最終話 別れは通過点
右からヴァルキュリア左から潤の双方の攻撃。
「さっさと眠れや。」
ヴァルキュリアは思いのほか軽いステップでヤスの近くによる。
「解放 完全堕天使」
俺が完全堕天使になるときの強さの条件。
それは『気持ち』である。
何のために戦い、何を守るのか。
その決心の強さは己が力に比例する。
「みんな見てろよ。」
一瞬何かが光ったかと思うと潤の背中から白い翼が生える。
その翼は大きく、自分を包み込めるくらいの大きさである、天使の羽みたいに白くフワフワしている。高級羽毛布団級の柔らかさだ。
大翼は思ったより軽く機動力を向上するには結構なものだ。
剣を出来る限り早く振る、ヤスの首元めがけて。
「やああああ。」
俺とヴァルキュリアの剣がヤスの首元で交差する。
二人はそのまま過ぎ去りゆっくりと減速する。
ヤスからある程度離れ、後ろを振り向く。
「遅い・・。」
潤の目の前には腕を引き今にも殴りかかろうとしてくるヤスの姿が映った。
ガツン。
重い一撃が潤を襲う、しかしこれぐらいで倒れる潤ではない。
自分の可能な限りヤスから受けたダメージを受け流す。
ヤスの後ろからはヴァルキュリアの姿があった、ヴァルキュリアはヤスの羽を掴むとその羽を自分の剣で削ぎ取る。
一瞬で右翼が体から切り離された。
ヤスは少し前かがみになり後ろを振り向きながら剣を振る。
ヴァルキュリアは後ろにステップを決めギリギリで避ける。
「そんな攻撃が俺に当たるかよ遅いね。ひゃっはっはっは。」
足を蹴りヤスの態勢を崩す。
綺麗に足払いが成功した、そしてヴァルキュリアは連続的に攻撃を叩きこんでいる。
ヤスはそれを一個一個受け止めて、逆に攻撃に持っていく。
ヴァルキュリアが押しているように見えるのだが、ヴァルキュリアは結構苦しいようだ。
その表情は笑っているが、結構無理してるようにも見える。
「お前の攻撃もなかなか鈍いぞ。」
ヴァルキュリアの攻撃をかわしヴァルキュリアの胸元を一突きする。
あれだけの力をもったヴァルキュリアが子供みたいに投げ飛ばされる。
蹴りあげられたヴァルキュリアは空中で態勢を整えようとするがしかし、ヤスの瞬発力と判断力のほうが早かったのだろう、ヴァルキュリアの後ろに回り込み右肩と右腕をつかみあらぬ方向へと力を加える
この室内に鈍い音がこだまする。
ボキッ。
ヴァルキュリアの肩が外れた。
ヤスはヴァルキュリアから離れると、今度はこっちにやってきた。
俺はヤスの攻撃を回避する。
その後も俺を追撃するかのようにデルが飛んでくる。
今までのデルとは違い意思をもっている。
俺達が撃つデルは直線方向だったのだが、ヤスの撃つデルは軌道が変わったり、スピードも変則的で予想がしにくくなっている。
「なんだこのデル。」
前後左右上下、全方向から俺に向かってデルが飛んでくる。
不規則な動きハエを掴む感じで、切り落とそうとするとギリギリで避けられる
「デルタレイ:デルの進化系、自己的意識をもったデル。知らなかったのか。」
「ごもっともだ。ってうおぁ。」
一瞬目を離したすきにデルは俺の目の前に迫っていた。
俺は顔を覆うようにしてガードする。
デルが直撃する瞬間、真横からのデルの直撃によりデルとデルは消え去った。
「な、なんだ。」
「なにやってんだ、気抜くと死ぬぞ。」
遠くからヴァルキュリアの声が、多分助けてくれたんだろうあいつにしては珍しいことだな。
「肩をはずしただけだが、まだあんなに動けるか・・・行けデルタレイ。」
ヴァルキュリアの頭上には大きなデルの塊が完成し、そしてデルが雨のように降り注ぐ。
「さすがのヴァルキュリアでもこれは避けれまい。」
ヤスの顔に笑みがこぼれる。
俺も避けれないと思った。
「ひゃっはっはっはっは。この俺様がこれしきの技を避けれないだと?弱いね、遅いね、こんなんじゃ俺にはとどかねーよ。」
外れた肩を空いている手でバキッっとはめる。
思いのほか動くらしい全てのデルをはじき返す。
考えてみれば自分の周りを守ってるだけで、デルは向こうからやってくるのだ。
飛んで火に入る何とやら。
「お前の分際で俺を止められ―――」
「どうしたヴァルキュリア。」
ヴァルキュリアの言葉は途中で止まり自分の足元を見つめている。
「どうしたヴァルキュリア。」
俺はヤスを無視して、ヴァルキュリアのそばに寄った。
しかしヴァルキュリアは何も話さない。
「体が・・うごかねぇ。足だけじゃない・・体全体が動かねぇ。」
動かない?
