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第二節『痛快』第一項

昨日は早々に眠ってしまい、結局投稿できずじまいでした。ごめんなさい。

 ディルとフレナは街を出て、気がまばらに生えただけの道を歩いていた。背の低い木々の葉が暖かい風に揺れた。まだ陽は高いが、彼女によると村につく頃には夜になっているそうだ。


「……うわっ、べたべたする」

「我慢しろよそれくらい」


 フレナは再度額に触れ、うざったそうな声を出した。本人も言われるまで気がつかなかったようだが、チンピラの出した炎で額をやけどしていたらしい。おでこの中心を通り、ななめに傷が走っている。簡単な治療として、その上に火傷薬を塗っている。

 変色しているせいで今は少しだけ目立つが、しょせん小指程度の大きさ。時間とともになじんで目立たなくなるだろう。


「そういえば混乱していたから今までうやむやになってたけど、あの力はいったいどういうことなの?」

「それは俺もよくわからないんだ」


肩ほどの長さの赤み混じりの金髪は若々しく見える。実際フレナは十六歳、ディルの四つ下だという。彼女は年相応のあどけない顔をしていた。


「わからないって……。不思議な現象を起こしているのはあなたてしょ?」

「わからなくたってどうとでもできるもんさ。人間がどこから来たのかわからなくても、今俺は生きていることができるだろ?」


半ば屁理屈じみた物言いに彼女は不満そうに眉をしかめた。


「でもまあわかってることは、俺の能力の秘密はこの懐中時計にあるんだろうってことだ」


胸ポケットから銀の懐中時計を取り出す。取り付けたチェーンがじゃらりと鳴る。


「これは母の形見でね。元々大事にしていたんたけど、能力を使えるようになってからより強く存在を感じるようになったんだ。身に着けてないときは、大体どこらへんにあるのかもなんとなくわかるようになったんだ」


「やっぱりそれって大事なものなんだね。そんなものを盗もうとしたなんて……」

「気にするなよ。結局無事に戻ってきたんだから別にいいんだ」


 心底申し訳なさそうなフレナの謝罪を聞く前にさえぎって話を変える。心の底から反省しているようだし、これ以上ディルがどうこう言うことではない。村に行くまでに彼女の助けてという言葉の真意と詳しい事情を聞いた。


「……それで俺の財布を盗もうとしたわけか」

「そうなんだよ」


フレナはいまいましそうにうめく。


「ある日突然、みすぼらしい男たちが村に入ってきたんだ」


 今から一週間前のこと、彼女が暮らす村を突然複数人の男が占拠した。武器だって持っているしどこからどう見たって盗賊。近くから見ても、遠くから見ても盗賊。『また』の間から覗いても盗賊。この危険なご時世にも関わらず、長老たちは温かく迎え入れたそうだ。


「明らかに怪しいのに村の大人たちは疑いもせずに受け入れるし」

「確かに……。盗賊だったら大変なことになるもんな」


 ディルが賛同するとフレナは軽く頷いた。


「でも街まで来たんだったら警備隊でも呼べば良かったのに」

「私もはじめはそう考えてたの。きっと見えないところで脅されているんだと思って、街の警備隊に助けを求めに行ったんだけど……。今の時期はそう簡単には動けないらしくて」


