え方を含んでいるところがあります。
全てが全て、この通りというわけではありません。
人間の数だけ考え方はあり、互いに影響を受けるからこそ数多の個性が生まれる。それが人間の素晴らしいところなんです。
ひとつに染まるだなんて面白くない。
そう思いますので、皆さんも深く考えないでください。
こういう人もいるんだ。くらいの気持ちでお願いします。
今回のお話は作者の力量不足が否めないので、本当に軽く読んでくださいな。
次回、長くなったキャラメイク。