何でだ・・・何かしら拘束されているのか。
「俺はいつお前たちが油断してるか分かるんだよ。」
やつは心が読める、嫌なほど聞かされた。
対策なんてない。
ヴァルキュリアに触れると、何かが周りを覆っている感じがある。
見えないけど何かがある。
ヴァルキュリアは多分それに拘束されているのだろう。
「どうした潤かかってこないのか。」
ヤスはその場から大きく飛びあがる。
俺はその隙を見てヴァルキュリアの周りの何かを切り落とす。
ヴァルキュリアはがくっと膝を落とす。
体から煙が出ている。
プシュウウウウウ。
蒸気が出ている。なにが起こっている。
「おい!?ヴァルキュリア?なにがあった。」
「なにがって・・・。」
「この蒸気みたいなのはなんだよ。」
「これか・・俺の攻撃事態に体がついてこれていないんだ、内部からの崩壊が始まっている。」
そこまで力を使っていたのか、平然な顔でここまでキツイことをやってのけている。
すごいなヴァルキュリア。
「俺とお前は繋がっているお前が殺されれば俺も死ぬ、しかし俺は死んでもお前は死なない。」
「だからなんだよ。」
「なに?」
「俺の変わりにお前が死ぬっていうのか?ふざけんなよ、冗談きついぜ。俺達はここまで一心同体だった、つまりお前が死んでも俺は死ぬ。だから俺はお前を死なせない、そして俺も俺の命を守る。」
ヤスを倒すということは世界を守るということと同じになる。
かっこいいじゃないか。その役この潤がやってやろう。
同じ兄弟として俺が決着をつける。
「お二人さん熱いねぇ、だけどここが何処だか分かってる?」
空を自由に飛び回るヤス。
「なぁヴァルキュリア、俺いいこと思いついたんだけど。」
「な・・なんだ。」
「ヤスって松浦とかと融合したじゃないか、だったら俺達も融合できるんじゃない?」
「そんなことやったことないぞ。」
「俺達二人がバラバラだったら駄目なんだ、ヤスには勝てない。」
ヴァルキュリアは少し悩んだが、いいだろうと手をうった。
失敗するかもしれない、成功するかは分からない。
しかし融合しないと勝てない、勝つ方法はこれしかない。
「やってみるか、行くぞ。」
「よしこいや!」
二人の地面が光る。
しかしそうはさせないようにヤスはこっちに向かい剣を振り落とす。
俺とヴァルキュリアの融合は最高潮を迎えていた。
二人の体は光り輝き、一つになった。
ヤスの剣は融けるような音を立てる。
「なんだ簡単じゃん。意外と簡単に融合できるもんなんだな。」
輝かしい光の中からは、俺とヴァルキュリアの融合体が現れる。
「融合しただと・・。しかし運命は変わらん!散れ。」
ヤスの背中からデルタレイが何百と出てくる。
それらは迷わず俺達を狙ってくる。
しかし何だろう。
「なんだこれ・・・すげぇゆっくり見える。」
俺達の眼にはデルタレイがスローモーションみたいにゆっくり映っている。
なにはともあれこれを活かさないわけがない。
俺達は一瞬でヤスの目の前に移動する。
どうやらヤスは気づいていないようだ、いや気づいていないというより俺達が早すぎて見えてないだけだろう。
一閃より早く俺はヤスを切る。
ヤスにしたらなにが起こったから理解できないだろう、理解するときにはもう死んでいるのだから。
「グハッ・・なんだこれは・・・。」
血を吹き上げながら倒れていく。
四肢は体から離れてその断片からは異常なほど血が吹き出ている。
「ふぅ・・これで何とか世界の危機というのは止まっただろう。」
腰を地面に下ろす。
周りの緑の反応は・・・・
消えていない。
「おいおい・・・まだ消えてないぜこの光。」
「まだ何かあるのか。」
周りを見渡してみる、ここにあるのは・・・・まさか。
まだくたばってないのか。
後ろを見るとヤスの姿はそこには無かった。
「俺から離れろ潤。」
体が勝手に動く。
融合していた俺の体を無理やりヴァルキュリアが勝手に融合を解除していた。
俺は前に押される。ヴァルキュリアから離れていく。
