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いつかの恋を待ってる  作者: かようこ
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バラの剪定していないから 相田さん

 秘めた恋の話。


 母に話したのは、去年、暦は春でも、まだ寒い季節の話。


 通学路の途中、その家の前を通るとピアノの奏でが聞こえる。

 ピアノ教室をやっているらしく、日によって上手な音、たどたどしい音の奏でが聞こえる。

 たまに、知っているJポップを弾いている時は心の中で口ずさんだり。


 窓際、薄いカーテンの向こうにレッスンを受けている人と男性らしい先生のシルエット。

    

 気に入っているのは、ここ庭先に咲く花。塀の途中で鉄格子になっているところから、のぞいて見る。

 春は桃から桜、初夏からバラ、ラベンダー、秋は金木犀が香る。

 他にも季節ごとの花が手入れ良く咲いていて、この家の前では歩みがゆっくりになる。


 たまに初老のおばあさんともう少し若い感じの女性がふたりで草抜きをしたり水をまいたりと、お庭のお世話をしている姿も見る。


 学校帰りにその家の手前で、隣の部屋に住んでいる相田さんが前を歩いているのを見つけた。


 彼女は塀に着いたところで立ち止まり、庭を見た。

 私は少し早足にして、彼女に近づき、声をかける。

「あぁ、朝陽さん。あのね、バラの剪定がされていないなって思って」


 彼女はスレンダーで姿勢がいいせいか、身長が高く見えるけど並ぶと私と身長は変わらない。

 エステティシャンをしていると言っていた。

 切れ長の瞳、サラサラのセミロングの髪、カッコいい女性だなと思う。


 その彼女がしかめっ面をしていると少々、怒っている顔に見えるな。

「バラ? 剪定って今頃するんですか」

「冬のね。んーというか、秋の剪定もしていない。気になっていたのよね、ここ綺麗にしているから」

「秋と冬に剪定するんですか」

「そうなの、枝が伸び伸びでしょ。細い枝が残ったままだと形が悪くなるし、たくさん咲かないのよ」 

「たしかに、今のまま咲いたら不格好ですね。ここの家らしくない感じ」


 そして、いつもお庭の手入れをしているふたりを最近見ていないことに気づいた。

 相田さんも気がついているんだろう。彼女はうなずいて、悩まし気なため息をついた。


「よその家の庭だから、何も言えないけどね……」


 そういえば、今日はピアノの音が聞こえない。

 教室はおやすみかな。


「ウチがどうかしましたか?」


 後ろからの声に私と相田さんはハッと振り返ると花束を抱えた男の人。

 ひょろりとした細身で背が高い、眼鏡をかけた顔は童顔で着ているスーツがあまり似合わない感じ。  花束も。

 二十代前半か、もう少し上か。 


 相田さんは庭を指さして、

「バラの剪定はしないのですか? 気になっていたんです」


 彼は、彼女と庭を交互に見てから、え? と首をかしげて、

「バラ、剪定ですか。新芽がでているから、このままでいいのかと」

「ダメです。今の時期にこれの三分の一くらいにしなきゃ。細い枝ばっかり増えて、カッコ悪くなりますし、たくさん咲きませんよ」

 相田さんの間髪入れない返答に彼は少し戸惑ったように、瞳を庭に移した。

「そうですか。いつも祖母……、世話をしている者がしばらく不在になので、もう少し暖かくなったら、庭師さんを頼もうかとは思っていたんです」

「ちょっと調べればわかります。難しくありませんよ」

「わかりました。ただ、棘って大丈夫でしょうか? 僕、指が大事なんですが」


 少し、瞳を細くし、口元にゆがめるような笑みをした相田さんは、わかりやすく相手を小馬鹿にしている表情だ。

 彼もそれに気づいて、ムッとし唇を尖らせた。


 私は慌てて、口を出す。

「あのっ、ホームセンタとか百均で園芸用の指先がコーティングしてある手袋あります。それなら、大丈夫です。それにおばあさんが使われたのが、おうちにないですか?」

 ふたりを交互に見ながら、早口で一気に言う。


 私と瞳が会った瞬間、相田さんがふっと息を吐き、微笑む。

 そして、彼に顔を向きなおして小さく頭を下げた。

「ごめんなさいね、余計なことを口出して。朝陽さん、帰りましょう」

 私も相田さんにならい、頭を下げた。

「え? あ、はい。失礼します」


 数歩、彼から離れたところで、後ろから追いかける足音が聞こえた。

