小さな世界を繋ぎ合わせた先に
静な部屋に透けた橙の光が差し込む。
時刻はもうじき短い針が数字の六を指す頃だ。
あと五分もすれば日暮れを告げる曲が流れ、この部屋へと届く子供たちの声はいつもと同じ、「またあした」と曖昧な約束を結び、上機嫌に家路へ急ぐのだろう。
そんなことをぼんやりと、開け放された窓から流れてくるうっすらと冷えてきている風を頬に感じながら脳へと流す。
彼は考えてすらいないのだ。
ある平和な国の、進んだ未来の、大きな争いもなく、人々が共に笑い、手と手をとって生きていくこともできる平和と呼べるこの時代。
そんな穏やかなときのなかに、優しい人々のなかに、違和感を感じ、孤独を感じ、表で笑い、裏で泣く......そんな社会に溶け込もうと必死になって自爆していく人々は、人口の何%を閉めると思う?
少年は気紛れに空けた窓を閉めようとして立ち上がったときに、たまたま目があった小さな雄の黒猫へと淡々と問いかけた。
小さな雄の黒猫は大きな猫目を丸くして、首をかしげて口を開いた。
「ぼく、まだ小さいから、難しいことよくわからない」
少年は小さな雄の黒猫の言葉に、少しがっかりした気持ちになった。そして、そんな気持ちを勝手に抱く自分自身にも。
同じものがおちてきた。
しかし、そんなとき......
「そうだ! ぼくは分からないけど、【からす】ならわかるかも! 明日聞いてきてあげるよ」
小さな黒猫は少年にそう言うとあの曖昧な約束を口にして元気に去って行きました。
残された少年はその約束をぼんやりと頭の中で繰り返します。ーー今度はきちんと考えて。
そうしていると、さっきまで胸に抱えていた澱みがふわふわと無くなるような気がしたからです。
少年はなぜこんな気持ちになっているのかわかりませんでした。何せ、少年はこの部屋を出たのはもう何年も前の話だし、実の両親とでさえあまり深く御互いの事を話すわけでは無いのです。誰とでも浅い交流しか、いや、それすらも興味を持たないことすらあったのです。そんな彼に彼の心がわかるはずがないのです。
小さな世界の小さな部屋の窓を締め切って生きる少年には仕方のないことだったのかもしれません。
ですが、窓は気紛れと共に開けられました。きっとこの部屋は今までと同じでは居られなくなるでしょう。少年は冷たい新しい空気で入れ替えられた部屋を知ってしまったから。
きっと、少しずつ変わっていくのでしょう。
それはゆっくりと
それは気が付かない内に
それらがもし叶うのなら
やわらかなものであることを
私には願うことしかできない