「ちょっなんだよ。」
俺は解除が完了して後ろを振りむく。
「マダ・・・オワッテナイ・・・。」
俺の眼にはヴァルキュリアを喰らうヤスの姿がそこにはあった。
四肢が分離してるはずだったがなぜか今は完全にくっついている。
「イッタハズダ、ココデハ全テガ・・俺ニ味方スル。アレシキノ傷モ回復スルノハ容易イ」
容易いとかいいながら、自分結構ヤバそうじゃないか。
「ヴァルキュリアヲ喰ラッテモウ一度復活シテヤル。」
「はぁ・・・・なに言ってんだ貴様・・・・。これが俺達の絶好の機会なんだぜ。いいか潤分かってるだろうな。」
「・・・・まさかだよな。」
「迷ってる暇はない、俺ごと切れ。」
「・・・無理だ。」
「は?・・うぐっ・・なに・言ってん・・・だ。」
再びヴァルキュリアから蒸気が出る。
さっきとは比べ物にならないぐらいの量の蒸気だ。
「コイツ。本物ノ姿ジャナイナ、コレヲ喰ライ本当ノ姿ヲ見セテモラオウカ。」
だんだんヴァルキュリアの姿が変わっていく。
そしてヤスの声自体も元の声に戻っていく。
時間が経つにつれヴァルキュリアの特徴的な白髪赤眼は無くなり、黒髪黒眼・・・いわば普通の人間の姿に戻った。
「こいつ・・人間だったのか。・・・人間がこの天界でここまで強くなれるのか。」
見たことある。
この顔・・・。
「・・・・兄貴?」
ヴァルキュリアは声に反応したのか、びくりと肩を動かす。
いや・・兄貴が二人いる・・・事は無い。
どっちが兄貴なんだ。見覚えがある顔が二つ。
そんなの分かってるか、そう俺にはどっちが兄貴なのか余裕で分かる。
「潤。さっさとこの偽物のヴァルキュリアを殺せ。」
「分かってる。」
ゆっくりと走りだし俺は剣を振った。
自分の信じた道を貫き通すために。
「ギャアァァァァァァ。」
響き渡る悲鳴。
ヤスとヴァルキュリアはそれぞれ分かれる。
「大丈夫かヴァルキュリア・・・・いや兄貴・・・小山達也。」
俺はヴァルキュリアのほうへ走る。
ヤスのほうは知ったことじゃない。
「なぜ・・・俺を裏切った。潤!!」
後ろからでかい声が俺を引きとめる。
「思い出したよ全て。誰が兄でどっちが偽物か。兄貴は絶対俺を裏切らない、それとお前には不可解な点が多すぎる。なぜ弱点である俺の右脇を狙ってこないのか、残念だが兄貴は手を抜く奴じゃないんでね、弱点見つけたらそこばっか突いてくる。まぁ決定的差は俺への接し方だと思う。達也はそこまで俺を貶したりしないし。」
「この兄・・達也を裏切って・・そっちの見方になるというのか。」
「かかったね。」
「な・・に。」
「俺の兄貴の名前は達也じゃない。しかしお前は自らの名を達也と名乗った。正直心読まれてたらちょっとヤバかったかもしれないけど、生憎心を読むほどの体力は残っていないようだし、自ら嘘ついてますと言ってるようなもんだろ、本当の兄貴になりたかったら、ちゃんと調べるこったな。」
ヤスを切った切り口は全ての能力を打ち消す力によって、高速回復ができない状態になっている。
この部屋自体の緑色の発光は消えてゆく。
俺はヴァルキュリアを担ぎここを出る。
「俺の野望・・・ここまでか。」
最後のヤスの言葉。
俺とヴァルキュリアはその後くっペーを助け出すために、今来た道を逆に戻っていく。
歩いていると河陰から通信が入った。
「潤。聞こえるか。」
「河陰か何の用だ。」
俺の通信機に河陰の言葉が急に届いた。
「さっさとその城から離れろ、死ぬぞ。」
「はぁ?え・・・どういうこと?てか河陰今どこにいるんだよ。」
「あー今いる場所?本拠地だよ、自分たちの。」
「へ~。 ってなに逃げてんだよ。」
「まああれだ、なにはともあれこっちの戦力は殲滅した。今から敵の本拠地を破壊する。」
「それって・・俺達が戦った意味って・・・。」
「まぁ気にするな、分かったらさっさとそこから離れろ。」
何という終わり方だ、何と傲慢な終わらせ方だ。
てか最初からこの作戦で行けばよかったんじゃね?