「待ってください、あの……」


 私はすぐに彼の方に振り返った。

 でも相田さんは足を止めたけど、振り返らない。

 そのせいか、彼は私達を追い越して回り込みように前に立つ。

 そして、手に抱えていた花束から、カサブランカを抜き、差し出す。

「よろしければ、この花、嫌いなので、もらっていただけませんか?」

 相田さんが無反応なので、私が手を出して、受け取る。


 この百合独特の強い香りが鼻をつく。

「はぁ、いいんですか?」

 彼はうなずき、微笑む。

「花束ごとお渡ししたいのですが、教室の子から……。今日、会でたくさんいただいた、おすそ分けなんです。その子が来るときに、この花束が飾っていないと悪い気がするので」

「それでは、遠慮なくいただきます」

 私が言いながら頭を下げると、それが合図のように相田さんは会釈し、早足で歩き出した。


 彼は彼女を目で追い、すっと、瞳を細くした。

 睨むようにも見える表情だ。

 確かに相田さんの態度はあんまりだと思う。


 私は、彼の気がそれるように、明るく大きな声で、

「ありがとうございます!」

 彼がはっと私を見たので、もう一度頭を下げ、相田さんの後を追った。


 私が追いついて、隣に並んだと同時に彼女は歩をゆるめて、こちらを見た。

「ごめんなさいね、気を使わせて。大人げなくて」

 弱く微笑む相田さんはきつい印象がなくなって、幼く見えたから、思わず、思ったことが口に出た。

「本当ですよ。少し、怒っていたようでしたよ、あのひと」


 おや、と瞳を見開き、照れくさそうに苦笑し彼女は頭を掻いた。

「だって、なんか、情けないっていうか。嫌いなのよね、男」

 ん? 男が嫌い? ああいう男の人がではなく? 手に握っている百合を見て彼女を見る。

 私の視線に気づいた相田さんは否定するように手を振った。

「そっちじゃないのよ。女の人しか好きになれないとかじゃなくて、苦手、か」


 受け取った百合は四本、二本を差し出すと彼女はありがとう、と受けとった。

「この花、香りが強いし、花粉がつくと厄介じゃない。蕾が開いたら、花粉取ったりしないと面倒。だから、あのひと、譲ったのかしら」

「嫌いって言ってましたね」


 私のひと言にふと、彼女は視線を下にした。


 私は思い出すように顎を上げて空を見る。


 ふたりで同じことを考えているのかもしれない。


 あの庭に季節折々に咲く花。梅、桜、違う、チューリップ、スズラン、水仙、バラ、ラベンダー、ひまわり、コスモス、菊……。


「百合系統を見たことがないような気がする」


 考えてたことが、知らずに口から出ていた。

「そうね……、たしかにそうだわ」

 だからといって、何がどうとかはないけれど、趣味のことだし。ただ、

「嫌いだからあげるってあまり言わないと思う。せめて、苦手? 知っている人にならともかく、今日、初めて会った私達に言うかな」

 相田さんは、ふんっ、と機嫌の悪そうな鼻息を出して、

「それくらい無神経というか、言葉を知らない坊ちゃんかってことじゃない?」

 容赦ない言い方につられて、

「辛辣っ、強気っすね」

 相田さんは私の言葉を受けて、ふふっと笑い、すうっと無表情になった。


「昔ね、ん、この仕事始めて一年くらいかな、男性もOKの大手サロンに勤めてたの。そこでちょっかいだされたのよ。やんわり断ったら、なんでか逆上されて。施術の最中に押し倒されたの。怖かった。まさかそんなことされるなんて思っていなかったから、声なんて出なくて。でも、その拍子にワゴンを倒したから、その音で皆が気付いて助けてくれたの」


 想像するだけでゾッとする。個室で声も出ない状況、男性に恐怖心が芽生え、苦手になるのは当然だ。


「この仕事は好きなの。でも、もう男の人は絶対、いや。だから今は女性限定のサロンに勤めているの」

 そして、急に拳を突き出して、

「まぁ、私もスキがあったかも、とか声が出ないなんて情けないと思って、それから空手を習っているのよ。拳ダコ作らないように気をつけてね」


 なるほど。

 だから、あんなふうに男性に対して強気になれるのか。


「あの男、剪定すると思う?」

「素直な人なら、しますよね」

「まぁ、指がどうのこうのいう時点で、ないわね」

 相田さんとうなずき合う。


 私も確信している。


 あの人は、やらない。


 ただ理由は、指どうこうじゃないかも。

サブタイトル難しい。

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