バレンタインのチョコ事情 あれ?なんか?
「結局、渡せなかったから、自分用がふたつになっちゃった。数、合うでしょ」
翔は画面に顔を戻しているけど、何か考えるように瞳をふせている。
この間が不安になる。
機嫌が悪いのかと心配になって、こちらに意識を持たせるように早口で話しを続けた。
「もともと、行事に乗っかりたいだけで、売り場楽しいし、みんなが買うんだもん。気持ちがつられちゃって、つい、買っちゃうのよ」
彼は一度、うなずいてから、ついっと、顔を上げてこちらを見る。
「何? 気に入ったの、その人のこと」
翔の言い方は正しいような気がするけど、近い感じだ、好感持てるみたいな。
「そういうのかなぁ? ただ……、ん、お父さんの代わりにそのひとにあげたかったかもしれない。うん」
言葉にすると、そうなんだろうと、しっくりきた。
「もしかすると、んん、きっとだけど、その人、母さんのパートナーだ」
母が仕事を一緒にしている人、研究でチームを組んでいると言っていた。
「え? あ、そうなの? なんで」
「それくらいの時期、日本に行ってて、去年もらったチョコと同じメーカーの土産にもらった。偶然と思ってたけど、そうか。さっき、言った日本のバレンタイン状況は彼に聞いたんだよな……」
「なるほど……偶然、ね」
少しの間、ふたりとも考え込み、沈黙。
私は二月の始め、母と話したことを思い出す。
今週の土曜日に亜紀とチョコを買いに行くことを伝えるとなぜか、何時ごろ、どこへ行くのと聞いてきた。
あのときは、話しの流れ的感あったけど、振り返ると、時間まで聞いてどうするって感じだよね。
もしかしたら、それをその時期に日本いるパートナーに伝えたのだろうか。
私の画像を渡して、会ってきてと。
インフォメーション辺りなら見つけられると思って張っていたのかもしれない。
ただ、あの呆けたような顔は本当に売り場を見て驚いていたんだろうけど、ここで見つかるのかと不安になった表情ともいえる。それなのに近くにいて驚いただろう。
見ず知らずの女の子に話しかけることができたのもわかる。
警戒されたら、母の名前を出せばいいし。
パートナーへのお土産のチョコレート。
好みを知っている私の選んだチョコならパートナーである母はきっと気に入る、ただ、今年と被ってしまうのはよくない。
だから、去年のものをと言ったのだ。
というより、あの売り場でいろんなブースを見るのがいやだ、手っ取り早くという思いの方が強かったに違いない、合理的な人かも。
ただ、名乗ってもよかったんじゃないか、あと私に何か用があったのか。