 確かに、とディルは内心で納得した。今から約一週間後、街に王子が来るはずだ。その警護のために多くの兵を必要としているのだろう。


「私の村に出張るまで二週間はかかるって言われたよ。そんなにかかったら村の人たちがどうなるかわからないしね」


 彼女はうんざりしたように足元の石を蹴った。


「それで自分でお金を稼いで一時的に傭兵を雇うことにしたの、ちょうど割のいい仕事があったし、ランクの低い人なら一週間程度で雇える計算だったから」


 ディルは適当に相槌を打った後で、思い出したように言った。


「でもスリは駄目でしょ」

「いやまあわかってるんだけどね……。食費が浮けば一日二日早く必要な額のお金が集まったから」


 事情が事情だけになんとも言いづらかった。それ以上は話が膨らみそうもなかったので話題を変えた。


「そういえばどうやって村から街まで来たの?」

「ん? 歩いてきたんだよ。都合のいいことに私の村と街は近いからね。半日もしないですぐにつくよ」

「いやそうじゃなくて。ほら、危ない獣とかいるでしょ?」


 彼女はなんだそんなことが聞きたいのかという顔をした。


「特技があるからね」

「特技?」


 フレナは得意気な顔でディルを一瞥する。深く息を吸いこんだあと、今までの少女とは明らかに違う声で吠えた。


「グルルルァッ!」


 まるで瀑布のように轟く声の塊は地を震わる。周囲の木々から一斉に鳥が飛び立ち、逃げる獣の足音で地面が揺れた。思わず命を狙われているように錯覚した。ディルの身体は硬直し、背中を冷や汗がつたう。


「……すごいな今の。咆哮獣『ラグリル』の鳴き声か」

「でしょ? これさえあれば獣なんて怖くないよ」


 フレナは満足そうに胸を張る。ディルは額にびっしりとかいた汗を拭った。


 それから少しも歩かないうちに、道の隅に一匹の動物があお向けに寝ているのが見えた。外傷はないから生きてはいるのだろうが、ぴくりとも動かない。どうやら寝ているというよりも、気絶しているらしかった。


「……おい、あれって」

「うん、わかってるよ。私のせいだってことはわかってる」


 ディルがフレナを睨むと、目を逸らしながら小刻みに頷いた。哀れな被害者をせめて起こしてやろうと近づくと、隠そうともしない足音に小動物の足がぴくりと震えた。足を止めて様子をうかがうと、やがてひとりでに身体をよじって起き上がった。


 それでもまだぼんやりしているのか、地面の匂いを嗅いだり辺りを見渡したあと、ディルたちの顔を見た。そこでようやく、今まで見えなかった動物の顔が見えた。白い毛並みにつぶらな瞳。小さくとんがった耳、そしてやや突き出た鼻。そしてふさふさとした長い尻尾。愛玩動物として人気のあるリュリュという獣だ。


 ディルの気分も思わず上がった。


「おい、あれリュリュじゃないか!」

「好きなの?」

「もちろん! さあ、こっちにおいで。ちっちっちっ……」


 ディルはしゃがみ、地面を指で叩きながら舌打ちをした。しかし警戒心の強いリュリュはこっちにこようともしない。それでもしばらく続け、とうとう逃げ出すような素振りを見せ始めた頃、フレナは何かを閃いたようにそうだ、と言った。


「ん? なんだよ」

「いやね、これまでに色々助けてもらったからね。これはそのお礼ってことで」


 首をひねっていると、フレナは鳥が鳴くように喉を鳴らした。まさにリュリュの鳴き声にそっくりだった。しばらく続けていると、リュリュが近寄ってくる。


「くるるるるっ」

「おおっ、すごいぞ!」

「上手でしょ?」

「馬鹿喋るな、黙って続けろよ。逃げたらどうするんだ」


 黙って鳴けとはこれいかに。フレナは不満そうに舌を打ったあとまた喉を鳴らす。しばらく続けていると手を伸ばせば触れそうなところまで近づいた。ディルの気分は最高潮だ。

 その辺りでフレナは鳴くのをやめて大きく息を吸い込む。ディルがなぜやめたのかと文句を言おうとしたところで、嫌な予感がした。


「グルルルァッ!」


 リュリュは突然の爆音にひっくり返ったあと、転がるようにして逃げていった。その光景に茫然としたあと、フレナに掴みかかった。


「何してくれてんの!?」

「いやあ……つい」

「ついじゃないよ……」


 悪びれもしない彼女に肩を落とす。


 そのまま随分と重くなった足取りで歩き、陽が落ちてすっかり暗くなった頃、古ぼけた小さな家屋が遠くに見えた。

今日は二十時に『痛快』第二話、

二十一時に『痛快』第三話、

二十二時に『痛快』第四話、

二十三時に『痛快』第五話、

二十四時に『痛快』第六話を投稿するつもりです。


時間かぶり防止のために手動で投稿するので、上記の通りにならないかもしれません。

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