まぁ徹底的に殲滅するんだろうな、となると本拠地のほうは守れたということか。
くっペーと別れた場所に戻ってくる。
「しかし兄貴が俺の中に入ってたとは、どういうことなのかねぇ。」
「どういうことなんだろうな。そういうことは後でゆっくり話そうか。」
そうだな。俺は返事とともに兄貴をその場から降ろした。
少し下がりくっペーと別れることになったこの壁の破壊にうつる。
剣を握り肩をグルグルと回す。
首もグルグル回して準備体操を終える。
そして壁に向かって思いっきり走り出すと、いきなり壁が向こう側から破壊された。
大きな音ともに一本の手が俺を掴む、そのままそちらの方向へ引きつけられる。
「な・・なんだ?」
煙を裂くようにして現れたのは一本の鋭い刃物。
綺麗に湾曲していて切れ味なんて試さなくても分かるだろう、その刃物は俺の首元でピタッと止まった。
「潤?」
煙の中から声が聞こえる。
くっペーの声だ。
俺はあまりの出来事に言葉が出ず手を振って答えた。
「ごめん危うく殺しかけた。」
そういうとその鎌を引っ込め俺に手を差し伸べる。
俺はその手を握り起きあがる。
くっペーの隣には穹もいた、俺は兄貴を連れてくるとさっき河陰と話した内容を伝えた。
「・・・・とにかく逃げようぜ。」
もちろん離れるつもりだ。
俺達は急いでここから離れた。
俺達がこの城から離れた時、原爆でも落ちたかのように周りが明るくなり爆風が周りを包み込む。
「どぉわ!?」
地面は爆発ではじき飛び、ありとあらゆる物が吹き飛んだ。あの城なんて跡形もない。
何百メートル吹っ飛ばされただろうか、意識が戻った時には俺は地面に顔面を押し付けており大の字になってうつ伏せで寝ていた。
「・・い・・いたたた。・・何で俺ここで寝てるんだ。」
先の爆発により一瞬ながら記憶は吹っ飛んでいた。
しかし後からゆっくりと記憶を取り戻す。
「そうか。俺達戦いに勝って、そんで逃げてたら爆発して吹っ飛んで・・・」
勝ってるのに逃げている何とも不思議な気分だ。
ともかく体が重い。そんな自由がきかない体を動かしながらほかの吹っ飛ばされたみんなを探す。
「おぉーい。兄貴ー くっぺー 穹ー いるかー?」
辺りはガレキで散乱していた。
地震の被災地みたいな状況だった、俺の身長より大きいものなんて無いんじゃないかというぐらい皆ガレキだった。
ふいに俺の真横の石が動いた、中から兄貴の声がする。
俺はそこら辺にあった木を使い石をどける。
綺麗にポッカリと開いた穴の中に兄貴は挟まれていた。
何とか救出し他のメンバーの散策に当たる。
「兄貴見つかったかー?」
「なんとか女の子を見つけたぞー。」
向こうから穹を担ぎながらトコトコと歩いてくる。
俺もそっちに向かう途中何かを踏んだ。
「うげっ。」
「くっぺー!?・・・ごめん。」
くっペーを踏んでしまった。
踏んだ威力とともにくっペーは意識を取り戻した。
「うててて・・・。潤か、何でこんなとこに・・・ってあぁそうか吹っ飛ばされたんだったな。」
どうやらくっペーも俺と同じく一瞬記憶を失ってたらしい。
ともかくくっペーを起こして兄貴と合流する。
「兄貴これからどうするよ。」
「兄貴って・・・お前の兄さんかよ。」
そういえば誰にも言って無かったけ、言う機会が無かっただけか。
穹は眠ってるがくっペーに一通りの素性は知らせておいた、くっペーはなぜかこういうときだけ読み込みが速くわりとすんなりいく。
面倒な話をしなくてすむからよかった。
「しかし何にもないね。」
周りを見ながら兄貴は言う。
確かにあの爆発により建物という建物は、粉々になり周りの木も吹き飛んでいる。
「あれだけの爆発があったんだしかたねぇな。」
「しかし潤これからどうする、救援でも待つのか?」
「そうだな、とりあえず待とう。下手に動かない方がいい。」
「そうだねここの土地の事自体よく分からないからね、救援を待つというのが妥当だろうね。」
