1、城宮那津[後半]
ノエルギャラガーになりたいな、
「ありがとう。拾ってくれて」
そう言うと、目の前にいる女子生徒が僕の方に手を伸ばす。
白くて細い手が、僕の手のひらに乗っかっているテニスボールを掴んで、そのまま肩まで伸びた髪を掻き上げた。額に汗が見える。
「城宮だよな、、、?」
と、僕が声に出してしまったのは、女子生徒がテニスコートに向かって回れ右をした後だった。
「那津の知り合い?」
「知り合いって程でもないんだけど、、、」
城宮と自分の関係を言い表せられなかったのは、単に委員会で知り合った程の仲を何と言い表したらいいのか分からなかったからだ。
それよりも変に思ったのは、目の前に城宮那津と全く同じ見た目をした女子がいること。
見た目だけなら、瓜二つの双子だと言われても信じてしまう程だ。
けれど、城宮に姉や妹がいるなんて聞いたことがない。
それに城宮は自分を下の名前で呼んだりしない。
「じゃあ私部活あるから」
「あ!ちょっとまって」
「何?」
不審者を見るような目。完全に目のハイライトが消えている。さっきまでの様子と大違いだ。
「えっと、城宮とは知り合い?」
「、、、、、、、」
無言のまま僕を睨みつける女子生徒との沈黙の時間が十秒を超えたところで、
「じゃあ、城宮が今どこにいるか知ってる?」
「そんなの知らない。私もう行くから」
そう即答して、城宮によく似た女子生徒はテニスコートに早歩きで行ってしまった。
しばらくして、頭の中の整理がつかないまま校舎裏を後にしようと僕も歩き出す。
足元に青色のハンカチ。
ここに来た時には無かったものだ。
当然僕のものではない。ということはさっき会った女子生徒のものだろう。
拾い上げてみる。
四角く四つ折りにされているハンカチの隅に刺繍がされていた。
『 城宮那津 』
僕の頭はここで音を立てて爆発した。