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1、城宮那津[中間]

コロナの影響で塾もない。当然、学校もない。クソ!!

 廊下の小窓から中庭が見えた。

 中庭の中心にある高さが七メートル程の木には、冬が近づいても葉が落ちない、植物としての強さが見て取れる。

 この高校が建てられた記念に第一期生が植えたものらしい。今では、高校のホームページのトップにのる程、高校のシンボルとして定着している。

 手紙に対する返事を頭の中で考えながら校舎裏に向かって歩き出す。

 踵を踏んだままの上履きが床に当たってリズムを刻んでいた。

 自分以外は誰もいない廊下に音が反響する。

 階段を降り、一度昇降口に向かう。今朝は手紙が入っていた下駄箱の扉を開いてスニーカーを取り出す代わりに、踵の部分が凹んだ上履きをしまい、扉を閉じた。

 昇降口を出てすぐ左に曲がるとテニスコートが見えてくる。

 緩やかなスロープが五メートル程下った先に、テニスコートが二つ。

 地面はゴムで出来ていて、赤色の綺麗な直線が長方形のコートを型取っている。

 テニス部の部員は既に活動を始めていて、その中の一人に栞の姿も見えた。

 長い髪を頭の後ろで結んだポニーテールがラケットを振るたびに、動きに合わせて揺れている。

 練習に夢中で僕の視線には気づいていないようだった。

 部活に入っていない僕からしたら、授業をやっと終えて疲れた体に、追い打ちをかけるように激しい運動をするのは考えられない事だ。

 だからこそこうやって元気に運動ができる栞をちょっと尊敬していたりする。

 そんな栞の姿を見ながら、手紙の返事をする為に校舎裏に向かう。



 四方を壁のように囲まれた校舎裏にはジメジメとした空気が充満していた。地面から生えている背の高い雑草や苔の匂いが混じった空気が僕の鼻をつついている。

 真夏のジメジメとした感覚とは少しだけ違って、二酸化炭素を取り込み、酸素を排出する植物の湿り気がある。

 一番近い例えで言うと、マイナスイオンみたいなものだ。

 日陰と静寂さも相まって、心が落ち着く空間。

 しかし、校舎裏に来ては見たものの、周りには誰もいない。

 城宮らしき人物も見当たらなかった。

 

 「まぁそんなもんだよな」


 と独り言を漏らす。

 あの手紙は悪戯か何かだったんだろう。

 城宮レベルの人気者なら、クラスの誰かが城宮からのラブレターと称して嘘の手紙を学年の男子の下駄箱に仕込むくらい想像がつく。

 それにまんまと釣られた男子を、舎の陰から笑いをこらえて見ているに違いない。

 少しでも期待した自分に少し腹が立った。

 せめて、自分を騙した悪戯好きの生徒の顔くらいは拝んでやろうと背後を振り返る。

 けれど僕の目に映ったのは、こちらに転がってくる一つの黄色いテニスボールだった。

 僕の足元でちょうどよく止まったテニスボールを拾い上げる。

 指先にボサボサとしたテニスボールの毛先が触れた。


 「あの、それ、、、」

 「 ? 」

 「あたしの」


 逆光を遮るように空いた右手を上げた。

 僕の瞳に映ったのは一人の少女だった。


 

 

まだまだ続きます、、、、、

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