とりあえず俺達は救援を待つことにした。
「おーいみんないるかー?」
遠くから声が聞こえてきた。
河陰の声だ。
俺は大きく手を振りアピールする。
河陰の後ろには騎士団のみんなが歩いて来ていた。
「ずいぶんボロボロにやられたみたいだねぇ。」
真っ先に来たのは天宮と炉華と知らない女の子。
「まぁ生きてるだけよかったってこった。」
「よかったよかった~」
女の子は炉華の頭をぐしゃぐしゃと触りながらはしゃいでいる。
「あ~もうアヤカシうるせぇな、じっとしてろよ。」
無邪気に笑う顔を見ると悪気は無いのだろう。
炉華達と話していると後ろから夏織と恭介がやってきた。
「穹さんは大丈夫なんでしょうか。」
「なぁに穹ちゃんは大丈夫だよ、多少無理をしたみたいだけどね。」
穹のところに駆け寄り状態を確認している。
そして紅亜と河陰がやってくる。
「アリス・郷・令 お前たちは敵が生きていないか見てきて来れ。」
三人は頷くとその場から離れていった。
「よく頑張ったな御苦労だ。」
「それほどでも。」
「しかしこんだけ破壊されているのにお前たちだけ生き残ってるって意外とついてるのかもな。」
頭を撫でてくる河陰。
ボサボサになった髪を直しながら俺は兄貴のほうを見た。
兄貴は腰をおろしてゆったりとしている。
「どうも。」
「あんたがこいつのお兄さんか?」
「はい。」
「ついでにヴァルキュリアの役もやってたと。」
「はい。」
「しかしそうなるといろいろと話がグチャグチャになるぞ・・・そもそもヴァルキュリアという存在はかなり前のはずだ、いくら地上との時間の流れが違うとはいえヴァルキュリアの存在自体は地上時間にしても十年前になる・・・。」
「その事でしたら簡単ですよ。」
兄貴は自分の右手を見つめる
そして何かを決めたかのようにニッコリと笑いながら話し始めた。
「僕の力を使えば簡単にできます。そして僕の力というのは歴史の書きかえです。僕が認識できている歴史を全て思うがままに書きかえることができます、この力を使えば事実は偽りにそしてゼロからイチを作ることもできる。」
「なるほどだから適当な時代にヴァルキュリアをいう存在を作ったということか。」
そうです。と兄貴は俺のほうを見た。
「潤には大変なことを押し付けたと思うそれは謝るよごめん。」
「いやだなぁ俺は兄貴にいろいろと助けられたし感謝してるぐらいだよ。」
俺は本当に感謝している。
初めてヤスと出会ったあの日兄貴が居なかったら俺は確実に死んでたし、兄貴が居なかったら今の俺はいない。
「とりあえず帰ろうか、僕たちがあるべき場所に。」
「おいおい俺も忘れるなよ。」
あわてたようにくっペーが入ってくる。
そうだ俺達の本当の居場所は天界ではないここには長い間居座っていた。
しかしこの長い歳月も地上時間にすると一週間とちょっとらしい。
俺達は名残惜しさ半分にして自分達の本当の居場所に移動することになった。
天界門。
地上と天界を結ぶ一本の階段。
俺達は門の前に立っていた。
「これで本当のお別れか・・・」
俺は後ろを振り向いた。
俺達の後ろには河陰達が見守っていた。
見送りらしい。
「お別れだなお前の言うとおり、だけどなぁこの別れはただの別れであって終わりじゃない。」
炉華がアヤカシを担ぎながら言った。
その言葉に続くように天宮も
「確かにこれはただの別れでしかない、もちろん君達が地上に戻ればここに来ることは無くなるだろう、だけどこれはただの別れであって通過点でしかない。」
そして恭介が
「地上に戻るとこっちでの記憶は無くなる、君達が堕天使であったことも天界という存在もそして僕達のことも。だけどこれはみんなも言ってるようにただの別れだ、友達と一緒に遊んでそして家に帰るということと同じ感じだよ。」
夏織が
