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短編

カワセミと4回転半

作者: oga

 オレは都内近郊に住むカワセミ。

だが、そんじょそこらのカワセミと一緒にしてもらっちゃあ困る。

川に自生する木の枝に止まり、神経を集中する。

周りの景色が緩やかになり、魚の動きが止まって見えた、その瞬間、オレは枝から飛び出した。

そして、体を捻り、1回転、2回転、3回転……

次の瞬間には、魚はオレのくちばしの先で、ジタバタしていた。

パシャパシャ、と一斉にカメラのシャッターが下りる。


「お前さぁ、どんだけ目立ちたがりなん? わざわざ回転するとか」


 隣で仲間のカワセミが言う。


「ちょっとはプロ意識もとーぜ? オレらはアイドルなんだからよ」


 オレらカワセミの写真を撮るために、この川には大勢の鳥好きが集まってくる。

仲間ん中には、集中して餌が取れないなんて言う奴もいるが、オレはその逆で、どんどん撮って欲しい派だ。

そんなある日、ちょっと変わった人間が現れた。






「おお~!」


 その日も、3回転半を決めて魚をキャッチし、ご満悦で昼食にありついていると、少し痩せた感じの男が、オレに視線を注いでることに気が付いた。


「しっかたねぇな~」


 オレは、プロ意識を働かせて、もう一丁、3回転半を決めて魚をキャッチして見せた。

どーだ、恐れ入ったか? と胸を張ると、予想外のセリフが耳に飛び込んできた。


「それが限界? 全然大したことねーな」


 オレは、開いた口が塞がらず、魚が川に落ちたことにさえ、しばらく気付かなかった。


「……言うじゃねぇか。 目ん玉かっぽじって、もう一度見やがれ!」


 オレは再度、3回転半を披露。

どーだ、次は見逃さなかっただろ!

ところが、その男は眉一つ動かさず、しかも、こんな言葉を放ってきた。


「だから、それは見飽きたっての。 3回転半なんて誰でも出来るんだからよ」


 こんなコケにされたのは、生まれて初めてだ。

オレのプライドに、火がついた。






 

 次の日も、男はオレの事を見に来ていた。

オレは、こいつを見返す為に、新たに回転を加えた前人未到の4回転半に挑戦していた。


「くっ」


 しかし、結果は惨敗。

四回転を回りきらずして、水面に突っ込んでしまう。

それでも、負ける訳にはいかねー。

オレは、来る日も来る日も挑戦し続けた。







 この日、オレは300回目の挑戦を迎えた。

みな、息を飲んで、オレのことを見守っていた。

いつの間にか、オレのチャレンジを見届けるのは、あの男だけじゃ無くなっていた。

枝から飛び立つ。

すぐさま回転に入り、1回転、2回転、3回転……


「負けて、たまるかあああっ」


 4回転、半!

オレは、水面に飛び込み、魚をキャッチした。

はあっ、はあっ……

枝に戻る。

周りからは割れんばかりの拍手。

どうだ、と男を見ると、ボソリ、とこんなことを言った。


「お前にできて、俺にできねぇわけねぇよ……」


 男は、走りさって行った。

何だよ、もっとオレを褒めろっての!






 

 とあるスケートリンクに、以前カワセミを見に来ていた男がいた。


「まーた3回転半か。 それはもう見飽きたんだよ!」


「もっ、もう一度お願いしますっ!」


 男は何度も何度も失敗した。

それでも、めげずに立ち上がる。

頭の中には、あのカワセミの4回転半をイメージし続けていた。

そして何より、折れない心を、カワセミから学んだ。


(次は、絶対成功させる!)


 300回目の挑戦。

その日、男は4回転半を自分のものにした。

男の名前はユズル。

後の金メダリストである。 




 

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