恋バナにもならない 母
「……と、思うんだけど、どうなのよ?」
私の恨めしそうな顔を見て、モニタの中の母は愉快そうに声をあげて笑った。
彼女の笑顔は翔によく似ている。
「朝陽、鋭い、さすが。まぁ、彼が会えるかは、イチかバチかくらいにしか思っていなかったけどね」
拍手のリアクションまでしてる。
「だって、こんな風にしか会えないじゃない。彼氏ができたなんて言ってくれなきゃ、わかんないことでしょ」
やっぱり、そうだった。
母のパートナーは私が彼氏のチョコを買ったか確認するよう、任命されてた。
翔だって、誘導尋問的に、私にバレンタインにチョコをあげる男の人がいないことを、確認したようなもんだ。
なんなの、ふたりとも。
「聞いてくれてもいいのよ? それにできたら、言うわよ。ちゃんと」
彼女は少し、顔の角度を斜めにして、きらりと瞳を光らせた。
「そこで締めるということは、今現在もいないのね」
鋭いツッコミ。翔もだけど、こういうところもふたりは似ているな。
でも、当たっているから、何も言えない。
「好きな人もいないの?」
「……ない」
「んー、ちなみにこんな感じの人がいいとか、理想とかあるの? 好きな芸能人とか」
「げーのーじん……、見ればカッコいいと思う人はたくさんいるけど。うーん、理想ねぇ」
私のはっきりしない態度に母が驚いたように瞳を見開いた。
「え、ないの? ほら、見てくれがいいとか、背が高いとか、優しいとか、賢いとか、スポーツができるとか」
言っていることはわかるが、どれも、ピンと来ない。
「うーん、そういうことかぁ。でも私、わかんない……でも」
母は瞳を薄くして、眉をひそめた。その私を気の毒そうに見る表情のまま、がっくりと頭を下げてしまった。
え、なんでそんな風に見られて、がっかりされなきゃならないの。
続きがあるのに。
「あのね、こんなカップルもあるんだなって、すごいなって思ってね」
ん? と問うように母は顔をあげた。