「また明日になったら遊べばいいじゃないですか、別れたとしてもまたどこかで出会えるかもしれませんしね。」
河陰が
「ま、そういうことだ。私はいつでもお前らのところの生徒会長をしてるがな。」
「そういえば生徒会長って今年で卒業じゃなかったっけ?」
横からくっペーがあらぬ事を聞く。
「そうだったな、来年は夏織ぐらいが生徒会長になるんじゃなかったっけ?そんな感じだ。生徒会長は私達の座ということだ。ともかくさっさとその階段を下りろ、時間というのは生きているものの判断を狂わす力を持ってるからな、時間が経てば経つほど名残惜しさが生まれる。」
「そういうことだよ潤。さぁ帰ろうか。」
「なんかいろいろとあって楽しかったけど、やっぱり永遠には続かないんだね、いつか終わりが来るそんなことが分かった気がしたよ。」
穹が若干涙目でこっちを見る
これ以上の時間は河陰の言った通り名残惜しさが出てくる。
俺達は河陰達に別れを告げ天界門をゆっくりを踏みおろしていった。
階段を下りる途中。
「はぁ~いろいろとあったけど…これから現実に戻るってことだな。」
ため息交じりにくっペーが呟く
俺達を追撃するかのように兄貴が。
「そういえばみんなは勉強のほうは大丈夫かな?」
「そっそういうことは言わないという方向で。」
「ごめんごめん僕はそんなつもりはなかったんだけど、勉強ならいつでも教えてあげれるからそういうところは頼ってくれてもいいよ。」
そういえば一週間も授業を受けてなかったからみんなに追いつくのは結構しんどいかもしれないな、みんなはどうするのだろうか・・・・とりあえず帰ったら寝よう。
「お?出口が見えてきたぞ。」
くっぺーが指さす方には門の出口があった。
俺達は自然と早く下りた。
「最後の一段だな。」
「これを下りたら天界ともお別れだねみんな覚悟はいい?」
「私はもう決めましたから」
「そうだな俺も腹くくったからいつでもいいぜ。」
「潤は?」
「俺は…名残惜しい気もするけどこれは別れでしかないんだよな、よし決めたみんな行こう!」
俺の言葉に賛同するようにみんなはそれぞれ一歩前に踏み出した。
思い思いを胸に抱きながら。
目の前には学校のあの桜の木の下に立っていた。
空を見上げると無数の星が散りばめられていた。
夜らしい。
国道を走る車も数少なく家の明かりも結構少ない。
深夜という方があってるな。
ここは何か大切な人と出会った場所っぽい。
思いだせない、思いだしたくても思いだせない。
記憶力が足りないわけじゃない、なんというかスッポリとそこの一部を抜き取ったかのように思いだせない。
何かあったらしいが思いだせないだけど何かがあったのは確かだ。
夜風が体を触れながら去っていく。
しかし気分は何と言うか異様にすっきりしていた。
俺はなぜここにいるのか、そんなことはもうどうでもよくなってきた。
今はとりあえず家に帰って寝よう。
明日になったら学校がある。
遅れないようにするだけだ。
俺はこの丘をゆっくりと歩きながら下りていく。
そして家につく。
家には兄貴が居て俺を出迎えてくれた、そして兄貴の後ろから父さんと母さんがやってきた。
父さんによると俺はちょっと出てくるといって家を出て行ったらしい。
なんとも変な自分だ、とりあえず俺は寝ることにした。
また来る明日に備えて。
ついに終わったーーー。
なんと言いますか無茶苦茶な終わらせかたですが何とか終わりました。
初めて投稿した日が約四分の三年こんなに長くなるとは自分でも考えませんでしたw
ここまで来れましたのも皆さんのおかげです。
友達に誘われて書き始めたのがきっかけです、この小説に出てくる潤君みたいにちょっとしたことから始まったこの小説がここまで続くとはww
なにはともあれ第一作目がこれで終了です。
今まで見てくださった皆皆様
誠にお付き合いありがとうございました。
コメントくださった皆様もありがとうございました。