バレンタインのチョコ事情 ほんのりの謎
「私が贈った、去年のと今年のを食べたから、改めて、毎年、美味しいって思ったのよね」
「そう、だね。うん、だから、違うメーカーで微妙に味も違うけど、いつも好みに合っているって、不思議だって、どこかで思ってたんだ」
ふたりでうんうんとうなずき合い、笑った。
「今、思うと聡い人だと思う。気に入った。お母さん、いい人とパートナー組んでるね」
翔は笑いを急にひっこめて、顔を引き締めて真剣な表情をした。
そして、一瞬、何かを考えるように、瞳が泳いだ。
どうかした? というように、私が首をかしげると、彼も同じ動作をして、
「一個、まだ残ってるの?」
「うん」
「それ欲しい。今度、そっち行くときまで、とっといて」
「賞味期限内までよ。そのあとはいただきます」
「行くから、絶対。食べちゃダメ」
むきになった子供っぽい言い方に頬が緩む。
「わかった」
ふと、その母のパートナーのあのきょとんとした表情を思い出した。
あれは、私が身内用のチョコしか買っていないことの疑問だったんだ。
彼の場合、バレンタインといえばボーイフレンドに用意するのが前提の知識だろう。
まてまて、もしかしたら、それが目的だったか? 母から調べてこいと指示が出てたかもしれない。
運よく出会って、名乗って、お母さんから頼まれてといって、私の彼氏の存在を確認するところが、話しの流れで私が白状したから任務完了で名乗らず去ったか。
「なんか、怖い顔してるよ?」
「失礼ね、考えてる顔よ。翔さ、そのパートナー他に何も言ってなかった?」
ん? と少し考えて、
「チョコ売り場のすごいことやさっきの日本のバレンタインのチョコを渡す相手の変化ぐらい。そもそも、そっちで会ったことすら聞いてないよ、俺は」
お母さんめ、あとで問いただしてやる。