来日連絡 翔
突然のコール。気づいて、アプリを立ち上げる。
「ごめん、突然。来週末、あいてる? 会いに行くけど」
「え、うん、大丈夫。急だね」
「ちょっと、調整出来たから。今の時期逃すと、いつになるかわかんないからさ、俺だけ」
「お母さんは?」
「今回は都合つかない。仕事が大詰めでね。そのかわりに、プレゼントを一生懸命、選んでる。期待してて」
いつもは、おかあさんが一緒か、彼女だけが来たりだったけど、来ないってことは、
「うん。そうかぁ、初めてね、翔がひとりで来るの」
翔は、何かに気がついた様な感じで少し瞳を上げて、私を見る。
「そうだね。で、日にちと時間は決まったら、メールする」
翔がひとりで来る。急だから、多分、短い滞在。
なぜだか、ふと、このあいだの母との話しを思い出した。
「ん、わかった。あ、あのね」
モニタ越しなのに、引きとめようと手を伸ばす。
それに気がついた彼は少し、画面に近づいた。
しまったと思って、伸ばした手をすぐに引っ込めた。
「ん?」
(翔、彼女いるの? 好きなひといる?)
聞けないな。
答えが怖い質問なんて、するもんじゃない。
母や翔に自分だけ置いてきぼりにされることが、怖い。
自分を納得させるように、ゆるゆると首を横に振り、口元を笑ってるように上げて、
「なんでもない。待ってるね」
彼は少し、眉をひそめて、
「それじゃ、気になるよ? なんかあったのか?」
もう一度、否定の意味の首を振って、
「あのね、その時期はホテルの予約、早くしないと、不便なとこしか取れないよ?」
翔は、唇を尖らせて、瞳を細めて探るようなまなざしを送ってくる。
「そんなの、知ってるよ。あのさ」
彼をなだめるように、両手の手の平を押し出して、
「ごめん、大丈夫、これホント。あ、そうだ、チョコまだあるから、ね」
翔はぴくっと眉をよせてから、うつむいて、私から、視線をそらした。
「だから、やなんだ。こういう時、側にいられないの」
とくんと、一回、心臓が違うリズムを刻んだ。
側に、なんて。いつまで、言ってくれるのかな。
「なら、いいよ。じゃ、また」
「あ、うん、また」
私の返事を最後まで聞いたかどうかわからないくらいのタイミングで、画面の彼が消えた。
こういう終わり方は、彼の機嫌が悪いのが一時的なのか、ずっと続きそうなのか、わからない。
次に会うまで、ずっと不安だけ残る。
次がいつになるかも、こちらからのアクションに出てくれるのだろうかの、不安な置いてきぼり感。
私だって。
(だから、やだ。こういう時、側にいられないの)
同じだよ。




